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王子様と大学祭 1

大学です。

清乃の日常に近い話です。

【あっいたいたキヨだ。キヨー!】

【今度こそ本物】

 彼らは何をやっているのだろう。

 清乃はわずかに眉をひそめ、軽く会釈をしてからつい、と眼を逸らした。


【……あれっ?】

【え、またニセモノ?】

「なわけあるか。姉ちゃん! 他人のフリすんな」

 さすがに弟は誤魔化せなかった。当たり前か。

「したくもなるわ。なんでその子たちいるの。アポ無し訪問はお国柄なの?」

 呆れ顔の清乃に、明るい茶髪のロンが反論する。

「キヨが携帯番号を教えてくれないからだろう」

「そーだそーだ」

 多分よく分かっていないまま、適当に言っているのはオスカーだ。

「必要ないでしょ。全員からバラバラに連絡来たら返信面倒臭い。誠吾かユリウスを通してよ」


「キヨって俺たちのこと一匹のドラゴンだと思ってる? ひとりの人間カケル六だからね。俺個人を見て欲しい」

「て言われても。誠吾、想定外のことが起きたらすぐ連絡しなさいっていつも言ってるでしょ」

「俺も知ったの今朝だからな。学祭行くって話はした覚えあるけど、こいつらが来るなんて聞いてない」

【いやー、似たような女子いっぱいいるから、だんだんとキヨがどんな顔してたか分からなくなってきちゃって】

 欧米人らしい識別能力だ。

 アッシュデールでは黒髪の小柄なアジア人、というだけで充分な特徴になった。海では多分、服装で見分けていた。


 ここは日本の大学である。

 大学祭の最中、誰でも出入り自由となった敷地内は人でごった返している。

 部活やサークル単位で運営している屋台がいくつも出ており、普段とは違う賑やかな光景だ。

 清乃はいつも通りロンTにカーディガン、ブルージーンズという地味な格好である。地味、というのが特徴といえば特徴かもしれないが、似たような格好の女子学生は珍しくない。

 欧州から来たふたりは混乱してしまったのだろう。

【オスカーのは半分言い訳だ。さっきのひとは全っ然似てなかった。間違えたフリしたナンパだろ】

【気づいてたなら協力しろよ。ロンが白けた顔で立ってるから失敗したんだ。責任取れよ】

【責任持ってキヨを見つけただろ!】

【なんか知らないけど、問題起こしてもあたしを呼ばないでよ。じゃあ、楽しんでってね】

「【待って待って待って!」】



 清乃は大学では一応、映画研究会に所属していることになっている。

 中学高校では、部活に入るのが半ば強制されていた。ならばと茶菓子目当てで茶道部に入ってのんびり活動していた。大学でまでやる気はない。

 そんなやる気のない一年生だったときに、アルバイト先の先輩に誘われて顔を出してみたのだ。

 年に一、二本ほど映画っぽいものを撮ったりすることもあるが、基本的には観るのが好きなひとの集まりである。清乃も観るだけなら好きだ。人数が少ないから、助けると思って、と懇願されたこともあり、たまに顔を出す程度の緩い所属の仕方をしている。

 学祭では映画の登場人物のコスプレをしてクレープを作っている。清乃も当番の時間になったら某ホラー映画の扮装をすることになっているのだ。


「それでその格好」

 忙しいからまた後でね、と手を振って別れた後で合流したロンが、納得の表情で頷く。

 ひらひらした白いロングワンピース、黒髪ストレートロングのカツラの前髪を適当に後ろに払っておけば、そこまで奇異な姿ではない。それが逆に恥ずかしいと、清乃は上にロングカーディガンを羽織って私服の振りでベンチに座った。

