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第52話 第666戦術特別航空大隊『ヴァルキリー』

——太平暦1724年 3月21日 リーヴェンブルク技術工廠・上空


「エンジン安定。高度10,000を突破」


『素晴らしいッ! 流石私! 私の設計は間違っていなかった! ほら、昨日この傑作機をポンコツと言ったことを取り消すんだ、サルヴィア少佐!』


 無線機越しにあのイカレ博士のやかましい声がコックピットに響く。


 どうやらこの博士はこの成果が自分の設計の賜物だと思い込んでいるようだ。何とも幸せな脳みそをしていることだ。


 今回の成果はソリーデ技術少尉の改良の結果だというのに……。いささか良心が痛まないこともない気もしないでもないが、現実を突きつけてやろう。


「博士、私がポンコツと言ったことを取り消す前に、ソリーデ少尉から今回整備でどこを弄ったか聞くといいですよ」


『……は? どういうことだね、少佐?』


「この成果は博士だけの物ではないという事ですよ」


 その後無線機の奥から「少尉、どこを弄ったのかね!?」などの喧騒が聞こえてくる。


 地上観測員は大変だ、無線機越しではなく対面であのイカレ博士と会話しなくてはならないのだから……。


 サルヴィアはそう思い、自分は幾分マシなんだなと自分を慰める。


『聞いたぞ、少佐! どうやら勝手に改良を加える許可を出したようだな! それも主任設計者の私に黙って!』


「えぇ、勝手に許可を出したのは、まぁ反省してますよ」


『事故につながっていたら君は死んでいたのかもしれないんだぞ!』


「かもしれません。ですがあなたの設計よりは堅実で優秀みたいですよ。なんせ、今私は無事に飛べている。それどころか高度10,000で安定した性能すら出している」


『……ッ! だがその機体を設計したのは私だ! この私なのだ!』


 やはりこの博士は頭が固い、いっそのこと野戦砲に詰め込んで敵要塞陣地に撃ちこんだ方がいいんじゃなかろうか、きっと要塞の壁はぶち壊れるだろう。


「貴方と口論する時間が惜しい。……テスト項目の完遂を確認、これより飛行場に帰還する」



 コックピットから降り、パイロットスーツを脱ぎながら自室に向かう。


 向かう最中あのイカレた天才博士が何やらガミガミと言ってきていたが、自室の扉を閉めてそれをシャットアウトする。


 デスクに座り、参謀本部技術開発部宛の手紙をサルヴィアは書く。


『機体のテスト結果は良好。されどそれはソリーデ・マルティア技術少尉の改良あっての結果である。アレクサンドル・リーピッシュ技師の機体設計は優秀であるが改良点は未だ散見される。ソリーデ少尉の改良後の機体を正式採用とし、これから改良を重ねていくことを具申する。以上』


「さて、これを本部に提出すればこのモルモット扱いの配置から外れることができるだろう」


 サルヴィアとしては前線勤務もあまり乗り気ではないが、ここでモルモットにされ、足掻くこともできずに死ぬ可能性がある方が嫌なのだ。


 サルヴィアはコーヒーを啜りながらふと思いつき、今度は参謀本部人事部宛の手紙を書く。


「これで我が新しい大隊は優秀な整備士も獲得できるかもしれないというわけだ」


 木製の椅子の背もたれに体重をかけながら頬を緩ませ、サルヴィアはコーヒーを啜る。



——太平暦1724年 4月9日 シュタイン・シュタット駐屯地


 約一か月ぶりに見る大隊の面々を前にサルヴィアは演台の上で口を開く。


「諸君、久しぶりだな。昨日の聖誕祭は楽しめたか? まぁそれはいい。第201大隊が解体と聞いて驚いたものも少なくなかったんじゃないか? ……もしかして毎度地獄に行かされるこの大隊から逃れられると思って喜んだ者もいたかもしれんな」


 サルヴィアがそう言うと皆が笑う。ちなみにサルヴィアはというとできれば参謀本部に移動になりたかったが、まぁ仕方ない。


「ちなみにだが我々はもう201大隊ではない。今日から我々は第666戦術特別航空大隊『ヴァルキリー』となる。編成は変わらないから安心しろ。それともうすぐ補充の新人どもが来る。あまり先輩風を吹かせすぎるなよ。……では何か質問は?」


 そう言うとフィサリスがスッと手を挙げる。サルヴィアが発言の許可を出すとフィサリスはゆっくりと口を開く。


「新任が来るにあたって何か特別な訓練や行事はありますか?」


 サルヴィアには考えがあった。それもとっておきの考えが。


 ニヤリと笑いながらサルヴィアはその質問に答える。


「あぁ、私としては新任歓迎会を計画している。皆も参加してもらうから楽しみにしておくといい。楽しいものになるぞ」


 サルヴィアの言葉を聞き、大隊の皆が歓声を上げて喜ぶ。彼女らが歓迎会を楽しみにしてくれているというのは計画者としても嬉しいものだ。


 今日までマスコミの対応、マーガレット中佐率いるアグレッサー部隊との訓練を味わているのだ。いくら都会で楽しんでいたとはいえ、息抜きの歓迎会というのは楽しみなのだろう。


「質問は以上か? では歓迎会を楽しみにしておいてくれ。大体結成そうそう訓練というのも流石に酷というものだ。今日は皆大いに休むといい」


「「イェーイ!」」


 喜ぶ皆の顔を見て頬を緩ませながらサルヴィアは演台を降りて宿舎に向かう。


 『歓迎会』実に楽しみだ……。

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