第40話 初陣 4
「思ったより釣れなかったな」
『ですね』
「三機くらいなら軽くひねって、上のやつらの援護に行くぞ」
『了解です』
敵機は何の迷いもなくこちらに突っ込んでくる。射程距離に入るとサルヴィアとストレリチア少尉は機銃を一連射する。
サルヴィアの放った弾が先頭の機に命中し、火を噴きながらクルリクルリと墜ちていく。ストレリチア少尉の放った弾は残念ながら致命傷にはならなかったものの敵のエンジン部に当たったらしく、残った二機のうち一機は黒煙を吐いている。
そのまま二人は敵の下を通過する形で離脱する。
『大尉、一機撃墜、お見事です!』
「貴官のも命中したようだぞ、あれはもう戦闘機動はできまい。なかなか腕をあげたな少尉」
『ありがとうございます!』
「残りの一機は私が惹きつける。貴官がやりたまえ」
『はっ!』
そうしてあえてサルヴィアは残りの敵機に格闘戦を挑む。当り前ではあるがあっさりと背後はとられた。
操縦桿を斜め横に引き、敵の放つ弾を回避する。
敵はピタリと背後についているようだ。コブラ機動で背後にまわって敵を撃墜してもいいが、折角だからストレリチア少尉のスコアを増やしてやるべきだ。
「少尉! 私は右に旋回する。その時に叩き墜としてやれ!」
『了解!』
そうしてサルヴィアは右に旋回する。無論敵もそれについてくるが、サルヴィアからは見える。——完全に敵を照準器に収めたであろうストレリチア少尉の機体が。
そしてストレリチア少尉の放った弾は綺麗に敵に突き刺さっていき、敵機は火だるまになって墜ちていった。
「よし、よくやってくれた。やはり持つべきは優秀なバディだな」
『そ、そんな、褒めすぎです! 大尉が誘導してくださったから墜とせたんです』
「そうか、ではそう言う事にしておこう。次は上のやつらの援護に行くぞ。……と言ってももう終わりそうだな」
サルヴィアがふと上を見ると明らかに敵の数が減っている。
だが、まだ獲物は残っているようだ。サルヴィアとストレリチア少尉は機首を上げ上昇していく。
「少尉、あの腹を見せている敵機は私がもらってもいいか?」
『どうぞ、では私は十時の方向のやつをいただきます』
「あぁ、これが終わるころにどちらが多く墜としたか競争といこう、貴官が勝ったら私の秘蔵のコーヒー豆を分けてやろう」
『それは勝たないといけませんね!』
どうやら副官は相当やる気が出たようだ。案外現金な奴だなとサルヴィアは思わず笑う。
腹を見せている間抜けな敵機に弾を浴びせ、そのまま水平に機体を戻す際に目に入った敵機にさらに弾を浴びせかける。
これで二機だ。後は友軍機を追いかけている敵機の背後にピタリとつき、追われている機に無線を飛ばす。
「おい、三十二番機、私が合図したら左に回避しろ!」
『了解!』
「……今だ! 回避!」
それを言い終わると同時に味方が回避する。そしてサルヴィアは機銃の発射トリガーを引き絞り、搭載機銃を唸らせる。
追うことに必死で後ろに目が行っていなかった敵機は無慈悲にも、翼はもげ、地に墜ちていく。
これが空だ、一瞬でも油断したりすればどんなパイロットでも問答無用で死ぬ。それはサルヴィアも例外ではない。だからこそ、サルヴィアは常に油断することがないようにしている。
ふと周りを見やると、敵はほぼ全滅しており、残った敵も今や逃げ帰っている。
これならばロクに偵察もできていまい。任務達成と初陣を終え、サルヴィアは軽く息を吐き出す。
「諸君、死んだやつはいるか?」
『『……』』
「よし、誰も死んでないようだ。まぁ死んだやつは喋れないが」
サルヴィアのジョークに大隊員が笑う。
「では改めて、被害報告」
『第一中隊、六機が被弾。しかし損害はどれも軽微です』
『こちら第二中隊、五機被弾。うち一機が中破、早急に帰還させるべきです』
「了解、中破した奴はバディと一緒に帰還。それ以外は私と上空待機」
『『了解!』』
そしてサルヴィアは基地に無線を飛ばす。
「こちら第201特別大隊。ヘッドクォーター応答願う」
『こちらヘッドクォーター。どうした?』
「一機が被弾。戦闘継続不可とみなし、帰還させた。こちらは反撃ができるがどうする?」
『ヘッドクォーター了解。反撃を許可する。こちらとしても攻撃機部隊とやらの実力を楽しみにしている』
「了解。空の恐ろしさを連中に刻み込んでやるから楽しみにしておいてくれ」
そして今度は第三中隊に無線をかける。
「地上攻撃の許可が出た、至急上がってこい」
『『了解!』』
これから史上初めてとなる、航空爆弾による空襲が行われようとしていた。
評価やコメント是非にお願いします✨
皆様方の応援をエネルギーにわたくしは書き続けられます( ;∀;)