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王子様の夏休み 19

 マイムマイムに疲れ果てた清乃は、早々に輪から離れた。

 リビングのソファに座って、交代で楽器を演奏する芸達者な外国人を眺める。

 ふたりペアで踊る曲になったら、男女比の問題で男同士ふざけながら手を取り合い出している。

 誠吾、おまえもか。なんとなくで動ける彼の運動神経には、清乃との血の繋がりに疑いを挟む余地が見える。

【そろそろ花火にしない?】

【やるやる!】

 ひとりが言い出すとテキパキと準備が進められ、清乃はまた促されるままに移動するだけだ。

「あたしさっきから何もやってないな」

「何を言っている。これはキヨの叙勲を祝う会だぞ。キヨは楽しめばいいだけだ」

「マイムマイム覚えたり?」

 最初は嫌だったが、踊れるようになると楽しくなった。

「生演奏聴いたり」

「それは贅沢だと思ってたところ」

「たのしいとおもったらわらってやれよ。あいつらキヨをたのしませようとひっしなんだぞ」

 口を挟んだフェリクスには、ユリウスが返事をしてくれた。

「あれは自分たちがやりたいからやってるだけだ」

 清乃の眼にもそう見える。

 でもそうだな。笑うべきか。

 人を楽しませられる特技がないのだから、せめて楽しそうにしていよう。

【キヨは自分の価値をもっと自覚すべきだ。おまえが笑うだけであいつらは喜び、そこの王子は満足する】

「けっ」

 反射的に嫌悪感を示した清乃に、フェリクスは嫌な顔をした。

【……そんな反応するような話したか?】

「けっ」

 もう一度同じ音を出してから、清乃は花火を振り回すアホの子たちに駆け寄った。

『フェリクス、おまえ最近説教臭いぞ。チャラ男は廃業することにしたのか』

『まあな。そろそろそんな時期だろ。準備が必要だ』

『オレは自分の準備は自分でやる。もう大人だぞ。放っておいても大丈夫だ』

『……そうか』

『そうだよ』


【ユリウスこれ、花火まとめて浮かせてみようぜ! 海の上でバチバチって】

 火のついた一本を高く上げて遊んでいたPK組が、もっとやろうとユリウスを誘う。

【オッケー。やってみるか】

【ちょっと、やめなさいよ。向こうのビーチからも見えちゃうでしょ】

【騒ぎになったら面倒だから。打ち上げ花火で我慢しとけ】

 明日以降も普通に日本で暮らすふたりで超能力者集団を諌める。

【おまえたち、問題起こしたら親に報告するぞ】

 マシューが静かに脅すと、はーいと素直な返事がある。

 全員進学先が決まっているのだ。来月からの大学生活に監視を付けられたくないと言っていた。

「明日帰っちゃうのか」

 海なんて嫌だと言いながら来たけれど、案外楽しかったなと清乃は思う。

「寂しい? 今月もう一回くらい来ようかな」

「あんまり無理しないでよ」

 王子様にとって交通費は大した額ではないのかもしれないが、彼はそんなに暇ではないはずだ。

「寂しいは否定しないんだな」

 花火を見ながらニヤニヤする王子様。

「楽しかったからね。またみんなでおいでよ」

 清乃がしれっと返すも、ユリウスは嬉しそうな笑顔のままだ。

「次はひとりで来る」

「ふうん」

「キヨは男に囲まれることを嫌がる。カタリナにべったりになっても文句を言うなってフェリクスが」

「またチャラ男教の教えか」

 たまには正しいことを言うらしい。

「あと万一キヨが水着になっても過剰反応するな、次の日から着なくなるぞ、だって」

「………………」

「一緒に海で遊ぶつもりで来てくれたんだって嬉しかった。可愛いって言いたかった」

「……よし分かった」

「オレはどの骨も好きだし、肉も好き」

 王子様が言っていい台詞ではないな。

「もういい」

「脇腹の肉の謎も解けた。あの日オレが掴んだのは、脇腹丸ごとだったんだな。一部をつまんだつもりだったから驚いたんだ」

 無言で右の裏拳を叩き込むと、ユリウスがうめいた。

「ちょ……っ脾臓はやめろ。なんでそんな正確に急所を突いてくるんだ」

「人体の急所大全」

「まさかあれ、全部暗記してるのか」

