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第84話 ローアン航空戦 2

 無人機はサルヴィア達が墜とすペースよりも早く打ち上げられていく。


 その上、空戦機動も今までのフランツェス帝国の幼年パイロットに比べてかなり上手い。このまま戦っていてもいずれにせよ666大隊が壊滅的被害を被るのは自明だった。


 単調な動きしかできないものの、Gを無視した動きができるのは恐ろしいまでのアドバンテージで、現に歴戦の猛者である第666大隊からも数機の被害が出ている。


『あぁもう! このままじゃジリ貧よ! どうするのよ、サルヴィア!?』


『ランドグリーズ隊にも被害が出てる! フリスト隊だけじゃ守り切れない!』


 シティスとガブリエラ大尉の嘆きを聞き、自分も弱音を吐きたいと思うが、指揮官がそれでは部隊の士気は急落する。


 弱音を吐きたいという気分を堪えて、サルヴィアは必死に策を練る。


 今のところ数の上ではサルヴィア達の方が上回っているが、敵の増えるスピードはサルヴィア達が敵を減らすスピードよりも速い。


 いずれにせよ数においても的に優位になるのは明白だ。こちらにあって敵にないものは一人一人の練度、生身の人間という発想力の自由、そして地上部隊だ。


 今回の作戦においてヨルムンガンド戦闘団の第113機械化歩兵大隊は各中隊に自走式対空砲部隊を新たに設けている。


 中隊ごとの対空砲では焼け石に水だが、一点に全対空砲を集結させればそれ相応の効果はある。


 この状況を打破しうる可能性にかけ、サルヴィアはクルト少佐に命じる。


「クルト少佐! 至急各中隊の対空砲を一つの地点に集結させてほしい! 可能か!?」


『了解しました! 今の部隊の布陣から判断いたしますと、ローアン大聖堂前の広場が各中隊から最も近い地点です。そこに集結させます!』


「あぁ、頼む! 急造の対空陣地を形成して、敵無人機を叩き墜とすのを手伝ってくれ!」


『お任せください!』 


 部下の返事に頼もしさを覚えつつ、サルヴィアは敵機を墜とす。


 無線で第666大隊に集結を命じて、フルスロットルで大聖堂前広場まで後退する。


 無論敵も追ってくるが、そんな敵の様子は異質なものであった。無人機の群れが空中で球状に編隊を組んで追ってくるのだ。


 まさに球の中心にある何かを守っているかのように飛行している。


 それぞれの機体が最高速度で追ってきていればこの撤退中にも第666大隊には被害が出ていたであろう。


 しかし、無人機はわざわざ速度を落として奇妙な編隊を組んで追ってきているのだ。


「地上部隊、今だ! やれ!」


 頭を支配する違和感を一度振り払ってサルヴィアは対空砲部隊に命令を出す。


 ヴィルベルヴィントの対空砲火ほどの密度は無いものの、構築された対空陣地からの射撃は球状編隊の下面を削り取っていく。


 そんな対空砲火に対抗するように無人機は一気に下面に集中する。そしてあるものが顔を見せる。


 一機の真っ白な戦闘機だ。おそらくあれが無人機にとって重要何かなのだろう。


「大隊各機、あれが見えたか!? おそらくあの戦闘機が弧の無人機たちの弱点だろう。私があれを仕留める、諸君は私に近づく無人機を叩き墜としてくれ!」


『『『『了解!』』』』


 全機が反転し、まるで中世の戦場で一斉に放たれた矢のように一斉に無人機の群れに向かう。


 対空砲火でいくらか減らせたとはいえ、敵の数は若干第666大隊の機数を上回る。


 時間はかけられない。すべてはサルヴィアが編隊の中心にいた戦闘機をいかに早く墜とせるか、サルヴィアの推測が正しいかにかかっている。


 押しつぶされそうになるプレッシャーの中、ヘッドオンの態勢で機銃を放ち、謎の戦闘機の横をすれ違った時に敵機のコックピットの異常に気付く。


——本来人が乗っているであろう所に誰も乗っていないのだ。


 代わりに乗っていたのは黒い円筒状の何か。


 あることが思い当たったサルヴィアは広域無線で呼びかける。


「ユーリカ少佐! あの機体はユーリカ少佐ですね!?」


『ハァ……。グッ——! 久しぶり……サルヴィア。……よく私だと分かったね……』



 今回もユーリカ機が出てきているという事は、前回の初遭遇時に言っていた『死んでもいくらでも予備はとってある』という言葉はハッタリなんんかではなかったという事になる。


 そんな短い会話の中でサルヴィアはある違和感に気づいていた。


 返ってきたのは前回のような余裕ある返答ではなく、息も絶え絶えで苦しそうな返事。


 前回はあれほどの空戦機動をしてもなお、呼吸を一切乱すことなく最後まで話していた。


 それに『久しぶり』と言っていたが、前回の遭遇からそれほど日数は経っていない。前回の遭遇から一週間ほどしか経っていないのだ。


 蛇が絡まりあうような空戦の中ユーリカからある言葉が発せられる。


『君と……ッ、空戦、するのは……144中隊以来だね……っ!』


 その言葉にサルヴィアは確信する。彼女は前回の戦闘の記憶を持っていないと。


 これがサルヴィアに切り札を使わせるブラフであるという可能性も捨てきれないが、彼女はソンム・ド・フルールで『予備がある』と言っていたのだ。


 決して『また蘇れる』だとか『不死身だ』だとかは言っていない。おそらく撃墜されたためにその記憶を持ち帰れていないのだ。


 前世であった、あるゲームの主人公にそっくりの境遇だ。


 おそらくコックピットの黒い円筒形の物はユーリカの人格を入れた容器に過ぎない。


 機械などの人工物に人格を移すことが出来るとはまさにSFのようなオーバーテクノロジーだ。


 しかし、サルヴィア自身幾度か死んで前日に戻ったり、自称創造神に出会うなど、かなりファンタジーな経験をしているのだ。むしろ精神転送の方がよっぽど現実味があるとさえいえる。


 横合いから一機の無人機が飛んできて、サルヴィアは思考の渦から引きずり出される。


 ここは空の戦場。一瞬の気の迷いが死につながる世界なのだ。


 近頃、簡単な戦闘が繰り返されていただけに忘れていた基本をギリギリのところで思い出し、回避する。


 いくら回避しても異常なまでのハイGターンで背を追ってくるユーリカを後ろに睨みながらサルヴィアは操縦桿を握りなおす。

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