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第27話 新戦術考案

——太平暦1723年 9月25日 空軍大学


「であるから、今後の航空戦において——」


 教員が大講堂で今後の制空権の重要性、史上初の地上攻撃による航空機の存在意義の変化について淡々と語っていく。


 しかしこの世界の航空機による地上攻撃のノウハウは一切ないだけあってサルヴィアとしては突っ込みどころが多い講義であるがここで指摘を入れて変に目立つのは何としてでも避けたい。


 ただでさえ最年少という事もあり恐ろしく浮いているのだ。これ以上コミュニティーに馴染めないのはサルヴィアとしては御免被りたいものであった。


 しばらく大学教員の講義を聞き流していると授業終了を告げるチャイムが鳴り響く。そしてそれを聞き、教員は口を開く。


「では本日の講義はここまでにする。そして今回はレポート課題を課す。今後の航空機の運用法について思いつくことなんかを書いてこい」


「「はっ!」」


 どうやら軍部は空軍大学の生徒の知識でさえも総動員して今後の航空機運用の方法を確立したいらしい。しかしこれが本来の大学としての在り方だ。教育を施す教育機関でもあり、研究をする研究機関としての側面を持つのだ。


 そうしてサルヴィアは文具をまとめ食堂へと向かう。外でいいものを食べてもよいのだが、いかんせん時間が惜しい。故に食堂で食事を済ませあとは図書館に籠ってレポート課題を書くとする。


