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第42話 航空攻撃 2

 上昇しながらサルヴィアは現状の戦局を見る。


 ふと要塞本体の方を見やると第三中隊の一部が最上階にある砲兵陣地に対し急降下爆撃を仕掛けている真っ最中だった。


 機体から切り離された爆弾は野戦砲めがけて落下していき見事命中する。

 爆炎が晴れた後に残っていたのは炎に包まれもがいている人間と、ひしゃげた野戦砲、そして必死に消化しようとしている者だけだった。


 まさか空から直接要塞に攻撃が仕掛けられるとは思っていなかったのか対空砲火はまったくと言っていいほどない。

 中には小銃で必死に撃ってくるものもいるが当たるわけがない。


「こちら01。そろそろ切り上げるぞ。他の地域から戦闘機が来るやもしれない。やるだけやって逃げるぞ」


『『了解!』』


「にしても第三中隊は随分派手にやったな」


『やりすぎでしょうか?』


「いや、よくやった。これでしばらく地上の連中の頭に砲弾が降ることはないだろう。それに滑走路も穴だらけだ、応急修理まで時間はかかるだろう」


 第三中隊は実にいい仕事をしてくれた。なんせ、要塞屋上の野戦砲群、滑走路、その他諸々を破壊してくれたのだ。


 本格的な攻勢の際には正規の攻撃機も揃う。つまり爆弾搭載量も今よりは多くなるはずだ。


 現在の第三中隊の機体Sf109 D-2のペイロードには二五〇キロ爆弾一発が限界だが、新しく配備されるという攻撃機には二五〇キロ爆弾が三発もしくは五〇〇キロ爆弾一発に二五〇キロ爆弾二発が搭載できるとのことだ。


 攻撃機が配備されたら今あるSf109D-2は第二中隊に配備し、第三中隊は攻撃機編成と言うようにしようとサルヴィアは考えニヤリと笑う。


 自分の考えた編成にでき、それもかなりの優遇を受けられるのだ。大隊長としては楽しくないわけがない。

 そんなことを考えながらサルヴィアは基地へと帰還する。



——二週間後


 何故こうなったのだろうか?

 自分が何か悪いことをしたのか?


 そう自意識の中で自問自答を繰り返しながらサルヴィアは基地司令の話を聞く。

 曰く、サルヴィア達第201特別大隊はやりすぎたらしい。


 今回の戦果を見た上層部は本格的な要塞攻略戦の予定を繰り上げ、陸・空合同の大規模攻勢を仕掛けることが決定したらしい。


 本来であればあと二週間は先の予定だったはずなのだが上層部は一刻も早く要塞を攻略、この停滞した戦線を押し上げたいらしい。


 一方現場の人間からするとたまったものではない。予定を大幅に繰り上げての大規模攻勢、確かに新型の攻撃機の配備などは終わった。しかしだ、それは第201特別大隊だけのことに過ぎない。


 陸軍やその他の空軍、兵站を管理する者にとっては無茶ぶりもいいところだ。そしてそれはこの基地司令も例外ではなかった。


 参謀本部から攻勢の繰り上げをほぼ一方的に申し付けられ、その上無理だと、もう少し時間がいると言ったら、何とかせよと言われるのだ。


 そして極めつけは


「そちらには参謀本部直属の部隊、虎の子の第201特別大隊がいる。だから安心せよ」


 だそうだ。

 参謀本部は第201特別大隊を万能のエース部隊か何かと勘違いしているらしい。そしてそのようなことを言われた基地司令の怒りと期待の矛先は無論サルヴィアに向かう。


「サルヴィア少佐。貴官はやりすぎた。やりすぎたのだ!」


「はっ。申し訳ございません」


 なんで謝らなくてはならないのだろうか。怒鳴るのなら参謀本部に怒鳴ってほしいものだ。これはほぼ八つ当たりみたいなものではないか。


 サルヴィアは心の中でこの八つ当たりしか能がない上官と、神に唾を吐きかける。


「サルヴィア少佐。貴官には次の大規模攻勢における先鋒を務めてもらう」


 何という事だ……! それは流石にマズい。一番槍と言うのは往々にして被害が出る。それだけは困る。せっかく育てた優秀な人材を失うというのも嫌だが、何よりサルヴィア自身死ぬかもしれないのだ。


 あと死ねる回数は四回だ、たったの四回しかないのだ。あと四回死ねると考えたとしても可能な限り楽な任務であるに越したことはない。


 故にサルヴィアは抗議する。


「恐れながら基地司令、私の指揮権は参謀本部に帰属いたします。あなたに私の大隊を指揮する権利はないかと小官は考えます」


「……そうだな。私にその権限は確かにない。しかしだ、参謀本部、厳密にはエメリアノヴァ少将閣下には指揮権はあるのだろう?」


「はい。その通りです」


「では、これを見たまえ」


 そう言って手渡されたのは茶封筒。ご丁寧にもでかでかと参謀本部と書かれており、それを証明する印鑑まで押してある。


 正直開けたくはない。いやな予感しかしない。しかし、開けざるを得ないのだ。


 中から書類を取り出し、指令書を一読し、サルヴィアは天を仰ぎそうになる気持ちを必死で自制する。


 曰く、『第201戦術特別航空大隊はフィリアノス要塞攻略戦における先鋒を務め、制空権の確保及び、要塞の航空基地としての能力の喪失、砲兵陣地としての能力の喪失に努めよ』とのことだ。


「わかったか、サルヴィア少佐? これは私の命令ではない。参謀本部の命令だ」


「……了解いたしました。……要塞陥落の一助となるべく微力を尽くします」


「よろしい。では今後発令される大規模作戦のために準備したまえ」


「はっ」


 そうしてサルヴィアは指令室を後にして自室へと向かう。


 部屋に入り乱雑に書類をデスクに投げ、椅子に座って思い切りデスクを拳で叩く。


「くそっ! こんなことがあってたまるか! 何が先鋒を務め制空権の確保及び、要塞への攻撃だ! 無茶ぶりにもほどがあるぞ!?」


 そうしてサルヴィアはコーヒー豆をダース単位で噛み締めたような顔で再度書類に目を通し始める。



 その時、後の歴史に残る大作戦が幕を開けようとしていた。

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