第44話 フィリアノス要塞攻略戦 2
——太平暦1724年 2月25日 フィリアノス要塞 近郊上空
眼前には巨大な要塞とその前面にあるのは地平線まで続く塹壕陣地。何度見ても驚愕せざるを得ない程頑強な要塞陣地だ。サルヴィアはため息が出そうになるのを抑えながら地上部隊による準備砲撃を待つ。
『コマンドポストよりヴァルキリー隊。ただいまより砲兵部隊による準備砲撃を開始する。作戦空域突入の準備をされたし』
「ブリュンヒルデ01了解。せいぜい戦乙女の名に恥じないよう微力を尽くす」
大隊のコールサインはヴァルキリーだが指揮小隊、第一第二第三中隊にそれぞれコールサインが与えられている。
サルヴィア率いる指揮小隊は『ブリュンヒルデ』、シティス率いる第一中隊は『スルーズ』、フィサリスの第二中隊は『フリスト』、そしてグロリオサ中尉の第三中隊は『ランドグリーズ』だ。どれも戦乙女の名前からとられており、それぞれが意味を持った名前だ。
無線を終えると味方の砲兵陣地から一発の砲弾が放たれる。おそらくは基準砲による初弾であろう。
一発の砲弾が敵の陣地に吸い込まれたのちに、一斉に砲兵陣地の榴弾砲が火を噴く。いつ見ても壮観だ。砲兵は戦場の女神という言葉があるが、上から見るとそれを確信せざるを得ない。
あっという間に敵の陣地は爆炎と土煙に覆われていく。そしてそんな中を戦車と歩兵が突撃をしていく。
しかし、敵も黙ってやられてくれるわけではない。要塞から放たれた砲弾は功を描いて飛んで行き、味方の歩兵をミンチに、戦車を鉄塊に変えていく。
このままでは地上軍が敗北するのは火を見るよりも明らかだ。故にサルヴィアは気乗りしないながらも命令を下す。
「諸君! これから我々第201特別大隊は制空権をとったのちにフィリアノス要塞を落とす! 奴らに戦乙女の恐ろしさを叩き込んでやれ!」
『『了解!』』
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——同年 同日 フィリアノス要塞上空
「クソッ! 奴ら対空兵装を整えやがった! 各員、ちんけな豆鉄砲に落とされるんじゃないぞ!」
下からは地上用の機関銃を現地改修したであろう対空機銃の弾が飛んできて、それに混じって時折かなり大きい弾も飛んでくる。
おそらくは野戦砲や対戦車砲を無理やり上に向けて撃っているのだろう。前世のように時限信管砲弾を撃てる高射砲なんかが無いのは救いだが、万が一あの弾が当たれば機体ははじけ飛ぶだろう。
前回の攻撃で敵は空からの攻撃の恐ろしさを味わい、対空意識というものが生まれたのだろう。ただでさえ先鋒と言う難しい仕事が地獄のように難易度が上がってしまった。
それに加え簡易的な修理を終えた飛行場からは迎撃に戦闘機が上がってくる。まずは要塞の航空基地としての能力を奪わねばと考えたサルヴィアはグロリオサ中尉に無線機越しに命令を飛ばす。
「ブリュンヒルデ01よりランドグリーズ01、少し早いが地上攻撃を許可する。高高度からでもいい、あの飛行場を黙らせろ!」
『ランドグリーズ01了解! 中隊各員、あの飛行場を耕すぞ!』
グロリオサ中尉にしては珍しく随分とテンションが高い。それはそうだ、こんな対空砲火の中にいて、且つ制空権は完全に取れていないのだ。アドレナリンが過剰分泌されているのだろう。
「フリスト隊、ランドグリーズ隊の援護にまわれ! スルーズ隊は私とともにとっとと制空権を確保するぞ! 各員、奴らは手ごわい、油断するなよ!」
『『了解!』』
こちらに突っ込んでくる迎撃機を軽く叩き墜とし、周囲を確認する。飛行場からは未だ迎撃機が上がろうとしており、駐機場は満員と言ったあり様だ。
「奴ら、どれだけここに機体を集めたんだ……」
『こちらブリュンヒルデ02。敵の対空砲火が邪魔で制空戦に集中できません!』
ストレリチア少尉の悲痛な声にサルヴィアは努めて冷静に返す。
「少尉、可能な限り敵機に張り付け。味方に近ければ奴らも撃ってこないだろう」
『了解!』
正直サルヴィア自身とりみだしたいほどの状況だが、指揮官がそれでは部下も不安になる。故にサルヴィアは罵詈雑言を吐きたい気持ちを必死で殺し、淡々と敵機を墜とす。
おそらくは皆この激戦で余裕をなくしているだろう。このまま余裕がない状態で戦い続けるのはマズい。そう考えサルヴィアは口を開く。
「ブリュンヒルデ02、貴官は何機墜とした?」
『——ッ! 今、三機目を墜としました!』
「もう三機か。ちなみに私は五機墜としたぞ。今回の戦いで私よりスコアが良い奴には私秘蔵の本物のコーヒーをおごってやろう。ちなみに紅茶もあるぞ」
『『おぉー!』』
『こちらランドグリーズ01。そのスコアには地上兵器の破壊数も入れていいのですか?』
「あぁ、いいぞ。存分に壊し給え」
『聞いたなランドグリーズ隊! 今回のコーヒーは私がいただく、くれぐれも私の獲物を横取りするなよ!』
『中隊長! 独り占めは良くありません私達にも譲ってくださいよ』
味方の背後を追う敵機を叩き墜とし、サルヴィアは第三中隊の者に尋ねる。
「っと。ランドグリーズ隊、ランドグリーズ01は普段からこんな砕けた態度なのか?」
『は? えぇ、中隊長は私たちの前ではいつもこんな感じです。……あー、でも確かに中隊長は大隊長の前ではいつもいい子ちゃんですもんね』
『おい! ランドグリーズ03それを言うんじゃない! 少佐殿に変な誤解をされるだろうが。基地に帰ったら覚えておけよ!』
「ほぅ、まさか中尉の意外な一面を知ることになるとはなぁ……。いやぁ、帰ってからのデブリーフィングが楽しみになって来たぞ」
あの真面目なグロリオサ中尉の意外な一面にサルヴィアも思わず頬を緩める。
『『はははっ!』』
どうやら大隊の緊張はいい感じにほぐされたようだ。それを確認しサルヴィアは少し安堵する。
「いい感じに緊張もほぐれたな。ヴァルキリー隊各員、傾注! これより我々は完膚なきまでに奴らを叩くぞ! 皆死ぬなよ!」
『『おぉー!』』
こうして歴史に残る大戦闘、『フィリアノス要塞攻略戦』が幕を開けた。
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