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王子様と盆休み 5

 同窓会の会場は、中学の同級生の実家が営むお好み焼き屋だった。

 中三のときのクラスは四十人だった。同窓会出席者は三十一人。お盆のためか、なかなかな出席率だ。

 高卒で就職した者は社会人三年生、短大卒は新卒か。清乃のようにまだ学生をしている者は半分ほど。

 社会人と学生と、なんとなく雰囲気が違って見える。

「おー久し振りー。杉田と、今は高橋、だっけ?」

「一月振り。みんなちょっと大人んなったね」

「キヨちゃんは全然変わんないねー。まだセーラー服着れそう」

「確かに。おまえが着たら完全にフーゾクだけどな」

「行ったことあんのか」

「会社のセンパイに連れてかれた」

「サイテー」

 姦しい。そこここで大きな笑い声が上がっている。まだ乾杯前のはずなのに。

 大勢で騒ぐの苦手、な清乃だが、子ども時代を共有した同級生の集まりではあまり気にならないのが不思議だ。

 昼間から一緒にいた綾も清乃と似たような性質だが、楽しそうに笑っている。

 人生初同窓会、悪くない。


「アヤちゃんママになるのかあ」

「あの高橋センパイがパパ……」

「キヨちゃん、高橋センパイとは和解したの?」

 清乃と高橋の過去を知る同級生は興味津々だ。

「和解も何も。元々喧嘩してたとかじゃなし」

「嘘つけ。小さい怪獣キヨゴンが」

「古いアダナを出すな!」

 前言撤回。同窓会、何が出てくるか分からない。怖い。

「チビの杉田が六年を倒したって、しばらく俺らビビって杉田に近寄れなかったもんな」

 昔話に花を咲かせるのは、小学校から同じだった男子だ。


「今は大学生だっけ」

「うん。そっちもでしょ」

「一浪したからまだ二年だけどな」

「アヤちゃんは結婚、キヨちゃんは? 彼氏とかいるの?」

 中学時代から清乃と綾は大体セット扱いされている。綾が結婚なら清乃にも何か変化があったかと考えられるのだ。

「訊かないでよ。いるように見える?」

「見えないけど」

「えーでもキヨちゃん、外国の」

「アヤちゃん、冷たいものばっか飲んで大丈夫なのっ?」

 綾が余計なことを喋り始めたから、清乃はすかさず話題を変えようと試みた。

「えっ何なに? キヨちゃんの彼氏ガイジンなの?」

「だから違うって。絶賛募集中です。歳上の素敵な筋肉探してるので、お心当たりのある方は是非ご紹介ください」

「えーそうなの? じゃあ今度一緒に合コン行く?」

 そう言うのは、中学ではそうでもなかったのに、高校短大と進学するたびに派手になっていった社会人一年生だ。

 今は髪こそ落ち着いた茶色だが、ネイルが派手だ。仕事もこれで行っているのだろうかと、つい見入ってしまう。


「明日大学のほうに戻るんだけど」

「よし分かった。今から呼ぶ。二次会行かずに合コンしよ」

「えっ何その行動力。ついて行けないんだけど」

「ついて来い。友達に同窓会があるって言ったら、フリーの子いたら紹介しろって頼まれてんの」

「……えっと。でもあたしこの格好で行ったら失礼じゃない? 弟の服なんだけど」

 今日夜脱いで明日朝洗濯、だとアパートに持って帰れないな、と思って拝借してきた変な柄のTシャツだ。

 地元だし。一月に成人式で会ったばかりの中学の同級生しか来ないし。まあいいかと思ったのだ。

「やる気ない格好してると思った!」

「やる気。何を」

「同窓会での再会に期待はなかったのか」

「このメンバーで?」

「そんなこと言ってるから彼氏出来ないんだよ。すごいイケメンになってる奴がひとりくらいいるかもとか考えないの?」

 なるほど。常に臨戦態勢でいるべきなのか。リアルな戦経験なんか人生の糧にはならない。地元の現役女子の話を聞いておこう。

「勉強になります。そんな進化を遂げた人はいないみたいだけど」

「ひでえな。あのへん見てみろよ。都会に出て調子に乗ってる奴ら。どーよ」

 外見は判断材料にならない。美形慣れし過ぎてしまったのだ。全部イモにしか見えない。

 王子様との付き合いに、思いがけない弊害が出てしまっている。

「もうこのなかはいいよ。二次会誰でも呼んでいいことにしよ。会社の人とか、違うクラスの人とかも」

 それくらいなら気楽だ。男子高生の変な服を着ていても誰も気にしないだろう。

「よし。じゃあ二次会は合コンの練習ってことね。頑張る」

「キヨちゃん本当にいいの?」

「何がよ。あたしは彼氏つくるって決めたの! 頑張るの!」


 頑張ろうとは思ったのだ。

 アヤを迎えに来た高橋の車が去って行くのを店内から見届けてから、二次会会場の小料理屋へ歩いて行った。

 田舎町は大人数で飲める場所が限られているため、法事やら会社の宴会やら、何かと使われる店である。

 同級生ばかりの一次会はそれなりに楽しかった。

 知らない人が増えた二次会は、思ったよりも合コン感が強くなって逃げ出したくなってしまった。

 ので逃げることにした。

 父にメールで迎えを頼むと、もう飲んだから無理、誠吾に行かせる、との返信が来た。

(自転車じゃん!)