「そういうこと。はいこれ。クレープ」

「ありがとう。その映画は観たよ。ユリウスが怖いから観ろと吹替版のDVDを回してきたから」

【あれ怖かった〜。俺しばらくテレビ画面見れなくなった】

 ロンとオスカーは、ふたりとも秋色のジャケットを着た綺麗めスタイルだ。

 同じ十八歳の誠吾はTシャツにパーカー、近所を歩くような気楽な格好で、彼らよりも幼く見える。まあ元からだが。

「それこんな感じだった?」

【ぎゃあっ】

 清乃がカツラの長い髪を前に持ってくると、オスカーが喜んで怖がった。

「喜ぶんだ」

 ノリがいい。見習おう。

【写真撮らせて。帰ったらユリウスに自慢しようっと】

【やめとけ。拗ねたら面倒だ】

【えっユリウスに黙って来てるの? あたしさっきメールしちゃったよ】

【早速バレたかあ。ならいいか。撮ろ撮ろ。自慢しよ】

 清乃はこいつら何しに来たんだ、と思いながらも再び長い人工毛で顔を隠し、向けられた携帯目線になった。

【心霊写真が撮れた!】


 大学では留学生の姿を見ることも珍しくない。ロンとオスカーはユリウスほど目立つ外見ではないため、注目されることなく学祭の空気に馴染んでいた。

「あっいたいたきよっち。髪長いから分かんなかった」

 目の前を通り過ぎようとしていた友人が、途中で引き返してきてコスプレを笑う。

「さっきクレープの当番終わったとこ。着替える時間ないからこのまま来ちゃった。行こっか」

「えっ」

 ロンが慌てる。

「えっじゃないよ。先約優先に決まってるでしょ。誠吾、ステージはあっちだから。じゃあね」

 お坊ちゃんどもめ。いつでも自分たちが優先されるとでも思っているのか。

「この子がきよっちの弟? 似てるねえ。高三だっけ?」

「どうも。姉がお世話になってます」

「大学ここ受けるの? 下見?」

「や、自分そんな頭ないんで。ステージ観に来ただけっす」

「芸人好きか」

「です。一回見てみたかったんすよ。田舎では見れないから」

【はじめまして、キヨのお友達。俺たちもご一緒してもいいですか?】

 オスカーがお得意の女たらしの笑顔を見せる。

「えっあたしは別にいいけど。こちらは弟くんのお友達? もしかしてユリウス君の関係者?」

「はい。ロンと呼んでください。こっちはオスカー」

「ヨロシク」

「ねえ、何勝手に自己紹介してるの? あんたたち何しに来たの?」



 いや、ほんと何しに来た。


「へー。ロン君は医者のタマゴかあ。アタマいいんだねえ」

 友人の展示物を見たり屋台を見たりと構内を巡った。その後はひとりでステージを観に行っていた誠吾も合流して、人の少ない場所を探して腰を落ち着けている。

 一緒に廻る約束をしていた女友達は三人。

 女四人で楽しむ予定だったのに、男子高生ひとり、外国人ふたりが加わった。正直邪魔、と思ってしまう。


「そこそこ」

「ね。日本語も上手いし」

 何故馴染んでいる。

「オスカー君は?」

「ケイエイがく。にほんごはスコシ」

 初めて知った。と言っても彼らは九月に大学入学したばかりの新入生のはずだ。まだ新しい生活に慣れるのに必死な頃だろう。

 なんと言っても上流階級のお坊ちゃんたちだ。寄宿学校と一人暮らしとでは家事負担が違うはず。

 でもまさか、お手伝いさんとかいたりするのか。ウソ、お金持ち羨ましい。


「ドイツかあ。きよっちの周り、最近国際色豊かだよね」

「ドイツは留学先でしょ。全員同じ国のひとだからね。この子たちは弟の友達だし」

「ほんとに俺たち友達だと思われてないのか。ショックだ」

【恩人だとは思ってる。だから夏には全力でもてなしたでしょ】

 金銭を受け取るから、という理由もあったが。

【ユリウスはこの冷たい感じがツボなんだろうな】

【やっぱユリウス君そうなんだ。ちょっとMっ気あるなと思ってた】

「ねえ、だから十代の子にそういうこと」

【分かる? あいつあのカオだから、俺様キャラを求める女の子もいるんだけど、全然できないんだよ。アイドルが身についてるから、反射的にニコニコしちゃうの。キヨにあしらわれてもメゲずにニコニコ】

 英語が通じると知ったオスカーが、調子良く喋っている。


 ここは一応国立大学だ。満遍なくテストの点数を取れる人間でないと入学が難しいところである。専門でなくても、ある程度英語のヒアリングができる学生は珍しくない。

「いいと思うよ、可愛い弟。きよっちはそこがツボなんだもんね。この子はこのカオでお姉ちゃん役やりたいんだから」

「このカオって何。歳上の彼氏探してるって言ったでしょ」

「出た出た。口だけ」


「もー。誠吾、この子たち連れてそこら辺廻っといでよ。お小遣いあげるから」

 財布から千円札を出して持たせると、弟はすぐに動いた。

「ロン、オスカー。行くぞ。日本の大学探検しようぜ」

「えー。俺たちが何しにここまで来たと思って」

 だから何しに来たんだよ。

【まあまあ。いいじゃん。ちょっとだけ遊んで行こうぜ。キヨ、また後でな】

【バイバイ。問題起こさないでね〜】

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