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第60話 対艦攻撃

 水平線のかなたに発砲炎が見え、それを目印に全員が飛ぶ。


 目標は艦砲射撃をしている敵艦隊。戦艦十隻、巡洋艦約五十隻、その他補助艦艇多数というR&Hインダストリーにしてみれば大艦隊ともいえる艦隊だ。


 海上に展開する大艦隊を前に無線機から息をのむ声や、「嘘でしょ……」といった声が聞こえる。


 確かに大艦隊ではあるがここに世界最大の戦艦『東雲(しののめ)』は来ていない。


 それが意味することはこの艦隊が主戦力ではないという事。


 この世界では未だ大艦巨砲主義が根強く残っており、事実航空機より海戦に革命をもたらしたとされる『ブレン沖海戦』でも空母から発艦した航空機は弾着観測や偵察任務を行っただけだった。


 つまり舩坂はこの程度の艦隊でメゾテッラ海のインダストリー海軍は蹴散らせると考えているのだろう。


 確かにこれだけいればR&Hインダストリー海軍に勝ち目はないだろう。しかし今回は航空機がいる。


 この世界の人間は航空機による対艦攻撃が大艦巨砲主義を打ち砕きうると誰も知らない。知っているのはサルヴィアだけだ。


 誰もが絶望している中サルヴィアは無線機で展開中の全機体に話しかける。


「諸君、私は第666戦術特別航空大隊の指揮を執っているサルヴィア少佐だ。愚痴はやめよ! 今は目の前の任務に集中せよ。……敵は慢心している。そこを我々制空部隊が切り開き攻撃機隊に奴らをスクラップに変える。……今日、この日、大艦巨砲主義は終わりを告げる。我々がそれに引導を渡せるのだ! 歴史に名を刻めることを誇れ!」