「ふふふふふ」

 そんなわけないだろう。使えそうな部分だけだ。天才美形王子と違ってこっちは凡人だ。




「陛下がキヨをリクルートする理由が分かる気がする」

 ロンが花火をぐるぐる回しながら、誠吾にだけ聞こえる声で言ってくる。

「それ、みんな知ってんの?」

 包囲されてんのか、と考えるべきなのか。

「いや、大人組だけだろ。俺はユリウスから聞いただけ」

 ネズミ花火を避けるついでに、ロンが密談できるだけの距離を仲間から取る。

「ロンも説得しろって言われてんの?」

「その逆」

「逆」

「第二王子からの密命だ。セイとキヨがうちに引き摺り込まれないよう、仲間が暴走することのないよう気をつけろ、ってな」

「……おまえそれ」

 友人を見張れという命令か。裏切者と謗られることを覚悟で、彼はその命令に頷いたのか。

「難しい話じゃない。ふたりを守れと言われただけだ。王子の命令がなくても俺はそうする。味方だって、約束しただろ」

 小柄な友の宣言に、誠吾は彼の肩に腕を回した。

「……ロン、チビ同盟結び直すか。日本には固めの杯っていってな」

「憐れむな。分かってるんだろ。俺がキヨと話をしたくて日本語の勉強したって。ソンシも熟読してきた」

 まあなんとなくだが分かっていた。清乃がロンの日本語力を頼りになると言いながら、グループ分けするときには彼と別になるよう動くことにも気づいていた。

 男嫌いを貫いてきた清乃は、そのせいか意外と自分に向けられる視線に敏感だ。何も気づかないフリで、ロンをさりげなく避けているのだろうと誠吾は見ていた。

「おまえあんなのやめとけよ。そりゃあ、自分より小さい女は貴重だってのは俺も分かるけどさ」

「最初から何か言うつもりもするつもりもない。それなのにユリウスの奴」

 身分を笠に着て脅しにかかったのか。おまえの気持ちは分かっている、と暗に言っているようなものだ。なんて小さい奴だ。

「なー。イケメン王子がなんだってんだ。おまえのがアタマいいんだろ。出世して見返してやれよ」

「王子の上までは行けないんだよ! 身分制度ナメるなよ!」

「もうおまえ日本に来いよ。日本になら姉ちゃんくらいの小さい女子いっぱいいるぞ。俺らくらいのはそこまでチビ扱いされないし」

「そうしようかなあ」

 ロンが乗り気なのは口だけだ。彼もアッシュデールの王室の忠実な家臣だ。

 だけど彼は、その王子の命令で、国王の意思とは反対の動きをすると言う。

「そうしろそうしろ」

「キヨは魔女の称号を授けられた。彼女をアッシュデールに迎える準備が進められてるんだ。セイもキヨの周囲に気をつけてあげて」

 誠吾にはよく分からない。

 分からないけれど、大っぴらに国王の意に反する動きをするのはまずいんじゃないか、という想像くらいはできる。

 気をつけろ、なんてロンは言ってはいけない立場の人間なはずだ。

 対立関係が表面に出ないよう、清乃とユリウスが上手に立ち回ることができればいい。


 付き合いをやめろ、とは誠吾には言えない。

 だがせめて。

 ふたりの関係が周囲の人間関係を壊し、それによってふたりが傷つくことがないようにと、誠吾はそう願っていようと思う。




 アホなはずの弟が、またらしくなく考え事をしている。

 清乃は火が消えた花火をバケツに放りながら、誠吾の険しい顔を見た。似合わない表情だ。

 まああんな事件に巻き込まれたら、多少は難しい顔をするようにもなるか。色々思うところもあったようだし。

 一応受験生だし。考えないといけないことは多いはずだ。


「誠吾、線香花火。この子たち情緒ないから、日本人でやっちゃおう」

「こいつらも姉ちゃんに情緒云々言われたくねえだろうよ」

「オレもやりたい!」

「あっおれも。センコウハナビ!」

「だから線香花火はそんな騒ぎながらやるものじゃないの!」


一発目から全然短編じゃない長さの話になってしまいましたが、「王子様の夏休み」はこれでおしまいです。

次の話もよろしくお願いします。

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