第32話 教導演習 1
——地上 観測所
「やはりアグレッサー部隊、流石に隙がありませんね……」
「いや、貴様の部隊も速成教育の割にはかなり良くできている。下手をしたら普通の部隊よりも強いのかもしれない」
サルヴィアとマーガレットは二人して椅子に座り空戦の様子を眺める。
「恐縮です。しかし、制空権が取れなくては攻撃機部隊は地上攻撃ができませんからね、このままではジリ貧といった感じでしょうか」
「そうだな。……ところで攻撃機とはなんだ?」
「爆撃機と戦闘機の中間、機動性を確保しつつも対地攻撃できる航空機のことです」
「あぁ、Attackerのことか……」
「英語……、マ、マーガレット中佐、今英語を話しましたか!? それよりも攻撃機のこと知ってるんじゃないですか⁉」
「……エイゴ?、何のことかさっぱりだな」
「……Where are you from? I`m from Japan.」
サルヴィアは苦手な英語でも可能な限り元の世界のことを伝えられるように話す。
「なっ⁉ Japan!? おま、お前も、やはりそうなのか⁉」
どうやらサルヴィアの予感は的中したようだ。間違いない、マーガレットも同じ前世から来ている。それもおそらく英語圏の国から。
「……マーガレットさんはどちらの国からこの狂った世界に来られたんですか?」
「この際、私をマーガレットさんと呼んだことには目をつむろう。……私はUnited States of America出身だ。この世界に飛ばされた時、最初は言語が通じなくて大変だった。お前もそうじゃなかったか?」
「いえ、私はこれが母国語だったので、特に不自由することありませんでした」
「もしかしてこれがJapaneseなのか?」
「そうです」
日本語を知らないアメリカ人とは珍しいのではないだろうか? 今や寿司やアニメ、『こんにちは』という挨拶くらい知っている海外の人間は多いというのに。
「そうだったのか、お前が羨ましいよ。ところであの時初めて私がお前に声を掛けた時は……」
「そうです、こちらに飛ばされて間もない、というか数分のところでした」
「そうか、お前は何年生まれなんだ?」
「私は1997年生まれです。マーガレットさ、中佐は?」
「私は1897年生まれだ」
なるほど道理で日本語のことを一切知らないわけだ。一九世紀生まれの人間なんて前世ではもはや残っていなかったはずだ。
「随分と昔の人なんですね」
「お前からしたらな、私からしたらお前はかなりの未来人だ。この世界に来た時もここの技術水準には驚かされたよ」
「そうですよね20世紀初頭にカラーテレビなんてないですもんね」
「にしてもこんなところで前世の人間に会うとはな……」
「全くです」
飛ばされた異世界で時代は違えど同じ前世の人間と出会うなんてかなり数奇な運命だ。
「私はこれでも女で初めて航空機で大西洋を単独横断したという事でかつては有名だったんだぞ」
女性初の大西洋単独横断飛行、聞いたことがある……。
「女性初の大西洋単独横断飛行……、もしかして赤い飛行機に乗ってましたか?」
「あぁ、よく知ってるな。そうだ私の愛機は赤く塗装していた」
「じゃ、じゃあ。もしかして、貴女は……」
「——アメリア・イアハートだ」
アメリア・イアハート、女性で初の大西洋単独横断飛行を成し遂げ、世界一周を目指している最中に行方不明となり、未だに彼女の死は世紀のミステリーとして語られる航空業界の偉人だ。
「す、すごい! 貴女は二一世紀でも有名人ですよ! 世界史の教科書で貴女のことを見た時はすごいなと感銘を受けたものです!」
「ハハハッ、私は二一世紀でもまだ有名人なのか、それも教科書に載っていたのか。それはうれしいものだな!」
「それに貴女の死は世紀のミステリーとして名高いんです」
「……やはり私は死んだのか、嵐の中雷に撃たれて翼が折れて海に突っ込んだところまでは覚えているんだが、気が付いたらこの世界に少女の身体になって突っ立っていた」
「そうなんですか……。私も通り魔に刺されて死んだところでこの世界に来ました」
「お互い苦労するもんだな。それより、空戦の方はもうそろそろ決着がつくんじゃないか?」
「あぁ! 話に夢中で見ていませんでしたね」
「おや、私の部隊から撃墜判定が十四機も出たか、これは想像以上の被害だ。だがお前の部隊は第一、第二中隊は壊滅か……。この試合、勝負あったな」
「えぇ、ですが私は第三中隊の中隊長、グロリオサ中尉の発想に期待しています」
「ほぅ、それは楽しみだ。だがその第三中隊とやらは今十機ほど目標に突っ込んでいっているが、私たちの残りの部隊が後ろに回ったぞ」
「……いや、あれでいいのです。そろそろ来ます」
そう言ってサルヴィアはニヤリと笑った。
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