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第24話 サルフィリアの盾作戦 3

——分厚い雲を翼で切り裂きながらサルヴィア達第144戦術戦闘飛行中隊は地上を目指す。

 雲を抜けると眼下には一つの大きな生命体のようにうごめく人間の群れが見える。


 空では決着がついたが地上では未だに敵の大攻勢は終わっていないらしい。上から見ると何とも壮観だ。これほどのものはそうそう観れるものじゃない。


 あたりを見渡していると企業のテレビ中継用の大型機が目に入る。どうやら空の決着がついたので地上も撮りに来たらしい。


 さらに高度を下げ、高度一〇〇メートル程まで行くと、味方の機関銃が押し寄せる人の波をなぎ倒して行っているのが見える。

 最前線ではバタバタと人が死んでいっているのだろう。


 サルヴィアとしては人的資源の圧倒的無駄使いに思わず深いため息が出る。

 そしてこれを一般市民の娯楽のためにやっているという事実は吐き気すらも催す事だ。平和な前世から来たサルヴィアには考えられぬ価値観だ。


 しかしそんなことを考えてもサルヴィアにはどうすることもできない。今彼女にできることは無謀な突撃をする憐れな舩坂重工の兵士たちに結束手榴弾をプレゼントしてタンパク質の塊に変えてやり、可能な限り早く戦闘を終わらせることだ。


 そんなことを考えながらサルヴィアがボーっと飛んでいるとクレマチス中尉から無線が入る。


『エンジェル04どうやって敵に手榴弾をお見舞いするのかいまいちわからん。お手本ということでまずはエンジェル04が実演して見せてはくれないか?』


「了解です。この世界で初となる空爆をご覧に入れます」


『くう、ばく? なんだかわからんが期待しているぞ!』


 自分が航空支援のパイオニアになっているということがサルヴィアを興奮させる。たった今からこの世界で初めての航空機による爆撃、空爆を小規模ながらやるのだ。テンションが上がらないわけがない。


 キャノピーを開けて減速しながらサルヴィアは降下を始める。高度二〇メートル程の低空まで降下すると手榴弾のピンを抜き、眼下に見える敵歩兵がまとまっているところに投げつける。


 その後上昇離脱しながら爆撃の効果を確認する。どうやら綺麗に命中したらしく敵歩兵吹き飛ぶのが見える。

 威力は砲兵による砲撃ほどではないが、正確に且つ友軍にある程度近くても敵をまとめて吹き飛ばせるというのは砲撃に勝る点であると言えるだろう。


『これがエンジェル04考案の戦術か、なかなかいいじゃないか』


「ありがとうございます」


 クレマチス中尉の感心するような声が無線機越しに聞こえる。


 上昇していると今度は小規模な敵野戦砲陣地が目に入る。そしてサルヴィアは狙いを野戦砲に切り替える。


「今度はあの野戦砲陣地を狙ってみます」


『了解。行ってこい!』


 クレマチス中尉の許可を一応得て、野戦砲陣地へと向かう。

 今度は急降下爆撃でも試してみようと思いスロットルをおとし、フラップを全開にして敵野砲に向かい急降下を開始する。


 急降下しながら今度は高度六〇〇メートルほどでピンを抜いた手榴弾を投げつける。投げた結束手榴弾はものすごいスピードで敵野戦砲陣地の砲弾集積地に落ち、爆裂する。無論近くに山と積まれていた砲弾と一緒にだ。


