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断章 あの戦争の真実

 雲一つない真っ青な空というキャンバスに何本もの白い線が入り乱れる。


 史上かつてない程の制空戦にある者は半狂乱になりながらトリガーを引き、またある者は目の前に迫る死に怯え、叫ぶ。


 そんな混沌としつつも美しい戦場でサルヴィア少佐達、第666飛行大隊は各々が冷静さを欠くことなく淡々と敵機を墜とす。


 新型機を手にしたヴァルキリー隊は恐ろしく、それでいて美しく空を舞う。


 その中でも生粋の新鋭機であるRe203を駆るサルヴィア少佐はその恐ろしいまでの加速力と機動性を活かし、矢継ぎ早に敵機を叩き墜としていく。


 味方にはまさに戦場を支配し、自分たちを勝利に導く戦女神。しかし、敵にとってはいかに映るだろうか?


 その黒い機体は戦場を飛んでまわる死神、機体に描かれている黒き翼はまさに死の天使の翼だろう。


 どんなに逃げても逃れることはできず、その圧倒的な火力から導き出される仲間たちの最期はまるで空に咲く花のように儚くも美しい。


 それだけではない。サルヴィア少佐の空戦も目を見張るものはあるが第666飛行大隊の末端に至るまでがすべてエースパイロットともいえるほどの腕前なのだ。


 気が付いたら己が背後につき、声をあげるまでもなく叩き墜とされる。


 墜ちていく憐れな者たちの眼に最後に映ったのは黒い天馬に跨る死の戦乙女のエンブレムだった。


 さて、ここにかつてあの戦場で戦っていたパイロットとのインタビューの記録がある。


「私はかつて舩坂のパイロットととしてあの戦場で飛んでいました。今までにない程の航空機と艦船を集結させた私たちは『今回は余裕になりそうね』なんて話していたのを覚えています」


「確か一個半航空師団に戦艦10、巡洋艦50、その他補助艦艇多数でしたよね?」

 

「えぇ、R&Hインダストリーは大した海軍戦力を持っていませんし、私達だって各地から集められたパイロットたちだった。そんな中相手は一個飛行師団だと聞いたのです。フィリアノス要塞攻防戦では我々はしてやられましたが今回は勝ち戦だと前夜祭を開いたほどでした」


「そうなんですね。ちなみにフィリアノス要塞攻防戦には従軍なされたのですか?」


「いえ、友人に聞いただけです。彼女は明るい人間でした。それがフィリアノス要塞攻防戦から帰って来た時はまさに別人といったあり様でした。……どんなだったと思います?」


「そうですね……敗北を悔しがっていたとかですか?」


「いいえ。人が変わったように常に何かに怯え続け、いつもぶつぶつと言うのです『この世には死神がいる』とね」


「なるほどそれが例のサルヴィア少佐以下、第666大隊というわけですか」


「えぇ。おそらく彼女はそこで見たのでしょう。まだ死の戦女神として噂になる前の第666大隊を」


「ちなみにその後友人は今どうなされているのです?」


「彼女は……。死にました」


「戦死なされたという事ですか?」


「いいえ。私にすべてを話した翌日、トイレで自分の頭を撃ち抜いたそうです。ちなみに遺書には『死神が追ってくる』とだけ書かれていたそうです」


「そうですか……」


「あの戦場の映像は見たことはありますか?」


「はい。インタビューに伺う事前調査としてかつての記録はすべて見ました。もちろんインダストリー側の物も舩坂の物も」


「でしたら話は早いですね。あの戦いを見てどう思いました?」


「不謹慎ながら第一印象は美しいなと思いましたね。しかし同時にあの地獄で美しく空戦機動をこなす黒い機体には不気味さを覚えました」


「なるほど、それがカメラ越しに見たあの戦場なのですね。実際は美しいなんてことはありません。仲間の悲鳴が、断末魔が無線機越しに聞こえた後、ノイズしか垂れ流さなくなるんです。勝ち戦だと思っていた戦いは気が付いたら私たちが劣勢になっていました」


「そうですか、実際にはそんな状態だったのですね」


「えぇ」


「ちなみにカスミさんはどのようにして生き残られたんですか?」


「私は生き残っていません。あの場で撃ち落されたのですから。もうパイロットととしての私はあの日あの時あの場所で死にました。部下の死を心の奥底で嘆きながら殺気に気が付いた時には後ろに奴がいました」


「奴とは?」


「黒い翼の死の天使。サルヴィア少佐と言った方がいいですかね? 独特な機体でした。そして後ろを振り向いた私は彼女と目が合ったのです。彼女は私よりも幼く、そして整った顔立ちをしていて、その深い蒼の瞳は宝石のように美しかった。そして私が見たどんなパイロットよりも冷淡な顔でした」


「それで墜とされたと……」


「えぇ。この腕はその時にやられました」


 そう言ってカスミさんは肘から下がない左腕をテーブルにあげる。


「ご愁傷様です」


「私はまだ恵まれている方です。あの大口径の機関砲に撃たれた者の中には跡形もなく吹き飛んだ者もいたと聞いていますから」


「なるほど、たしか30ミリ機関砲でしたかね?」


「らしいですね。インダストリーの機体についてはそんなに詳しくないのですが、たった数発で機体がはじけ飛ぶのを見るにそれくらいの口径でしょうね。あれを喰らって生き残れるものはそういないでしょう。……私は脱出した後かなりの時間海を漂い、撤退中の友軍の駆逐艦に拾われてこうして生きて帰ることができましたがね」


「近年彼女が再度注目されていますがそれについていかが思いますか?」


「何とも思いませんね」


「それは何故?」


「もう私はパイロットでも舩坂の人間でもないですからね。私はただの一般市民ですよ。……私に言えるのはこの位ですかね。ごめんなさい、わざわざ遠方から来てくださったのに」


「いえいえ、大変貴重なお話を聞けました。本日は本当にありがとうございました」


 以上がインタビューの内容である。我々シュタインズ・タイムスは今後もあの戦いについて、死の天使——サルヴィア少佐について迫っていく。


シュタインズ・タイムス——『あの戦争の真実』より

読んでいただきありがとうございました。

評価、ブックマーク登録なんかもしていただけると大変うれしいです。

以上、稲荷狐満でした!

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