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第43話 フィリアノス要塞攻防戦 1

——太平暦1724年 2月24日 ロベルトフォッシュ空軍基地


 第201特別大隊の隊員が演台の前に整列する中、サルヴィアは演台の上で手を後ろに組み、胸を張って声を張り上げる。


「諸君、喜べ! 我々は(きた)る大作戦において先鋒を務めることになった! 作戦名は『氷原の夜明け作戦』だ! 今回の攻勢の目的は、かのフィリアノス要塞の陥落にある。以前の我々の対地攻撃における戦果を鑑みて、参謀本部は我々第201特別大隊に先鋒を務める栄光を与えてくださった。皆、上の連中の期待に沿えるよう奮戦せよ!」


「「了解!」」


 正直なところサルヴィアとしては先鋒を務めることにあまり乗り気ではない。むしろ、できることならば火消し係くらいがよかった。まぁ、こんなことは戦意がないとして摘発されかねないため口が裂けても言えないが……。


 しかし悲しいかな、サルヴィアは先鋒として要塞に切り込み、相手の反撃を一番に味わうこととなった。


 第三中隊分の攻撃機が配備され、今まで第三中隊が使っていた戦闘爆撃機は第二中隊に行き渡ったのは不幸中の幸いと言ったところだろうか。


 これで少なくとも対地攻撃能力は上がった、今までの二倍以上と言っても過言ではない。


 苦い顔をしたい気持ちを必死で抑え、勇ましい顔を張り付け、サルヴィアは口を開く。


「第一中隊は今まで通り制空戦を、第二中隊は第一中隊とともに制空権を確保したのち、地上攻撃に加われ。そして第三中隊、お前たちは第一第二中隊が制空権を確保した後爆撃を敢行。敵要塞の砲撃能力及び航空基地としての機能を奪え。我々のコールサインは『ヴァルキリー』だ」


「「了解!」」


 戦乙女(ヴァルキリー)がコールサインとは随分と上の連中は自分たちに期待しているのだな、とサルヴィアは思い、胃が痛くなる。

 胃に大穴が開く錯覚を覚えながらすべて言い終えたサルヴィアは質疑応答に入る。


「では私からは以上だ。何か質問があるやつはいるか?」


「質問です!」


「なんだシティス中尉?」


「我々第一中隊は制空権確保の後、地上攻撃への参加は認められるのでしょうか?」


「あぁ、許可する」


 第一中隊の隊員から少し歓声が沸く。どうやらサルヴィアが思っている以上に第201特別大隊の面々は戦意が高いらしい。


「他に質問は? …………無いようだな、では各中隊長はこの後大隊指揮所に集合。ブリーフィングを行う。以上、解散」



「ではこれより、氷原の夜明け作戦におけるブリーフィングを開始する。三人とも楽にしてくれ」


「了解、大隊長さん」


 そう言ってシティスが椅子に腰かける。中隊長クラスのみで集まりサルヴィアが楽にしてくれと言うのは、階級関係なしにいつも通り接しても良いという合図だ。


 サルヴィアの合図にシティスとフィサリスは緊張を解く、グロリオサ中尉は流石に二人ほどとは言えないが、普段よりは肩の力を抜いているようだ。


「今回の作戦について率直に聞く。三人はどう考える? まずはシティスから聞こう」


「そうね……、私は何とかなるんじゃないかと踏んでいるわ。この前の戦果は十分だった、その上今回は正規の攻撃機に加えてフィサリス達にグロリオサ達のお下がりのSf109の爆撃仕様があるわ、前回よりも戦果をたたき出せるはずよ」


「そうか……。では次はフィサリス」


「そうだね、私もシティスに同感かな。爆弾の搭載量で言えば前回の二倍以上は全然あるから、要塞に対して致命的な一撃を与えられるんじゃないかな?」


 どうやらシティスとフィサリスはサルヴィアとは違い、今回の作戦に前向きなようだ。


「ふむ、ありがとう。では最後にグロリオサ中尉、貴官はどう考える?」


「…………恐れながら小官は今回の作戦はいささか急ぎすぎかと考えます」


「……何故、貴官はそう考える? 別に戦意が低いとかで摘発するつもりはない、貴官の忌憚なき意見を聞かせてほしい」


「はっ、まず我が中隊には新型の攻撃機が配備されたばかりであります。それゆえ、おそらく練度が最高ではないかと考えます。それに、地上部隊の慌てよう、あれはまだ大規模攻勢の準備が万全ではないことを示しています。よって今回の作戦は失敗の可能性を孕んでいるおり、大成功とはいかないのではないかと愚考いたします」


 完璧だ、サルヴィアと全く同じ意見だ。このように忌憚のない意見を言える人間が上にもう少しいたのならこの作戦は繰り上げにならなかったのかもしれない。


 しかし、参謀本部が戦果を急ぐのも分からなくはない。風の噂によると内部の方ではあまりにも長く硬直している戦局を見て企業間の見世物の戦争に異議を唱えている連中がいるらしい。


 サルヴィアとしてはその考えに同感だが、自分も反対派として声をあげれば粛清されるのは目に見えている。


「……なるほどな。グロリオサ中尉の言葉を参謀本部の連中にも聞かせてやりたいよ。奴らは戦果を急ぎすぎだ、まぁ戦争反対派の連中を黙らせるのには輝かしい戦果が要るのは分からなくもないがな」


「へぇ、アンタが弱気な意見を言うのは意外ね」


「そうだね、サルヴィアは雪中行軍の時もそうだったけど、いつもかなり無茶難題をふってくるから今回の作戦もいけると考えてると思ってたよ」


「私だって、無茶をさせるが何も死にに行けとは言ったことはないだろう?」


「つまり少佐は今回の作戦はかなり熾烈なものになると考えているという事ですか?」


「あぁ、普段の任務に比べたら、格段と難易度は高いだろう。しかしだ、私たちは練度で言えばおそらくR&Hインダストリー軍最強だ。何とかなるんじゃないかとも考えている」


「なるほど、確かに我々に今回与えられたコールサインが『ヴァルキリー』という事からも我々がいかに軍部から期待されているかがうかがい知れますね」


「そう言う事だ。……というわけで今回の作戦について再度詳細の確認をしていく。まず第一中隊が————」


 斯くして難攻不落のフィリアノス要塞攻略作戦は幕を開けていく。

読んでいただきありがとうございました。

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