第33話 教導演習 2
サルヴィアは可能な限り前世で知っている知識を大隊員たちに授けた。そしておそらくグロリオサ中尉はその知識をフルで使っている。
彼女は新任ながら発想力、判断力、状況把握能力に長けているとサルヴィアは評価している。ただ、彼女の弱点としてはあまりにも真面目過ぎて応用が利かないという点だ。
それ故にサルヴィアは可能な限りのことをグロリオサ中尉に叩き込んだ。そして常に柔軟な発想を持ち、状況ごとに対応しろと何度も釘を刺した。
おそらくこれがその集大成だ。
雲の中から六機の攻撃機が目標に向かって急降下していく。まさに『敵機直上、急降下!』というやつだろう。
今まで低空から侵入していた部隊を攻撃機隊の本命だと考えていたアグレッサー部隊の面々は雲の中からの奇襲に対応できず、六機の侵入を許してしまう。
そしてサルヴィアは部下の機転の良さと教えたことをしっかりと活かしていることに満足感を覚えながら少し口角をあげて話す。
「あれはおそらく囮でしょう。私は彼女たちには爆撃するときにはできる限り急降下爆撃をしろと言いつけていますから彼女たちが水平爆撃を選択するとは考えにくいです」
そしてかなりギリギリで爆弾を投下、機体から切り離された六発の模擬爆弾は無事目標に六発とも命中する。
「ほぉ、これはしてやられたな! ……サルヴィア、お前の大隊はなかなかやるじゃないか」
部下がほめられていい気分ではあるが、かなりの損害も出ている。特に第一、第二中隊はほぼ壊滅、実戦であれば残った第三中隊はカモにされたことだろう。
「ありがとうございます。しかし、かなりの被害が出たというのもまた事実。次の演習ではより被害を抑えなくてはなりません」
「アグレッサー部隊相手に戦術的勝利とはいえ勝ったんだ、すごいことだぞ」
「はい、そうかもしれません。しかし、これではダメなのです、このままでは戦場に出た時に被害が出る可能性が——」
被害が出る可能性がある。と言おうとしていたサルヴィアをマーガレットはまるで自分の子供を諭すかのように語りかける。
「サルヴィア、部下はしっかりやったのだ。よくやった部下をほめてやるというのもまた上官の仕事だ」
確かにそうかもしれない。折角頑張ったというのに上司から褒められず、さらに高い要求を求められる辛さというのは、前世の社畜時代にさんざん味わってきた。
マーガレットに諭されてサルヴィアは己の間違いに気づく。
「……そうですね、今日はアグレッサー部隊に勝利したことを褒めることにします」
「あぁ、そうしろ。憎まれ役と火付け役は私がやってやるから安心しろ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
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演習を終え、演台の前に集まった第201大隊の面々にマーガレットは告げる。
「貴様ら! 何だあのざまは⁉ 辛うじて捨て身の攻撃で目標を爆撃できたからいいものの実戦であれを毎回するつもりか! こんなのではいくつ命があっても足りやしない、次はどれだけ被害を抑えながら目標を達成するかをしっかり考えろ! わかったな!」
「「はっ!」」
「よろしい。では私は宿舎に帰る、あとは貴様らの大隊長であるサルヴィア大尉に任せる。……サルヴィア、あとは頼んだ」
そう言うとマーガレットはスタスタと宿舎に帰ってしまった。しかし、サルヴィアが言いたかったことをすべて代弁してくれ、おまけに大隊の闘争心に火までつけてくれた。……すべて汚れ仕事はやってくれたという感じだ。
「諸君、まずは演習ご苦労だった。今回の演習勝ちはしたがあれでは部隊は全滅だ。……しかし、アグレッサー部隊相手にあそこまで善戦したことを私は誇りに思う。よくやってくれた!」
サルヴィアのその言葉を聞き、大隊の面々から軽い歓声が上がる。
「特に第三大隊、グロリオサ中尉。雲の中からの奇襲は見事だった! あのような柔軟な発想を貴官には今後とも期待している」
「はっ! ありがとうございます!」
グロリオサ中尉が答えるとともに第三中隊から歓声が上がる。しかし第一、第二中隊は少し盛り下がってしまったようだ。このままではいけないとサルヴィアは今度は第一、第二中隊に向けて話始める。
「そして第一、第二中隊。よく時間を稼いだ、相手はアグレッサー部隊。エースをかき集めた部隊だ。それを相手に一方的にやられるわけでもなく、あまつさえ十四機も撃墜するとは大隊長として鼻が高い。よくやってくれた!」
「はっ! ありがとうございます!」
「恐縮です!」
フィサリスとシティスが答え、中隊の面々からもまた歓声が上がる。
「よし、今日の演習はここまでとする。皆よくやってくれた。明日も頑張るぞ!」
「「おぉー!」」
士気も高い部下たちを見てサルヴィアは頬をほころばせる。実に、実に満足だ。
そうしてサルヴィアは解散を告げて自分の宿舎に帰る。
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以上、稲荷狐満でした!