 上昇離脱しながら後ろを確認すると先ほどまであった野戦砲陣地は跡形もなく吹き飛んでいた。サルヴィアは清々しい気持ちで無線機に向かい話しかける。


「我、砲兵陣地を空爆せり! 繰り返す。我、砲兵陣地を空爆せり! 爆撃の効果は絶大と認む!」


『こちらエンジェル01。確認した。ここからでも見えるほどの爆炎だったぞ、見事だ!』


 どうやらクレマチス中尉もなかなかテンションが上がっているらしい。そして興奮した様子で中尉は続ける。


『中隊全機、先ほどのエンジェル04のやり方は見ていたな? ……総員、私に続け! 地上を這いずる奴らに空を制す者の恐怖を叩き込んでやるぞ!』


 その掛け声に「「了解!」」と返し皆降下を始める。

 第144戦術戦闘飛行中隊が編隊を組んで地上に手榴弾を落としていき、地上では連続して爆発が起こる。遠巻きに見ていても人間の群れに穴が開いていくのがわかる。


 敵の空から結束手榴弾が降ってくるとは想定していないため、かなり密集していた分かなりの効果があったようだ。


 流石に時折下から弾が飛んでくるがボルトアクションのライフルで戦闘機に当てることはできず、威嚇にすらなっていない。


 つい、中隊が爆撃していく様を見て惚けてしまっていたが、サルヴィアはまだ結束手榴弾を持っていることを思い出し、次の投下位置を探す。


 低空に降りて獲物を探していると自分の周りを人に取り囲ませて人間の盾にし、ご立派な軍刀を振りかざし指揮をしている敵を見つける。

 どう見ても指揮官クラスだ。


 サルヴィアは上昇しながら旋回し、その指揮官と思われる敵兵めがけて急降下を始める。そしてコックピットから最後の結束手榴弾を投げつける。

 周りの肉の盾にされている者たちには少しの同情を禁じ得ないが、自分の不幸を呪ってくれよとサルヴィアは心の中で嗤う。


 見事に手榴弾は指揮官の近くに落ち、指揮官と不運な敵を巻き込んで吹き飛ばす。

 何とも気持ちがいい。例えるならば、軍隊アリの密集しているところに爆竹を落とすようなものなのだ。爽快極まりない。


 思わずサルヴィアの口角は吊り上がるが、もう結束手榴弾は残ってないことに気づきため息をつく。

 しかしまだ機銃の弾は残っていたことを思い出し、ニヤリと笑う。


 今度は浅い角度で降下しながら機銃の発射トリガーを引き絞る。

 機首と翼内に据えられた十三ミリ機関銃と二十ミリ機関砲が唸り、火を噴く。放たれた弾は人の群れに当たり次々と血煙が上げる。


 機銃掃射して離脱するとき後ろを見ると、地上に血煙で赤い飛行機雲ができていた。きっと下では阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていることだろう。

 しかし上空からは赤い一筋の線しか見えないのはサルヴィアにとって救いだった。


 そのまま旋回し再度機銃掃射を浴びせ、地上に赤い線を描く。気分はさながらカモの群れを撃つハンターだ。サルヴィアは年相応の無邪気な笑顔を浮かべ、歳不相応な残酷な行為を楽しむ。


 サルヴィアの機銃掃射を見たのか他の中隊員も何人か真似して赤い線を描く。

 それを見てふとサルヴィアは思いつく、——皆で横一列になってやればもっと効率的なのではないかと。


 思い立ったサルヴィアは無線機でクレマチス中尉に呼びかける。


「こちらエンジェル04。中尉、中隊全員で横一列になって機銃掃射すればより効果的なのではないでしょうか?」


『……。少尉、貴官はなかなかにえげつないことを考えるんだな。……だがそれには私も同感だちょっとやってみよう』


 やっていることが残虐な行為であるとは分かっているようだが、やはり楽しいのだろうクレマチス中尉もすんなりサルヴィアの意見を肯定する。


『皆、聞いていたな? 横一列に編隊を組みなおすぞ』


「「了解!」」


「「……了解」」


 返事が遅れる者がいる感じ、何名か乗り気ではないようだが仕方がない。いくらエンターテイメントの戦争とはいえ、所詮はただの殺し合いなのだ、淡々と敵を殺さなくてはならない。そこに騎士道精神や武士道、情けを持つ方がおかしいのだ。


 編隊を組みなおし横一列に並んで浅く降下し、クレマチス中尉の『撃て』という号令とともに一斉に機銃を放つ。

 

