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第壱章:番外編1 台風到来

——太平暦1722年 シックザール士官候補生学校 1月5日 11:00


 一時間目にあった近接戦闘訓練を終え、サルヴィア達はへとへとになりながら自室へと戻る。

 しかしそこに広がっていた光景はサルヴィア達を凍り付かせた。


 とにかく部屋がめちゃくちゃになっているのだ。ベッドはマットレスごと床にぶちまけられ、朝畳んだはずの毛布もぐちゃぐちゃになって無残に床におちている。

 それだけではなく本棚の教科書なんかも部屋中に転がっている。


 そんな光景を見てサルヴィアとフィサリスが茫然としていると後ろから声がかかる。


「ねぇ!アンタ達でしょ、私の部屋をめちゃくちゃにしたのは⁉」


 シティスだ。おそらく彼女の部屋も凄惨なありさまなのだろう。


「私達じゃない、それにこんなことをしたのはそれこそシティスなんじゃないの⁉」


「何よアンタ、たしかフィサリスって言ったっけ? この前の朝食の時もさんざん言ってくれたじゃない! 上等よ、かかってらっしゃい!」


「なに? すぐに殴り合いするという短絡的な考えしかできないわけ⁉ ほんっとこんなのが同期だなんて先が思いやられるね。……ねぇ、サルヴィア?」


「え⁉ あ、いや……そ、そうかなぁ?」


「ハッ! サルヴィアまで巻き込んで……、アンタには一対一でやるという騎士道精神がないわけ?」


「騎士道精神なんかで戦場で生き残れると思ってるの? 結局は勝てばいいのよ、勝てば」


 自分のルームメイトはどうやらかなりの現実主義者らしい、しかしこういう場でそんな風に勝っても“勝負に勝ち、試合に負ける”というやつだろう。


「なぁ、二人ともそのくらいにしておいた方が……」


「「サルヴィアは黙ってて‼」」


「あ、はい……」


 悲しいかな、どうやらサルヴィアには二人を止められるほどの勢いと語彙が足りないらしい。二人に「黙って」と言われ、少ししょんぼりと部屋の隅に退避する。

 日本にはこのようなことわざがある。


——“触らぬ神に祟りなし”と


 そんなこんなで部屋の隅で彼女たちの言い合いを見ているとガーベラ教官が後ろから声をかけてくる。


「お前ら、なに言い争ってんだ! そんなしょうもないケンカする暇あったらとっとと片付けろ!」


「「はっ! 失礼しました!」」


 そう言って二人は一時休戦する。しかし口に出して喧嘩していないだけで未だにいがみ合っている。

 そんな火花散らす二人にガーベラ教官は話す。


「あのなぁ、このあり様をお互いがやったと勘違いしているようだから言っとくけど、これやったのアタシ達教官だからな。ここはそういうところなんだ、本来あんまり言わないんだけど、あんまりにも仲悪そうだから言っといてやる。……おまえたちは仲間同士だ、そして敵はアタシ達教官ってわけ。だから仲間同士で喧嘩する暇あったらお互いを助け合う努力をしろ」


「そうだったんですか……。ごめん、フィサリス私が間違ってたわ」


「私こそごめん、つい熱くなっちゃって」


 ガーベラ教官の言葉を聞きどうやら二人の誤解は解けたようだ。実にめでたい。

 そうサルヴィアが考え感傷にひたっているとガーベラ教官がサルヴィアの方を向く。


「おい、サルヴィア。お前はそこで何をしていたんだ?」


「はっ! 二人が殴り合いの喧嘩にならないよう見守っていました」


「……お前はバカか⁉ 普通仲裁に入るだろうが、普通は!」


「え? いや、その……」


「はぁ、もういい。二十周、小銃抱えてグラウンド二十周だ。仲間を放っておくお前に昼休みなんてない! ほら、とっとと行け!」


 何という事だ、触らぬ神に祟りなしと放っておいたのが間違いだった、どうやらここ士官候補生学校では触らぬ神にも祟りがあるらしい。

 そう考え心の中で深いため息をついてサルヴィアは銃器保管庫へ走る。


 一方でフィサリスとシティスの仲はどうやら深まったらしく、サルヴィアが疲れ切って帰って来た時には二人とも仲良く談笑していたようで、二人でサルヴィアを迎えてくれた。


——その日、少女は友情の大切さを改めて認識した。

読んでいただきありがとうございました。

評価、ブックマーク登録なんかもしていただけると大変うれしいです。

以上、稲荷狐満でした!

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