第35話 教導演習 4
サルヴィアたち指揮小隊はマーガレット機の上方をとっており確実に有利な位置関係だ。そしてマーガレット機はサルヴィアたちに背後を見せている。しかし確実にこちらに気づいているだろう。
かといって攻撃を仕掛けなけれは次々に第201特別大隊の面々は喰われていくだろう。どちらにせよサルヴィア達は攻撃を仕掛けねばならない、そのような状況をマーガレットは作っているのだ。
もはや迷っている暇がないと判断したサルヴィアは小隊員に無線を飛ばす。
「これから攻撃を仕掛ける。私が合図すると同時に右に回避しろ。いいな?」
『『了解!』』
「ではいくぞ——ッ!」
サルヴィアが攻撃を仕掛けに降下するとマーガレット機は急制動してこちらに機首を向けてくる。やはりだ、やはり気づかれていた。しかしこうなることはサルヴィアも想定している。
「今だ! 回避しろ!」
サルヴィア達小隊はその合図とともに回避機動をとる。しかしほぼそれと同時にマーガレット機は発砲する。
『ッ! こちら三番機やられました。申し訳ありません!』
どうやら三番機がやられたらしい。しかし今更悔いても意味がない。
「そうか、了解した」
それだけ言ってサルヴィアはマーガレット機の背後をとろうと操縦桿をひっきりなしに動かす。おそらくマーガレット機とのこの機動には誰もついてこれないだろうと考えているところにストレリチア少尉からの無線が入る。
『申し訳ありません、大尉! 我々ではその機動についていけません!』
「わかった。では私を邪魔しようとする機体が居たらその相手を頼む」
『了解!』
さて、もはやこの戦いはほとんどサルヴィアとマーガレットの一対一の戦いだと言ってもいいだろう。
当たり前だがマーガレットも士官候補生学校の時に比べると腕をあげている。
もちろんサルヴィアも前線での雷神との戦いなどを通して腕は上げているがほぼ互角といったところで、この横旋回の巴戦、どちらかが一瞬でも隙を見せた途端に勝敗が決するだろう。
しかしサルヴィアには高度が高かったがための速度優位がある。それをいかんなく発揮すべくサルヴィアは機体を軽く捻り、一度高度を上げそのまま旋回半径の内側に入り込む。
少しだけサルヴィアに有利な状況になっただろうか、完全に追う立場にはなれた。しかしそこにストレリチア少尉からの無線が入る。
『大尉! そちらに一機行きました! 回避してください!』
「なっ⁉」
アグレッサー部隊の一機がこちらに突っ込んできてそのまま機銃を放つ。
しかしギリギリのところで回避し、そちらを見る。コックピットの中にいるのはどこかで見た顔、そうガーベラ教官、いやガーベラ少佐だ。
「ッ! ストレリチア少尉! そいつを頼む!」
『了解です!』
ガーベラ機はストレリチア少尉に任せ、見失ったマーガレット機を探す。
後方から殺気のようなものを感じ取り、サルヴィアは一気に操縦桿を横に倒しフットペダルを踏みこんで回避する。
完全に背後をとられた。しかしまだあきらめるには早い。それにグロリオサ中尉の爆撃もまだだ。おそらく彼女らも直掩機とともに降りかかる火の粉を払っているのだろう。早くこちらを終わらせねば爆撃のタイミングを作れない。
サルヴィアは焦りそうになる自身を必死で抑え、冷静に考える。
敵機は後方、コブラ機動を使いたいがまだ距離が離れている。それにマーガレット中佐には何回かコブラ機動を見せている。故に通用しない可能性もある。
そこでサルヴィアは前世の小説で知った空戦機動を思い出す。
「あれならいけるか……? いや、やってみる価値はある」
打開策を思いついたサルヴィアは縦旋回に移行する。これについてきたらこちらの勝てる可能性が出てくる。
そしてそんなサルヴィアの縦旋回に——マーガレット機はついてきた。
「よし、喰いついた!」
そのままサルヴィアは一回目の縦旋回を終える。
そして二回目の縦旋回の頂点付近、失速直前でスロットルを全開にしてフットペダルを踏みこみ、プロペラトルクの力も応用して機体を滑らせて旋回の内側に回り込むと同時にマーガレット機をオーバーシュートさせる。
——左捻りこみだ。確か日本軍のエースが使っていたという技だ。
そして前へ躍り出たマーガレット機にペイント弾を浴びせかける。
放ったペイント弾は綺麗にマーガレット機に命中し撃墜判定となる。
——勝負ありだ。
そしてサルヴィアとマーガレットの決着がつく頃にはかなり隙もできており、グロリオサ中尉の第三中隊が急降下していき爆弾を機体から切り離す。
そして投下した爆弾の八割がたが目標のマーカーに命中し、演習終了の合図が鳴る。
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演台の前に集まった自慢の部下たちを前にサルヴィアは口を開く。
「諸君、今日はよくやってくれた。損耗率も今までの中でかなり少ない方だ。それに急降下爆撃の命中精度も八割ほどとかなり高い。ご苦労だった、ではマーガレット中佐からのお言葉だ、心して聞け」
サルヴィアがそう言うとマーガレットは一歩前に出て胸を張って話始める。
「今日までよくやった! これで演習は終了となるわけだが、貴様らはこれで晴れて毛が生えた程度の新人から一人前以上のパイロットとなった。今後は胸を張って空を駆けろ! 貴様らはかなり強い、おそらく戦場でもかなりの武勲をあげることだろう。後方からではあるが私も貴様ら第201特別大隊の活躍を期待しておく。以上だ」
「中佐、ありがとうございました。……では私からも一言。諸君らは強い、それは私が保証しよう。何ならこの柏葉付騎士鉄星形勲章にかけて誓おう。諸君らは強い、特別大隊という名に恥じない程に。それゆえ私たちはかなり酷使されることだろう。しかし私は諸君らがそんな過酷な任務にも耐えうると確信している。自信を持て! 諸君らは間違いなくエースになりうる逸材だ! しかし、これから我々は実戦に赴く、皆今一度気を引き締めてかかれ!」
「「はっ!」」
「では本日まで教導演習に協力してくださったマーガレット中佐、以下アグレッサー部隊に敬礼!」
『ザッ』という音とともにサルヴィア含む第201特別大隊総員五十二名が一斉に敬礼する。
それにマーガレット中佐も敬礼で返し口を開く。
「以上で第201特別大隊の教導演習を終了する。解散!」
斯くして第201特別大隊の訓練はすべて終えた。後は本当の戦場で初陣を果たすだけとなった。
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