第37話 初陣 1
——太平暦1724年 2月2日 R&Hインダストリー・軍務省
サルヴィアは昨晩丁寧にアイロンがけをしたホコリ一つついていない綺麗な士官服を身にまとい重厚な木製の扉をノックする。
「サルヴィア少佐です。ヴァレリア・ミハイロヴナ・エメリアノヴァ少将にご挨拶に伺いました。入室許可を願います」
「あぁ、入れ」
扉を開けて中に入ると執務机越しに黒髪の美しい女性と目が合う。若そうに見えるが階級からしておそらく三十代だろう。
「サルヴィア少佐以下第201戦術特別航空大隊がエメリアノヴァ少将閣下の指揮下に入るにあたって挨拶に伺いました」
「あぁ、ご苦労。それにしてもサルヴィア少佐、貴官は若いな。……いや幼いとまで言える」
「はっ! この歳としては見合わない程の過分な評価をいただいております」
「サルヴィア少佐、今何歳だ?」
太平暦1722年11月1日が転生してきた日で、その日を誕生日としているサルヴィアはつい三ヶ月ほど前、十二歳になったばかりだ。
「ちょうどこの前十二歳になりました」
「十二か……。かなり若いな。貴官としてはどうだ?大隊長としてやっていく自信はあるか?」
どうやらエメリアノヴァ少将はサルヴィアの異例中の異例ともいえる若すぎる出世故の実力に疑念があるようだ。
それもそうだろう。会社でつい最近まで大学に行っていたような新入社員がいきなり昇進していき、二年程で部長になったら誰でも異常に思うはずだ。
サルヴィアはまさにそんな人間なのだ。正直に言うとサルヴィアとしては大隊指揮の自信はさほどない。むしろこの小さな体に圧し掛かる責任に押しつぶされそうなまである。しかしここで自信がありませんなんて口が裂けても言えない。
「はい、自信はございます。必ず、大隊を指揮し、我が社の勝利の一翼を担えるよう奮戦いたします」
やるしかない、やるしかないのだ。たとえどんなに無茶難題を言われてもブラック企業に勤めていた前世では何とかこなしてきた。まぁ、こなしてもより高い水準を求められるだけであったが……。
「……そうか、それを聞いて安心した。聞いたというより『見た』だな。貴官の目は物事を成し遂げる者の目だ。あまりにも若い少佐が部下になるというから期待半分、心配半分で待っていたがその目ならば大丈夫だと私は今確信した」
「ありがとうございます!」
「サルヴィア少佐、貴官の奮戦、期待しているぞ。貴官も忙しいだろう、下がってもいいぞ」
「はっ! ありがとうございます! ご期待に沿えるよう微力を尽くします!」
そうしてサルヴィアはエメリアノヴァ少将の部屋を出る。
正直胃に穴が開くかと思った。毎度自分よりもかなり階級が高い人間と会うというのは精神的にかなり負担だ。それに自分はやけにそのような人間と会う機会が多い。
恵まれているのか、ついてないのかわからない程だ。
自意識の中でそう独り言ちたサルヴィアはその脚を自分の大隊の待つ駐屯所に向ける。
これからサルヴィア達——第201戦術特別航空大隊の初陣が始まろうとしていた。
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