第55話 新型機
雪中行軍演習を終えて数日後、基地には十六機の新型機と、ある一機の戦闘機が搬入されてきた。
機体名称——Kw190(クリークヴォルフ190)、通称ファルケ。航空爆弾を積載でき、且つ30ミリ機関砲一門、20ミリ機関砲二門、13ミリ機関銃二門という重武装の単発エンジンの戦闘攻撃機だ。
機動性や、上昇力ではSf109に劣るが戦闘機としては破格の爆弾搭載量、そして圧倒的な瞬間火力、これがKw109の強みだ。このKw190が十六機搬入される。
そしてもう一方が機体名称——Re203(リーピッシュ203)、通称シュヴァルベ。
エンテ型の機体でプロペラは二重反転ペラ、翼は逆ガル翼。
搭載武装は機首に30ミリ機関砲と20ミリ機関砲をそれぞれ二門ずつ、翼内に13ミリ機関銃を二門という重武装の戦闘機だ。
このシュヴァルベはリーヴェンブルク技術工廠でサルヴィアがテストパイロットを務めたあの機体だ。未だ試作機ではあるが、実用試験機という事でサルヴィアのもとに送られてきた。
サルヴィアとしては乗り慣れてきたメーヴェから乗り換えるのにはあまり気が進まなかったが、ソリーデ技術少尉の改良後の飛行試験であれほどの高性能ぶりを見せたのだ、少しばかり期待はある。
それにここにはあのイカレ博士ことリーピッシュ博士がいない。ソリーデ少尉に整備をすべて任せられるというのはかなり安心できる。
格納庫に運ばれて行く今後命を預けることとなる機体を眺めていると後ろから声がかかる。
「少佐、なにかご要望がありましたら機体に特殊ペイントを施したり、機体マークを入れましょうか?」
「ん? あぁ、ソリーデ少尉か。……そうだな、折角だからお願いしよう。ちなみにだが、部隊全員の機体にエンブレムを入れることもできるか?」
「えぇ、もちろん。デザインはもう決まっているのですか?」
「あぁ。黄色い枠の赤い盾を背景に、黒い天馬に跨るランスを持った黒い戦乙女でどうだ?」
白く美しい戦乙女に反したようなデザインだがこれでいい。何しろ666とは悪魔の数字なのだから。
「ちなみに大隊各機の機体ペイントにご希望は?」
「これは事前にみんなで案を練っていた。機体のペイントは大隊全員、黒を基調とし、翼端を赤く塗ってくれ。雷神どもへの意趣返しだ」
「了解です。では少佐の機体マークは?」
自分の機体マーク……。あまり考えていなかった。ふと考えると自分の明確な敵は二人いる。
一人は雷神、第201大隊の時に随分とお世話になった奴だ。
もう一人はあのいけ好かないネイビーブルーの眼鏡をかけた自称創造神。あいつは自分をこの地獄みたいな世界に叩き墜とした張本人だ。
できることなら腰の拳銃で脳天に風穴を開けてやりたい。どちらかというと雷神よりもあの自称創造神の方が気に入らない。
そう考えたサルヴィアはニヤリと笑ってソリーデ少尉の質問に答える。
「黒い天使の翼だそれで頼む」
「何か意味はあるのですか?」
「私がこの世で最も嫌いな連中に反旗を翻した者たちの翼だよ」
堕天使。それは神に反逆し天界を追われた者、そして神を恨み引きずり墜とさんとする者たち。まさにサルヴィアの同志ともいえるような存在だ。
サルヴィアの答えを聞きソリーデ少尉は敬礼をして話始める。
「了解しましたすぐに整備班の皆で作業に取り掛かります」
「あぁ頼んだ。よろしく頼む」
「お任せください!」
そう言ってソリーデ少尉は駆け足で格納庫の方に走っていく。
彼女は航空機が好きなのだろう。でなければあそこまで熱心に整備をしたりしないだろう。
格納庫の方で元気よく整備班の連中に指示を出すソリーデ少尉が見える。
彼女が来てからというもの整備班のキレが変わった。皆、彼女の快活さ、整備好きさにあてられているのだろう。じつによい影響だ。
サルヴィアが微笑ましげにテキパキと楽しそうに働く整備班を見ていると、またしても後ろから声がかかる。
「あれが例の新型機ね」
「シティスか。……そうだよ、あれが新型機だ。十六機あるのがKw190ファルケ、第二中隊に配備予定だ。そして一機しかないのがRe203シュヴァルベ、私の機体だよ」
「私たちも新型機が欲しかったわ。フィサリス達とアンタが羨ましいわ」
「いやぁ、申し訳ない。直に第一中隊にも新しい機体が配備される。……まぁメーヴェの改良型だが」
「何もないよりましね。まぁ今のままでも敵とは渡り合えるんだし大丈夫よ」
「流石は制空部隊の隊長だ。頼りがいがあることを言ってくれる」
「まぁアンタには撃墜スコアでも模擬戦でも負けてるけどね。……じゃあ私はそろそろ新任達をシバいてやりに行くわ」
「ハハッ、ほどほどにな」
彼女たち第一中隊——『スルーズ隊』が使っている機体はSf109 F-2であるが、今度納入される機体はその改良型であるSf109 Gとなっている。
どうやらエンジンを高馬力の物に変え、そのほかにも吸気口に防塵フィルターを取り付けられるらしく砂漠での運用も可能らしい。
余談だが第三中隊——『ランドグリーズ隊』の機体も直に改良型の物になるらしく、Mu87(ミュンカース87)D-1からMu87 D-2へと換装されることが決定している。
ちなみにこのD-2もまた砂漠用の防塵フィルターが装着できるらしく、これで大隊全機が砂漠での作戦行動も可能となる。
どうやら参謀本部は砂漠の方でも第666大隊を酷使するつもりらしい。
これから起こるであろう砂漠での戦いに辟易としながらサルヴィアは自室へと帰る。書類仕事がまだ残っている上に、このように気分が落ち込む日は豊潤なコーヒーの香りで癒されたいものである。
この後、納入される新型機を見るという名目で書類仕事をさぼっていたサルヴィアが書類の山に襲われたのは言うまでもない。
読んでいただきありがとうございました。
評価、ブックマーク登録なんかもしていただけると大変うれしいです。
以上、稲荷狐満でした!