表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/78

王子様の夏休み 17

「今から何やるの?」

 事前に言われて持参していたリクルートスーツを着て、清乃は誠吾を見た。

 彼は高校の制服だ。エアコンを全開にしているとはいえ、この暑いのに学ラン。

「さあ。制服着て待てとしか」

 貸別荘の広いエントランスは、吹き抜けになっていて開放感がある。

 そこで姉弟ふたり、待ちぼうけを食わされているのだ。

 用意してくるからふたりは待ってて、と他の面々はそれぞれの部屋に篭ってしまった。

 パーティーってスーツでするものなのか。入社式か。


「……え。入社式じゃないよね。地球防衛軍に就職する気はないってあたしちゃんと言ったよ」

「……逃げるか」

「よし、車の鍵はある。急げ」

「待て」

 突然姉弟の目の前に現れたユリウスに逃亡を阻止された。

「テレポートやめてってば! びっくりするでしょ!」

「ごめん。ふたりが逃げるとか言ってるから」


「ユリウス、何その格好。それ勝負服だろ」

 王子様仕様の白い詰め襟である。前に見たときと、微妙にデザインが違う気がする。成長に伴って新調したのか。

「そ。今から叙勲式するから、並んで並んで」

「……叙勲って。誰の。なんの」


【キヨのだよ】

 この場にいないはずの人物の声がした。

 フェリクスが持つノートパソコンから聞こえた。その画面には、声の持ち主の姿が映っている。

【やあ。楽しんでいるかい?】

 テレビ電話。初めて見た。

【報酬分の仕事はしてます】

【同じく】

 冷たい姉弟の答えに、ダヴィドはめげなかった。

【本当はわたしが直接勲章を付けたかったんだけどね。キヨはもうアッシュデールに来てくれないと言うから、継承権三位の王子を代理に指名しておいた】

 清乃に勲章を授ける? 何故。

 いつの間にか、全員が正装を纏って姿勢を正し、整列している。


 カタリナに手を取られて、清乃は玄関まで歩いた。

 十代組は階段の幅で左右に分かれて二列になっている。全員群青色の詰襟だ。似たような形の黒い学ランの誠吾も、階段に一番近いところに並ばされた。

 玄関を背にして見ると、階段まで続く花道ができた形だ。

 正面には、階段の一段目に立つユリウス。その左側に同じく白い詰襟のフェリクス。右側少し離れて群青色の詰襟のマシュー。

 清乃の背を押すカタリナも同じ群青色だ。

 エントランスに置かれたグランドピアノが厳かな音を奏でる。一小節遅れてバイオリンの音色。

 ノアとジョージ。弾けるのか。彼らの良家の子息らしい姿は初めて見る。

 

【キヨ、パソコン画面の前まで進んで】

 ユリウスの前に置かれた台の上。アッシュデール王国国王の正装した姿を映している。

 王冠、長いローブに笏。古い絵画に描かれた国王のようだ。

【スギタキヨノ。あなたの智慧と勇気ある行動により、我が国は一歩、輝かしい未来へと近づいた。あなたに感謝を捧げ、その功績をここに表す】

 輝かしい未来。魔女の存在しない未来か。

 清乃が魔女の亡霊を数体消滅させた。そのことに対する勲章(ほうび)か。

 ユリウスがパソコンの台を避けて階段を降りる。その手には赤いリボンの付いた勲章。


 清乃は彼を手で制して、パソコン画面に向かって喋った。

【儀式の中断を要求します】

 きっぱりと言った清乃に、後ろのほうからうわあと小さな声が上がった。

 ダヴィドは画面の向こうで笑いを噛み殺している。

【受け入れよう。なんだろうか】

【この儀式を続行した場合、私はアッシュデール王国でどのような立場に置かれるのでしょうか。魔女撲滅活動に参加することを了承したことになるのでしたら、私は今すぐここを離れます】

【やだなあ。そんな騙し討ちはしないよ。ただ君の功績を称えるためだけのものだから】

【キヨ、これ純金製だから。とりあえず受け取って、気に入らなければ売ってもいい】

【売るのはやめて欲しいなあ】

 一国の王から授けられたものを売る度胸は清乃にはない。

【はあ】

【これを受け取った女性は、アッシュデールの魔女を名乗ることを許される。我が国で最も名誉ある称号のひとつだ。義務が発生するものではない】

 名誉。

 過去の魔女を滅ぼした現世の魔女に贈られる名誉か。別に欲しくないけど。

「…………まあ義務が発生しない純金ならいいか」

【あっ売らないでくれよ?】


 しかつめらしい顔での儀式の進行を諦めたユリウスが、苦笑顔で清乃のスーツの左胸にリボンを取り付ける。

「我が国における現世の魔女は、人々から尊敬される存在だ。理解できなくてもいい。我々の感謝と尊敬を受け取って欲しいんだ。キミはそれに値する人間だ」

 清乃はユリウスの手元を見ながら、難しい顔になった。弟に視線を投げると、彼から返ってきたのは、よく分からん、の仕草だけだ。

 フェリクスは真面目腐った表情で頷きを寄越す。マシューは同じく軍人らしい堅い態度で瞬きしてみせただけだ。


「……あたしは何をすれば?」

 仕方ない。訊くしかない。

「国王陛下のお言葉に返答を」

 簡単に言ってくれる。アドリブが効くほうではないのだ。そういうことは事前に教えておいてくれ。

 清乃は左胸に下げられたリボンの先のメダルを見てから、パソコン画面に視線を戻した。

【謹んでお受けいたしますと共に『アッシュデール王国の更なる発展をお祈り申し上げます』】

 まだかすかに残っていたアッシュデール語を頭の隅から引っ張り出して、簡単に返答とする。

 画面の向こうでダヴィドが微笑んだ。



【ありがとう。さあ、儀式はこれでおしまいだ。祝賀会にはわたしもこのまま参加しても】

 清乃とパソコンの間に、ユリウスが顔を突っ込む。

【じゃあね、父さん。あとは若者だけで楽しむから】

【伯父さん、帰ったら写真見せるよ】

【陛下、お疲れさまでした〜】

【さよなら〜】

 ダヴィドは何か言っていたが、あっさりと通信は切られた。

 そんな感じでいいんだ、王様の扱い。相変わらずだな。


【着替えてパーティーにしよう。正装暑かった〜】

 みんな切り替えが早い。上着を脱ぎながら、それぞれの部屋に帰っていく。

【キヨも着替えましょ。母からのプレゼントがあるの】

「ルイーザさんから?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