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王子様の夏休み 16

【じゃあちょっと買い出し行ってくる。みんなは食べてて】

【ビールも頼む】

 フェリクスめ。大人の世話は仕事の範囲外のはずだが。

【はいはい】

【オレも行く】

 すかさずユリウスが立ち上がる。腰の軽い王子様。父親似だな。


「キヨ、動きすぎじゃないか? 大丈夫か」

 軽自動車の助手席に座ってすぐ、ユリウスが心配げな視線を向けてくる。

 動きすぎ、と言われるほど動いていない。彼らのほうがよっぽど動いている。一日中元気に遊んでいるのだ。

「バイト代もらってるから。ナマケモノでいるわけにもいかないでしょ」

「そんなのもっと適当でいいよ」

 このクライアント、軽く言ってくれるな。

 清乃はアクセルを踏みながら、ナマケモノが好きなように過ごしたらどうなるか思い出させてやった。

「じゃあ明日は朝起きずに、一日中涼しい部屋で本読んでる」

「やっぱりバイトモードでお願いします」

 あっさりと意見を翻した。


「仕事じゃなきゃ海なんか来ないと思ってたけど、今日のは楽しかったね。穴掘り。無心になった」

「フェリクスも落ちるとは思わなかったな。カタリナが落ちたときは殺されると思ったけど」

 王子にまでそう言われるって、普段のカタリナってどんななんだろう。

「落とし穴に落ちる人って、リアルで見たの初めて」

「キヨって、子どもの頃にもアクティブな遊びはあんまりしてない?」

「どうかな。田舎だったから、一通りの外遊びはしたと思うけど。海にもよく行ったよ。虫採りもしたし」

「運動は嫌いでも、基礎体力はあるのはそのせいか」

「え、悪口?」

「違うよ。すぐにダラダラしたがるけど、倒れたりはしないし、体調崩すところ見たことないなと思って。ジェニファーは最近まですぐに寝込んでたから」

 魔女と比べられてもな。

 ジェニファーはその身に宿る魔女の力が強すぎて、身体がもたなかったというだけという話だったろう。


「そういえば、もう何年も風邪とか引いてないな。運動会とか休みたかったんだけどなあ」

「やっぱり吸収する能力のせいかな。免疫を獲得するのが早いのかも、ってうちの研究員が」

 それって映画一本撮れるやつ。地球に蔓延る病の免疫をただひとり持つ人間が、悪の組織に狙われる。悪の組織は、ワクチンをネタに人々を支配することを目論むのだ。

「もうマフィアに誘拐されるのは嫌だな……」

「今度は何」

「ちょっと現実逃避」

「帰って来い。少し真面目な話をするから。血液検査の結果、話しただろう。もうほぼ基準値に戻ってるって」

 アッシュデールの血を引く人間は、血液中のナントカいう成分の値が高いという話か。

 一時期ユリウスと同居していた清乃の血液にも、同じ傾向が見られた。同時に、超能力テストに引っ掛かる。

 普通では考えられないことだが、清乃はユリウスとの接触によりその能力を吸収してしまったのだ。


「もう一般人レベルに戻ったんでしょ。放っておけば治るなら、そんなに神経質にならなくても」

「そうなんだけど。キヨ、カタリナと一緒に風呂入ってなかったか?」

「うん。美女と混浴。羨ましい?」

「昔した。泥だらけになって遊んだらカタリナに風呂に放り込まれてた」

「仲良いねえ」

「そういう話じゃなくて」

「実験、って聞いてるよ。どの程度の接触でどのくらい吸収するのかって」


 ユリウス様とは友人付き合いをすると決めたのでしょう。普通のお友達と同じように食べ物をシェアしてもいいのか、たまには頬にキスくらいは許すのか、汗をかく季節には会わないとか、基準があったほうが楽よ。今後のためにもはっきりさせたほうがいいでしょう。

 と言われたのだ。

 珍しい体質だからと実験体にされるのか、と少し怖くなったが、実験の精度を上げるために旅行中はカタリナ以外との接触を避けて、と言われただけだ。

 実験内容が美女と混浴、男性陣との接触を避ける、だけなら問題ないなと了承した。

 ユリウスも事前に聞いていたのだろう。気軽に手をつないだりだとかしてくることは一度もない。清乃がうっかり彼の腕に縋りついたくらいのものだ。

 彼から接触してきたときは大体布越しか、もしくは頭髪くらいだった。快適といえば快適だ。


「それはオレも聞いてるけど。あんまりうちの連中を信用するなよ。こっちの世界に引き摺り込まれるぞ」

「あんたがそれ言う?」

「ごめんなさい。でも一応」


 今後ユリウス様との関係性が変わらないとも限らないでしょう。どの程度なら触れても問題ないか、今のうちに把握しておいたほうがキヨのためにもいいと、わたしも思うわ。

 カタリナが実験の理由を説明するために使った言葉は、ユリウスには言えない。

 その言葉に説得されたつもりはないけれど、以前のような気楽な関係に戻っても問題ないと分かれば、彼と会う際の緊張感も薄れるだろう。




 翌朝は起きてすぐおにぎりの具を用意して、約束のスイカも冷やしておく。

 朝から外国人相手におにぎりの握り方の講習会だ。

 このほうが握りやすいだろうとラップにご飯を包んで配ったのに、何故か手をご飯粒だらけにする人物もいた。

 慣れていないと三角おにぎりを作るのは難しいらしい。

 清乃と誠吾のふたりで、なんで出来ないの、と言いたくなるのを堪えて何度も手本を見せてやる。

 味噌汁と出汁巻き卵、焼き鮭、完成したおにぎりで朝食にすると、また海に出かける。

 その日も十代組は遊び倒し、清乃も多少は仲間に入って遊んできた。

 学習しない、というか負けず嫌いの連中はやっぱりスイカを一発で真っ二つにしてしまう。

 盛り上がりに欠ける、と文句が出てきて、嫌々参加した清乃がみなの期待通りの醜態を晒す羽目になった。

 そんなんじゃ敵の頭カチ割れないぞ~との野次には、代わりに割ってくれるひとがいるからいいんじゃね、と誠吾が返していた。

 何人かが誤魔化すように笑っているところを見るに、清乃が去ってからひと悶着起こしたのかもしれないな、と思ったが黙っておいた。


 最後の夜だから今夜はパーティーしよう、という話になっている。先に帰ったアッシュデールの十代組で用意をしているらしい。

 キヨは海で遊んで待ってて、と言われたから、最後のほうはパラソルの影でゴロゴロしながら時間が経つのを待って別荘に帰った。

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