第38話 初陣 2
——太平暦1724年 2月3日 シュタイン・シュタット駐屯地
「諸君、これから我々は戦場にいく。訓練ではない。使用する弾薬はペイント弾でも模擬爆弾でもない。当てれば殺し、当てられれば殺される」
単純明快な事実だが単純故にすんなりと飲みこめるのであろう。大隊員の表情が少しこわばる。
「一つ重要なことを話そう。……当たり前だがこれは見世物の戦争だ。中には戦うことを夢見て、憧れを抱いてこの場に立っている者もいるかもしれない。そんな奴はすぐに死ぬ、それも仲間を巻き込んでだ」
いったい何人の人間がこの世界ではそのちっぽけなヒロイズムに酔って仲間を道ずれに死んだのだろうか? ストレリチア少尉もはじめはそうだった。
しかしあの時諭したことをまだ覚えていればそのような戦争を崇高なものととらえる考えは消えているはずだ。
「戦場ではカッコいいもクソもない。そこにあるのは殺し殺されの地獄だけだ。私は諸君らに戦場を曲解している愚か者がいないと信じている。仮に自分がそうだと思うのならその考えは今すぐ捨てろそして横にいる仲間を見ろ。捨てなければ死ぬのはお前とその仲間だ。わかったな!」
「「はっ!」」
「よろしい、そして今ので怖気づいてしまったものはいるか? ……そのようなもののために言おう。諸君らは、第201特別大隊は強い。上層部からも高い評価を現段階で受けている。アグレッサー部隊にあそこまでうまく戦えたのだ、自分に自信を持て! 仲間を信じろ! 以上だ!」
演説を終えると201大隊の部下たち約50名が一斉に敬礼をする。それにサルヴィアは敬礼を返しながら全員の顔を見ていく。大丈夫だこの中に怖気ずいたり調子に乗っている者はいないと分かる。
「では、自分の機体に乗り込め! 前線拠点まで行くぞ!」
「「はっ!」」
大隊全員が駆け足で自分の機体に向かい走っていく。そしてサルヴィアも自分の機体に乗り込むべく歩みを進める。
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——太平暦1724年 2月4日 ロベルトフォッシュ空軍基地
基地誘導員の指示に従いサルヴィアは機体を止める。
今いる基地はロベルトフォッシュ空軍基地、前世で言うところのスウェーデンとフィンランドの国境付近に位置する基地だ。
ここは北部戦線ともほど近く、戦術的にも重要な拠点だ。近くに港もあり、北部戦線の兵站の一翼を担っている拠点でもある。
ここを突破されれば北部戦線の兵站線はかなり貧弱なものとなるだろう。しかし、この戦線を押し上げることができたのなら東部戦線の友軍とで舩坂重工は北と南西とで挟まれる形となる。
しかし、ロベルトフォッシュから前線、海沿いに行くとある難所が立ちはだかっている。舩坂重工の要塞、フィリアノス要塞だ。
要塞の前には川幅一〇〇メートルほどの川が流れており、天然の堀がある。それに要塞の南は海に面しており二方向を天然の防壁で閉ざしている難攻不落の要塞だ。
そんな要塞があるためR&Hインダストリー陸軍は攻めあぐねているのだ。
そんな中第201特別大隊はここに配属となったのだ。間違いなく最終目標はフィリアノス要塞だろう。
要塞には航空基地としての側面もあり、敵航空機の反撃は苛烈なものになるだろうとサルヴィアは頭を抱える。しかし、自分の大隊が強いのも事実。どうにかここを乗り越えねばとサルヴィアはコーヒーを啜る。
本当であれば本物のコーヒーが飲みたかったし持ってきてはいるがそれは初陣が終わってからのお楽しみだ。
故にサルヴィアは風味もない代用コーヒーを「こんなにマズかったか?」と思いながらも啜る。
明日は第201特別大隊の初となる出撃だ。何も起きないことを願いながらサルヴィアは作戦要綱を再度確認する。
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