 とは思ったが、予定になかった二次会に出席すると言った清乃に文句を言う権利はない。


 適当なところで外に出て待つことにすると、誠吾が来んの? 久し振りに顔見たい、と男子がひとり付き合ってくれることになった。

「杉田さあ、彼氏欲しいって本気?」

「本気本気」

「じゃあさっき隣で飲んでた緑のポロシャツ、どう?」

「どう、と言われましても」

 酔いが回った頭で記憶を掘り返してみる。

 背はそれなりに高かったけど、ユリウスよりは低かった。あの子とうとう百八十越えた! って喜んでたしな。どこまで伸びるつもりだろ。

 筋肉はあんまり。半袖から見える腕はユリウスよりも細かった。

 話を振ってくれたからそれなりに受け答えはしたけれど、ノリの合わせ方が分からなくて場を白けさせてしまった気がする。

「あいつ俺の高校の同級生なんだけど、杉田に連絡先訊いてもいいのかってモヤってる」

 それはまた酔狂な。

「あー……。っと、なんかあんまり話せなくて申し訳なかったから、連絡しても気まずいかな」

「あそ。やっぱ本気じゃねえんじゃん」

「本気だよ。ただ話合わないかなって思っただけ」

「嘘つけ。最初っから最後まで引いてただろ。だからアイツも直接訊けなかったんだよ」

 小学生の頃からの知り合いは容赦無い。

「だってああいう場所苦手なんだもん……! どうすればいいの」

 清乃が不貞腐れると、昔馴染みは知らんけど、と前置きしてから見解を述べた。


「杉田は見てくれそのものは悪くない。すげえ美人ってわけではないし、その服は変だけど」

「ほっとけ」

「素朴な小さい女子が好きな男は少なくない。可愛いって言ってる奴も、昔から一定数いる。だけど男を拒絶する空気が強過ぎるから、男が寄って来ない」

「……そうなの?」

「中学のときから言われてた。今もそのまま。変わってない」

「…………どうすれば」

「知らね。男つくれば?」

 肝心なところで投げられた。

「だからどうやって!」

「おっ誠吾! 久し振りー!」

「ちゃっす」

「おまえいまだに姉ちゃんに使われてんのな」

 セイちゃんじゃーん、と店内からガヤガヤと数人が出てくる。同じ小学校出身の子ばかりだ。三学年下の誠吾のことを覚えている。


「やー相変わらずかわいー。ちっちゃーい」

「いやいや、見上げてんじゃないすか。俺もうすぐ百七十すよ」

 そのもうすぐ、はおそらく一生やって来ない。

「おまえハタチの姉ちゃんに服貸すなよ。杉田せっかくの出会いを逃しまくってたぞ」

「俺は止めたんすけど。中学の同窓会だから問題ないって」

「問題しかねえ」

 酔っ払いとアホな高校生の絡みは長い。キリがない。

「もう帰るよ。誠吾漕げ」

「えー、まだいいじゃん。セイちゃんもちょっと飲んでいきなよ」

「この子まだ高校生」

「ジュースもあるから。なっ誠吾!」

「じゃあちょっとだけ」

「おい」

 中に戻りたくない清乃が慌てるが、誠吾は自転車を店の前に停めて乗り気になっている。

「姉ちゃん先帰ってて。そこに迎えのチャリがもう一台来てるから」

「?」

 誠吾の指差した先の暗がりには、自転車に跨ってこちらを見ている人影があった。



「…………十分したら出てきなさいよ。そこのコンビニで待ってるから」

 不機嫌を装った清乃は弟に言い置くと、何、誰、と騒ぐ同級生に手を振って去って行った。

 暗がりに見える人影がふたつになって、またいつもの微妙な距離感を保って歩き出すところまでを見届けてから、誠吾は店に入った。

「なんだ、彼氏いるんじゃん」

「彼氏ではない、らしいすけど」

「あんなカオしといて?」

 バレてら。

 思いがけず会えて嬉しい、の気持ちを隠し切れていない顔。

 多分無自覚。酒が入って普段よりも頭がボヤけているのだろう。

「さあ。らしいっすよ」

「びっくりした。キヨちゃんが可愛いカオしてた」

「おれも。一瞬美人に見えた。ヤベ」

「あ、マジすか? あれもらってくれます? 今日からお義兄さんと」

「いやあ、怪獣キヨゴンはちょっと」

 懐かしいあだ名だ。小学生の清乃は、普段大人しいのにキレたらやべえ奴、と言われていた。例の事件の後に付けられたあだ名だ。

「やっぱ地元は無理かあ」

「キヨゴンの奴、彼氏欲しいって言うから友達呼んでやったのに。女の彼氏募集中、はもう信じねえ。誠吾も気をつけろよ」

「っす」

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