 今までざわついていた回線が水を打ったように静かになり、あるものが声をあげる。


『我々には戦乙女が付いている。ヴァルキリーズ達を信じろ、彼女たちは強い。私達では比べ物にならない程に。敵さんに空の恐怖を刻みに行こうじゃないか!』


 その言葉を皮切りに『そうだ666大隊がいる』『やってやる……!』といった声が上がり出す。


 今まで低迷していた士気は徐々に息を吹き返しだす。


 そしてそこにさらにサルヴィアは続ける。


「奴らはこの海を悠々と泳ぐクジラだ。だが私たちは奴らを狩るシャチだ。——クジラ狩りとしゃれこむぞ!」


『『『『オォーッ!』』』』


 そうしてこの世界では初の航空機による対艦攻撃が始まる。



 艦隊に近づくにつれ、敵がいかに大艦隊かを突きつけられる。


 しかし今は下ではなく前を見なくてはならない。殲滅できなかった艦隊の直掩機がこちらに向かってきている。


 距離にして約二キロ。あとすこしで互いに射程圏内に収まることとなる。


「大隊各員、分かってはいると思うが油断はするなよ。接敵直前に散開する、敵を混乱させるんだ。後は好きなだけ食い散らかせ!」


『『『『了解!』』』』


 綺麗に編隊を組んで突っ込んでくる敵航空部隊に対してサルヴィアたち第666大隊は射程圏に入る前に散開し、敵を混乱させる。


 先頭は無論サルヴィアが務める。指揮官先頭というやつだ。


 急上昇した自分の方に機首を向けていない敵機に狙いを定める。


 三機の敵がサルヴィアめがけて機銃を放つが、それをクルリと回避し横を通過する。


 サルヴィアを狙って上昇した三機は高速で横を通り過ぎたサルヴィアを追おうと機首を動かすがサルヴィアはすでに狙っていた敵機を撃墜していた。


 スロットルを一気に落とし、操縦桿を思い切り引き、サルヴィアは反転する。そしてこちらを向こうとしている三機を端から一機ずつ叩き墜としていく。


 その動きはまるで縫物をするときの針のようで、空に綺麗な軌跡と三機がそこにいたであろうことを示す爆炎を残す。


 第666大隊の面々はまるで重力などないかのように空を舞い、着実に敵機を墜としていく。


 優秀な部下たちの仕事ぶりを見て思わずサルヴィアは頬が緩む。そして気合を入れるため頬を一度手で叩き、無線機に話しかける。


「敵機はある程度片付けた、行けるか? グロリオサ大尉」


『レッドカーペットは敷いていただけました。後は我々にお任せください!』


 グロリオサ大尉率いる臨時編成のランドグリーズ隊は各自艦隊に急降下を始める。


 独特なエンジン音と共に降下していき、腹に抱えた爆弾を投下していく。


 爆弾が次々に着弾していく。そして急に空気を揺らすほどの爆音があたりに響き渡る。


 ふとその方角を見ると戦艦が何隻か真っ二つにへし折れている。おそらく弾薬庫に命中したのだろう。その大戦果を見て歓声が上がる。


『敵戦艦四隻轟沈! その他艦船にも被害を与えました!』


「よくやったグロリオサ大尉! まだ爆弾が残っているならおかわりをくれてやれ」


『了解!』


 そして引き続き対艦攻撃が行われている中、サルヴィアは残り少ない敵機を追い、淡々と照準器に収まると同時にトリガーを引く。


 しばらくして空が静かになるとサルヴィアは未だ残って必死に回避運動をしている艦船を見てニヤリと笑いながら無線を飛ばす。


「こちらブリュンヒルデ01。弾薬が尽きた者、被弾したものは帰還せよ。それ以外の者はこれからデザートだ」


『少佐殿、なにがあるんです?』


「おや、デザートと聞いて食いついて来たな。流石はパンケーキ中尉だ」


 サルヴィアがそう言うと皆が一斉に笑う。ストレリチア中尉も笑いながら『もぅ、止めてくださいよぉ』なんて言っている。


「これから残った艦船に戦闘攻撃機は爆弾を、戦闘機は機銃弾を浴びせに行くぞ。機銃で撃つときは艦橋なんかの柔らかいところを狙えよ」


『『『『了解!』』』』


 返事を聞きサルヴィアは機体を捻って一気にダイブする。狙いは炎上しながら必死で回避行動をとっている戦艦だ。


 戦艦の手前で機首を起こし、照準器に艦橋をおさめる。そしてトリガーを引き絞り、大口径の弾を浴びせかける。


 艦橋の窓は何枚か割れて、残った窓にはべったりと内側から血とどこだかわからない人間だった物のパーツがこびりつく。


 ギリギリで艦橋をよけて、今度は上陸用舟艇を積んだ揚陸艦に狙いを定める。


 上陸用舟艇に乗り込み待機していた歩兵が必死でライフル銃を放つが、ボルトアクションライフルの連射速度などたかが知れている。


 そして通勤ラッシュかのようにぎちぎちに詰まった上陸用舟艇めがけてサルヴィアは機銃を放つ。


 15ミリでも人間は真っ二つになるというのに30ミリという本来生身の人間に直射しないであろう大口径弾を受けて待機中の歩兵はばたばたと死んでいく。


 ある者は血煙を上げて、またある者は自分の中身をぶちまけて折り重なるように斃れる。


 上陸用舟艇の中はまさにこの世の字地獄のような光景となっていた。


 そんな地獄絵図を横目にサルヴィアはさらに他の揚陸艦を狙っては同じことを淡々と繰り返す。


 しばらくそれを繰り返していると敵艦隊が一斉に回避行動をとりながら反転し、サウェズ運河の方角へと向かう。


 撤退するのだ。当然と言えば当然である。何なら判断が遅いとまで言える。


「グロリオサ大尉、戦果は?」


『戦艦六隻撃沈、巡洋艦二十三隻撃沈、その他補助艦艇多数撃沈という大戦果です!』


「素晴らしい! こちらの被害は?」


『第666大隊からはありません』


「完璧だな。……HQ、聞いていたか? 我々の勝利だ」


『ご苦労だった。帰還してくれ基地の皆が英雄たちの帰還を待っている』


「了解。これより帰投する。……では帰るぞ、しかし市民の救助や支援なんかでしばらくは忙しいから覚悟しておけよ」


『『『『了解!』』』』


『こちらR&Hインダストリー海軍、メゾテッラ艦隊ただいま作戦海域に到着した』


「…………航空部隊を代表して言わせてもらう。パーティーはもう終わった。繰り返す、パーティーはもう終わりだ」


 遅すぎる友軍艦隊の到着に苦笑いしながらサルヴィアは答える。


『なに? どういうことだ?』


「敵艦隊は撤退した。艦隊には生存者の救助にまわってほしい」


『航空機だけで艦隊に勝ったのか!?』


「あぁそうだ。……それと、今後は艦船の対空兵装を充実させた方がいいぞ。奴らがそれを証明してくれた」


 今回の対艦攻撃で圧倒的な大戦果を挙げることができたのは敵艦隊が対空を直掩の戦闘機にすべて任せていたためだ。


 奴らが少しでも対空兵装を積んでいたらもう少し苦戦したことだろう。


「では、これより私たちは帰還する。生存者の救助は頼んだぞ」


『りょ、了解した……』


 第666大隊は編隊を組み基地へと帰還する。こうして後に『トラントの戦い』と呼ばれる戦闘は幕を下ろした。

読んでいただきありがとうございました。

評価、ブックマーク登録なんかもしていただけると大変うれしいです。

以上、稲荷狐満でした!

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