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第48話 雷神再来

『スルーズ07回避しろ! ブレイク! ブレイク!』


『クソッ! ピッタリついてきやがるッ! 回避できない! 誰か援護を——ッ』


『クソ! スルーズ07が撃たれた! 誰か援護にまわってやれ!』


『あ、あぁ! ち、腸が! 私の腸がぁぁぁ!』


『落ち着け、07! 基地まで帰れば衛生兵が見てくれる!』


 いくら援軍が来ると言っても阿鼻叫喚の地獄絵図。フリスト隊が加勢に来たから幾分か状況はマシになったものの、それでも奴らの腕は桁違いだ。


「ブリュンヒルデ01より02! 後ろの敵機を頼めるか⁉ 奴の下方から攻撃を仕掛けろ!」


『了解しました!』


 ストレリチア少尉がサルヴィアの背後についている敵機に死角から攻撃を仕掛け、下側からの攻撃をよけられなかった敵機はパイロットが死んだのか急に動きがなくなる。


『02一機撃墜!』


「よくやった! 少尉! このまま私は雷神に喰らいつく、私のケツが取られたらその時は頼む!」


『了解!』


 何とか雷神に喰らいついていくがクルリクルリと回避し、うまく攻撃を当てられない。


 それどころか、雷神は回避しつつも一機、また一機と第201大隊を喰っていく。恐ろしいまでのエース、以前の時よりも確実に腕を上げている。


 だがしかし、サルヴィアだってここまでの経験がある上に、ヴァルキリー大隊は精鋭ぞろいだ、確かに撃墜されていくものもいるが、こちらだって何機か墜としている。


 パッと見る限りで残っている敵の数は雷神含めて五機、やれないわけではない。


 それに全機撃墜せずとも良いのだ、おそらくあと数十秒耐えきればいい。


 サルヴィアがここからの戦術を考えながら雷神の背後を追っていると急にクルリと旋回し、背後を取られる。


『ブリュンヒルデ01! ブレイク! ブレイク!』


「分かっている! 大丈夫だ私にも秘策はある」


 サルヴィアは回避しながら急上昇を始める。


 エンジン性能はやはりこちらが上でこちらの失速していくよりも早く雷神の機体の失速していく。


 この上昇に乗った時点でもう雷神に逃げ場はない。


 ここで上昇を止めて反転すればサルヴィアも反転し背後を取れる。


 逆に上昇を続ければサルヴィアよりも早く失速し、これでもまたサルヴィアは背後を取れる。


 だがしかし、これはサルヴィアにとっても博打なのである。上昇している間に撃ち落されればそれまでなのだ。


 後ろから曳光弾が飛んできてはサルヴィアの機体を掠めて前へと飛んでいく。


 時々聞こえる金属音はおそらく何発か当たっているのだろう。しかし幸いなことに致命傷にはなっていない。


 そしてついにサルヴィアの待っていた瞬間が訪れる。


 雷神が失速したのだ、待っていたと言わんばかりにサルヴィアはフットペダルを踏みこみ機体を横滑りさせ機首を下に向ける。


 そして発射トリガーを引き絞る。


 勝った。


 おそらく誰もがそう思うだろう。しかし結果は違った。


 雷神はギリギリで失速状態から回復し、機体を捻って回避する。


 幸い数発が雷神の翼にあたり翼端がもげる。が、致命傷とはなっていない。


「クソッ! 仕留めきれないかッ!」


 だがまだ雷神の背後は取っている。次で仕留めるしかない。そう考えていると僚機であるストレリチア少尉からの無線が入る。


『ブリュンヒルデ01! 敵機がそちらに行きました! 回避を!』


 とっさに操縦桿を倒し回避する。


 つい先ほどまでサルヴィアがいた位置には機関銃の弾が飛び、あと一秒でも遅ければ間違いなくサルヴィアは蜂の巣にされていたであろう。


 ふと雷神の方を見るとこちらに背を向け自らが来た方に帰っていくところであった。


 そしてそれに追随するかのように黒き機体の者たちも帰っていく。何とか、何とか生き残ったのだ。


 そしてほどなくして無線が入る。


『こちら救援に来た第135航空大隊だ。コールサインはピクシー、ヴァルキリー隊の応答を求む』


 どうやら、増援を見て雷神たちは逃げていったらしい。


 大きく肩を揺らしながらサルヴィアは無線に応答する。


「……こちら第201特別大隊、ヴァルキリー大隊指揮官のブリュンヒルデ01だ。救援感謝する」


『よかった、生きていたかヴァルキリー隊! 我々の遅刻で英雄様たちを死なせてしまったのではないかとヒヤヒヤしていたぞ』


「何機かは墜とされたが、全滅はしていない」


『……そうか、すまない。我々がもう少し早くついていたら……』


「気にするな、貴官らは悪くない。ロベルト・フォッシュ基地が襲撃を受けたのだろう?」


 第135大隊はちゃんと来てくれたのだ、彼女らはちゃんと仕事をこなした、そんな彼女らを誰が責められるだろうか。


『あぁ、と言っても威力偵察のようなものだったが』


「そうか、だが任務は任務だ、貴官らは仕事を果たした、それだけだ」


『そう言ってもらえると助かる。では帰還してくれ、あとは私たちが引き受ける』


「あぁ、頼んだ。…………ヴァルキリー大隊各員、これより帰還する。全機編隊を組みなおせ」


『『了解……』』



——同年同日 ロベルト・フォッシュ空軍基地


 ブリーフィングルームにはサルヴィア及び各中隊の中隊長が居並んでいた。


 しかし出撃前のブリーフィングとは異なり暗い雰囲気だ。


「……シティス、第一中隊からは何機の被害が出た?」


「五機やられたわ、スルーズ07、アミアン少尉もさっき息を引き取ったわ」


「そうか……、第二中隊は?」


「二機やられた。でもそのうち一機の方のパイロットは生きているよ」


「そうか、不幸中の幸いと言ったところか……。では最後に第三中隊」


「はい、こちらは地上攻撃の際に一機だけ撃ち落されました、そのほかにも一名が腕に弾が掠ったようですが操縦に支障はないという事です」


「あの対空砲火の中よくぞ生き残ってくれた、……今回は皆よく戦ってくれた、これから私は大隊全員に向け話がある。皆を集めてほしい、解散」


「「了解」」


 そうしてサルヴィアは重い足取りで外へと向かう。

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