断章 あの戦争の真実 3
これがグロース・ベルファスト王国の最初の戦果であった。しかしこのベルファスト王国最初の戦果は血濡れたものであった。
艦砲射撃には多くの民間人が巻き込まれ、フランツェス帝国の国民には徹底抗戦の意識が芽生えた。
その結果、さらなる地獄を生むことになったのは言うまでもない。
今回はそんなダンケルキア攻略戦で生き残った方のインタビューを紹介しようと思う。
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「こんにちは。シュタインズ・タイムスのシュナイダー・アクテです」
「……こんにちは」
「今回は取材を受けていただきありがとうございます」
「……貴方たちがしつこいから私が折れただけ」
「いやぁ、すいません。ですがあのダンケルキアから生き残った方のお話は貴重ですから」
「まぁ、それはそうでしょ。だってほとんど死んでるんだから……」
「そうですね……」
「まぁいいわ。時間がもったいないから話すわね」
「よろしくお願いします」
「あの日は私を含む市民の誰もがまさかあんなことになるなんて思ってなかった。本当に私達民間人が戦争に巻き込まれるなんて思ってもいなかった。だってそうじゃない? 私達の中での戦争は軍人だけでやるものだったんだから」
「ですが、トラント軍港やシックザールでのことを聞いてなかったんですか?」
「もちろん聞いてたわ。でも信じられるわけないでしょ。貴方が私の立場なら信じられる?」
「私でしたら……そうですねぇ、信じるかと思います」
「そっか、貴方ジャーナリストだもんね。それはそうね。……でも私は、私たちは信じていなかった。ましてや、自分たちの街が戦場になるだなんて微塵も思ってもなかったわ。でも気づいたら私は地獄にいた。軍人が慌ただしく動く中、あぁここが戦場になるんだなってようやく実感したの。なにがなんだかわからないまま最低限の荷物を持って家から出たところで遠くから東洋の太鼓みたいな音がしたの、そしたらあの不気味な風切り音が聞こえて私の家は吹き飛んだわ」
「王国海軍の艦砲射撃ですか……」
「えぇ、まるで雨みたいに砲弾が降ってくる中、私は必死で警察署に走ったの。……途中足がちぎれて這いずってる人や、体が半分無い恋人を必死で揺すっている女、そんなものから目を背けながら逃げて逃げてようやくたどり着いた警察署も地獄だったわ」
「警察署も地獄……もしかしてあの西区警察署ですか……?」
「そうよ、酷いやけどで包帯巻きになっている人や、生きているか死んでいるかわからない人がいて……、あの状況は今でも夢に見るわ」
「ですが、そこはその後……」
「ライデンシャフト軍に包囲されて、私たちはまさにカオスといったあり様だったわ。でもそんな中一人の男が声をあげたの『ライデンシャフトの奴らは鬼畜どもだ。降伏しても拷問された上に殺されるぞ!』と。それを聞いた私たちは護身用の拳銃や手斧、挙句の果てには警察署の机の脚で作った槍で武装して私たちは立てこもった」
「ですがその後、西区警察署は……」
「そう、爆撃を受けた。轟音と衝撃と共に私の視界は暗転したわ。気づいた時には私はライデンシャフトの仮設テントで寝かされていたわ。どうも私は運よく生き残ったらしく、救助されたんだって」
「よく生き残られましたね。幸運でしたね」
「……貴方はそう思うのね。私はできればあの時死にたかったわ」
「それは何故……?」
「……っ。貴方もジャーナリストなら分かっているでしょ!?」
「すいません。これも仕事ですから聞かないわけにはいかないんです」
「……これだから取材は受けたくなかったのよ。でもいいわ、教えてあげる。私はフランツェスの人間よ。その後はさんざん差別されて、ロクな職にも就けなくて、折角できた恋人も私がフランツェスの人間だって知ったら『負け犬とは付き合っていられない』って言ってどこかに消えたし。ほんと最悪よ」
「なるほど、だから今は——」
「もう帰って。いやなことを思い出したわ。帰って。——帰って!」
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結局この日の取材はここで撃ち止めになった。この後も私たちは取材依頼を試みたが、彼女は私たちの電話に出ることは無かった。
あの戦争は人類に地獄をもたらし、その地獄は今なお後を引いている。
かつて様々な国が平和を掲げて建国した。が、しかしそれがもたらしたのはさらなる戦争、地獄、悲劇を生みだした。
あの地獄に時代に比べて今はマシにはなったといえるだろう。だが、今でも戦争は続いており、その数だけ悲劇は生まれ続けている。
そして仮に戦争が終わったとしても差別、迫害など国家という概念のために人にも国民という括りが出来てしまった。
それが戦後も後を引くのは先のインタビューからも明らかだ。
我々は今後もあの戦争のことについて追っていく。
シュタインズ・タイムス——『あの戦争の真実』より