 この後のスケジュールを考えながら昼食を摂るサルヴィアにある者が声をかける。


「ねぇ、前に座ってもいい?」


「え? あぁ、どうぞ」


「ありがとねっ」


 確か彼女は同じ講義を受けていたはずだ。なんとなく見たことがある顔だ。

 そんなことを考えていると目の前の黒髪の少女は話しかけてくる。


「えっと、君ってあのサルヴィア中尉だよね?」


「まぁ、はいそうですけど。どうかなさいましたか?」


「うわー! 本物だ! じゃあ、あの勲章とかも持ってるの!?」


 どうやら彼女は私のことをよく知っているようだ。正直有名人というのはあまり悪い気はしない。しかしそれにつけあがって顔に出すわけにはいかない。

 サルヴィアはできるだけ真顔であるよう努めて話す。


「柏葉付騎士鉄星形勲章のことですか? いま首元に着けているのがそうです。もしよければ触ってみますか?」


「いやいやいや! 大丈夫! そんな貴重なの触れないよ!」


「そうですか、了解しました」


「……ねぇ、サルヴィア中尉っていつもそんななの?」


「そんな、とは?」


「いや、皆に敬語で話してるのかなぁ? って思って」


 何とも不思議なことを聞いてくるものだ、同じ階級と言えど年上であれば敬語を使うのが常識だろうに。そう考えてサルヴィアは口を開く。


「えぇ、階級は同じと言えど歳は全然違いますから流石に年上にタメ口を利くわけにはいきませんから」


「うーん、私はあんまりそういうのは気にしないかなぁ。むしろ君はすごい人なんだからそれこそタメ口の方が良いと思うけど」


「そんなものなんですかね?」


「そんなもんだよ。私としてはタメ口の方が楽なんだけど……」


 どうやら彼女はあまりタメ口が好きではないタイプの人間らしい。

 そう言われたら仕方ないとあまり気乗りしないながらもサルヴィアはタメ口で話す。


「……わかった。ところで君は何て名前なの?」


「あぁ! そうだった自己紹介がまだだったね! 私はガブリエラ。

ガブリエラ・ミハイ・ルヴィチェンコ中尉。よろしくね」


「よろしく、一応私も。私はサルヴィア、サルヴィア中尉。苗字はないよ」


「えぇー! 孤児だったんだ!」


「……まぁそうだね。いちおうそうなるかな」


 孤児と言われていい気にはならない。そんな感情が顔に現れていたのか、ガブリエラは慌てて訂正する。


「あぁ! いや、孤児が悪いとかじゃなくて! あんな新戦術を編み出したのがそんな子だったのかって考えると、凄いなぁと思って!」


「あぁ、まぁうん。ありがとう」


 そうして思わぬ来客によって食事と談笑を少し楽しんだサルヴィアは図書館へと向かう。と言っても本を使うわけではない。純粋にここが静かで好きだからという理由からだ。


 そうしてサルヴィアは静かな図書館の机で淡々と地上攻撃における航空機用の爆弾なんかについて書いていく。ただこの世界の人間は航空機用爆弾なんて一切知らない。故に


『航空機に外付けして機内からスイッチ一つで投下する砲弾のようなもの』


 という随分と回りくどい言い回しなんかを使いながらもなんとか書き終わり、次は爆撃任務、地上支援任務専門の航空機つまり、爆撃機と攻撃機について書いていく。

 これは爆撃というものがわかっていればいいので思いのほか簡単に書けた。


 あとは仕上げに再度読み直して明日提出するだけだとサルヴィアが立ち上がると聞き覚えのある声がサルヴィアを呼び止める。


「やぁ、サルヴィア中尉。昼休み中だというのに図書館で勉強だなんて勤勉なことだな」


「こ、これはミリア少将閣下! 以前は昼食、ありがとうございました!」


「はっはっはっ、なに気にすることはない。ところで貴官は何をしていたんだ?」


「はっ! 航空機における新戦術についてのレポート課題をしておりました」


「ほう、新戦術か……。気になるな。良ければそのレポート見せてもらえるか?」


「はっ! どうぞ!」


 レポートを受け取ったミリア少将はペラペラとページをめくり読んでいく。

 いささか出来がいいのか悪いのかサルヴィア自身は分からないため気が気でない。


 そうして読んでいく中ミリア少将はページをめくる手を止める。見る感じ爆撃機と攻撃機について書いたところであろう。

 そして少し興奮がにじみ出ているものの冷静にふるまっているといった様子でミリア少将は口を開く。


「このレポートによると航空機に爆弾を括り付け、それを投下すると書いてありそこまでは分かるんだが、わざわざ爆撃機と攻撃機というものに分けるのは何故だ?別に今ある航空機でもいいんじゃないか?」


「それにつきましては爆撃機は速度と機動力を犠牲に爆弾の搭載数を増やしたもので、完全に制空権を掌握した状況下で使用するものです。しかしそれでは制空権を完全に取れなくては使えないうえ、その巨大さと鈍重さから地上から迎撃される可能性もあります。そこで戦闘機ほどではないにしろある程度小回りが利いて速度もある攻撃機の出番です。小官は制空権を戦闘機である程度確保して攻撃機にて地上支援をし、完全に制空権を掌握したのち戦闘機を護衛としてつけた爆撃機の編隊で大規模に爆撃し敵を完全に粉砕することを考えております」


「……ふむ、なるほど。貴官さえよければそのレポートを今日私に預けてくれないか? 担任の教官には伝えておくから安心してくれ」


「まだ見直していないので誤字脱字があるかもしれませんがよろしいですか?」


「あぁ、その点はかまわない。それと今後貴官を私の部屋に呼ぶかもしれないがいいか?」


「はい。それは大丈夫です。いつでもお呼びください」


「すまないな、もしかしたら苦労をかけるかもしれない」


「大丈夫です。お気になさらないでください」


 斯くしてミリア少将はレポートをもって図書館を出ていってしまった。

 そしてやることがなくなったサルヴィアはこれから何をしようかと考え、折角だから交友関係をガブリエラ中尉を探しに行く。


 そしてガブリエラ中尉を見つけたサルヴィアは意を決して話しかける。


「なぁ、ガブリエラ中尉。ちょっと午後の講義まで暇になってしまったんだけど、よければ一緒にカフェに行かないか?」


「えぇー! 良いの⁉ もちろん行くよー! どこいこっか?」


「そうだなぁ、たしか大学の前の大通り沿いにカフェなかったっけ?」


「あぁ、あそこか。いいねぇ! いこう!」


 そうして二人はカフェへと向かう。



——その日、少女は大学生活を満喫していた。

読んでいただきありがとうございました。

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以上、稲荷狐満でした!

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