 中隊が通り過ぎた地上には血煙でできたレッドカーペットが敷かれていた。

 これが決定打となったのか敵は撤退を開始する。否、撤退というより統率を失い壊走しているという方が正しいだろうか。


 そうしてR&Hインダストリーは地上でも勝利をおさめ、サルフィリアの盾作戦は幕を閉じる。



 飛行場に着陸し機体を誘導員に従い止め、降りたところにストレリチア伍長が駆け寄ってくる。

 表情から察するにあまりいい話ではなさそうだ。


「少尉、今日のあれは何ですか?」


「伍長、あれとはなんだね?」


「空爆というのはいいんです。私が聞きたいのは機関銃で歩兵を、生身の人間を撃ったことです!」


 どうやらストレリチア伍長は機銃掃射に反対の者の一人だったらしい。

 自分の部下が戦争というものに美しさや高潔さを求めているんじゃないかと思い、サルヴィアは眉間を押さえたい衝動に駆られる。


 ここで部下の考えを正さねばまたシィプレ伍長のように命令違反を起こすかもしれない。そう考え、サルヴィアは淡々とストレリチア伍長に尋ねる。


「貴官はこの戦争をどんなものと見る?」


「高潔で誠実でなければならないと思っています」


「私は貴官がどうあるべきかを聞いたんじゃない、分かりやすく言い直そう。戦争とはなんだ?」


「……企業が互いの株をめぐって行わせ、見世物にもしているものです」


「そうだ。では私達兵士にとっての戦争とはなんだ?」


「——ッ、……殺し合いです」


「そうだな。所詮はただの殺し合いだ。故に我々が考えなくてはならないのはまず生き残ること、味方を死なせないこと、そして多くの敵を殺すことだ」


「でもッ、でも! あんな殺し方しなくてもいいじゃないですか!」


 どうやら未だにわかっていないストレリチア伍長にサルヴィアは思わずため息をつく。


「貴官は格闘戦の上に敵機を墜とし殺すのと、機銃掃射で殺すことは別物だとでも思っているのか?」


「はい! あれは残酷すぎます!」


「伍長、拷問の末に敵を殺すのが残酷だというならそれは分かる。だが、機銃掃射で撃ち殺されるのと歩兵銃で撃ち殺されるのに何の差がある?」


「——ッ」


「だんまりか……、貴官に守りたいものはいないのか? 私はいる。まず私自身もそうだが、フィサリスやシティスそしてストレリチア伍長、貴官もだ。そして他にもいつも我々の機体を整備してくれる整備士や、誘導員の皆だってそうだ。私は大切な仲間を失うくらいなら、たとえどんな方法でも敵を討とうと考えている。わかってくれたか、ストレリチア伍長?」


 ハッとした表情でこちらを見ながら涙を流すストレリチア伍長を見てサルヴィアはちゃんと心に響いたのだなと思い、自分の演技力に感心し、軍から抜けたら俳優でも目指してみるかと考える。


 サルヴィアの一片も思っていない演説を聞いて感動したのか、ストレリチア伍長は涙を流しながら興奮気味に口を開く。


「はい! はいッ! わかりましたッ! 私はてっきり少尉が実は残酷な人なんじゃないかと失望しかけてました、でもやはり少尉はお優しい方で仕方なくあんなことをしていたのですね!」


「あ、あぁ。そうだ」


 部下のあまりの勢いに若干ひきつつもサルヴィアは優しいと思われるなら最悪の人間と思われるよりましかと思い演技を続ける。


「わかってくれてうれしいよ伍長。だが私が戦争を嫌がっているというのは周りに言わないでくれ、戦いに消極的だと思われるのはいろいろとマズい」


「はい! 了解しました! 私のせいで少尉の貴重なお時間を割いてしまい申し訳ありません!」

 

 敬礼しながら謝罪してくるストレリチア伍長にサルヴィアは軽く敬礼を返して、「まぁ、気にするな」と肩を軽くたたきながら優しく言い、自室に向かって歩き出す。


 自室に入りボフッとベッドに寝転んでなんか今日は疲れたなぁ。と心の中で呟いてサルヴィアは目を閉じる。


——その日、この世界で初めての航空機による地上攻撃が行われた。

読んでいただきありがとうございました。

評価、ブックマーク登録なんかもしていただけると大変うれしいです。

以上、稲荷狐満でした!

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