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第47話 フィリアノス要塞攻略戦 5

 それは一瞬だった。


 サルヴィアが周辺警戒を怠らないようにしていたにもかかわらず気が付かなかったのは奴らをが太陽を背にしていたからであろうか?


 それともサルヴィアも気が付かぬうちに気が緩んでいたせいなのであろうか?


 もしかしたらその両方が重なったためかもしれない。


 太陽の方角に数個の黒い点を見つけた。


 それが敵機だと分かるとサルヴィアは操縦桿を捻り回避機動をとる。そして同じく狙われているであろう、ブリュンヒルデ04——フィリア少尉に呼びかける。


「ブリュンヒルデ04! 回避しろ!」


『えっ?』


 呼びかけるのがあと数秒早かったら、フィリア少尉の緊張が緩み切っていなかったら結果は違ったのかもしれない。


 彼女に機体に曳光弾が突き刺さっていき、燃料タンクに引火したのか火だるまになる。


「クソッ! 04! 脱出しろ!」


『あっ、開かないッ! キャノピーが歪んで開かない! 熱い熱い熱い! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! まだ、まだ死にたくないぃ!』


『フィリア! 脱出して! 早く!』


 フィリア少尉は必死で内側からキャノピーを殴り、ストレリチア少尉は早く脱出するよう呼びかける。


 先ほどまでの和やかな空気は霧散し、繰り広げられているのは阿鼻叫喚の地獄絵図だ。


「02! 回避しろ! 貴官も狙われている!」


 幸いにもストレリチア少尉はサルヴィアの警告に反応でき、間一髪で敵の攻撃を回避する。


 上手く回避したストレリチア少尉はフィリア少尉にまたしても呼びかける。


 ストレリチア少尉とフィリア少尉が普段から仲がいいのは知っていた。それゆえだろうか。


 サルヴィアはもう諦めていたが、ストレリチア少尉は諦めきれないのだろう。


『早く! 脱出して! 早く!』


 ストレリチア少尉の必死の呼びかけも虚しく、帰ってくるのはフィリア少尉の悲鳴だけだった。


『開かないのッ! 開け! このっ! 開いてッ、開いてよ! 嫌だ、嫌——』


 フィリア少尉の機体はそのまま地面に突っ込み、爆炎とともに消えた。


 サルヴィアは思考を切り替え、敵を見る。一機は機体に稲妻のマーク、間違いない——雷神だ。


 そして雷神を先頭に七機の戦闘機が一糸乱れぬ編隊を組んでいる。


 雷神もそうだが、他の七機も見たことがない機体だ。おそらくは舩坂の新型機だろう。


 通常、舩坂重工の戦闘機は伝統的に暗緑色の塗装だが、今回の雷神たちは違う。


 真っ黒に塗装し、翼の縁なんかは赤く縁どられている。完全にエース仕様という事だろう。


 「大隊各員、傾注! 敵の新手だ! 敵機は雷神含めても八機だがおそらくかなりの凄腕だと思われる。慎重に行け!」


『ら、雷神……!』


 大隊の誰かの驚愕している声が聞こえる。


 状況は最悪。長期間の戦闘の上に敵のエースパイロットとの不意遭遇戦。これほどまでに最悪な条件があるだろうか?


 サルヴィアは心の中であのメガネを掛けた、根暗そうな自称創造神に罵声を浴びせる。


「スルーズ隊は無論奴らを、フリスト隊は爆弾を落としたものから戦闘に加わってくれ! 私とブリュンヒルデ02で雷神を叩く! 行けるな? 02!」


『アイツがフィリアを……。絶対に殺します!』


「落ち着けブリュンヒルデ02! 奴は手ごわい。貴官は援護でいい、できるだけ隙を作ってみるからその隙に機銃を叩き込め!」


 サルヴィアは敵機の攻撃を回避しながらなんとか雷神に喰らいつく。がしかし、流石は雷神。まったくもって隙が無い。


 雷神を追いながらもサルヴィアはCPに無線を飛ばす。


「こちらブリュンヒルデ01! 援軍はまだか⁉」


『CPよりヴァルキリー隊。援軍到着まであと六〇。耐えてくれ』


「……っ! 了解」


 あと一分。あと一分耐えれば援軍が到着する。


「ブリュンヒルデ01より大隊各員。援軍到着まであと一分だ。それまで何とか持ちこたえろ!」


『『了解!』』


 少しは皆に士気が戻っただろうか、先ほどの絶望的な雰囲気ではなくなった。


 しかし未だに最悪な状況であることには変わりない。


 それにしても今までの舩坂産の戦闘機に比べるとエンジン性能が段違いだ。こちらの機体ほどではないがかなり馬力が上がっている。


 しかし、それは機動性を犠牲にしているという事でもある。


 航空機において速度と機動性は基本トレードオフだ、未だに奴らの機動性はこちらよりは高いだろうが、それでも今までの機体に比べたらマシだろう。


「ヴァルキリー隊各員、奴らは新型機だ。おそらくエンジン性能が今までのと比べると段違いだ。気を付けろ!」


『や、奴ら操縦の腕が段違いです! あぁっ! 後ろにつかれたッ! 誰か——』


『クソっ! よくもあいつをっ! ……ひっ——』


 無線の途中で声が途切れる。おそらく撃墜されたのだろう。


 空の世界は本当に残酷だ。一瞬で命が花のように散る。


 たったこの一瞬で二機が墜とされた。このままでは援軍到着まで持たない。


 そこでサルヴィアはフリスト隊に呼びかける。


「ブリュンヒルデ01よりフリスト隊! 爆弾は全機投下できたか!?」


『こちらフリスト01! 約半数が投下し終えました!』


「よろしい! もったいないが全機爆弾を投棄。こちらの援護に入ってくれ」


『了解! 中隊各員聞いていたな? 全機爆弾を捨てろ! これからブリュンヒルデとスルーズの援護に行く!』


『『了解!』』


 これでおそらくあと四十五秒ほどの時間を耐えきれるはずだ。


 たった四十五秒だが空の世界では一秒の差で生死が決まることはざらだ。


 そう考えると四十五秒という時間がどれほど重いかがわかる。


「援軍到着まで何とか耐えきるぞ! ヴァルキリー隊、エンゲージ!」

読んでいただきありがとうございました。

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