第18.5話 神との邂逅
——????年 ?月?日 真っ白な部屋
気が付くとサルヴィアこと自分は真っ白な部屋に立っていた。
眼前には執務机に猫背で腰かけ、カタカタとノートパソコンをタイピングしているネイビーブルーの上縁メガネを掛けた人間がいる。
自分は先程まで戦闘機に乗って強行偵察任務から帰っていた途中のはず。最後にストレリチア伍長の「太陽の方向! 敵機です!」という声を聞いたきりそこからの記憶が無い。というかあれは誰なんだろうか?
そんなことを考えていると不意に謎の人間が声をかけてくる。
「やぁ、サルヴィア。いろいろと疑問があるみたいだね。まぁ、君の疑問に答えていこうか」
淡々と話を進めていっているがせめてパソコンから目を離しちゃんとこちらの目を見て話してほしいものだ。
「そうだね、それは失礼した。目を見ずに会話するのは非常識だよね」
なっ⁉ こちらの考えを読んだのか? 本当に何なんだこいつは?
「まぁ、そうだね。考えは読めるよ。君が何を思い、何を考えているかはね」
何ということだ、思考盗聴されるとは……。頭にアルミホイルでも巻いたほうがいいのだろうか?
「ハハッ、随分とマニアックなネタだね」
「思考を読み取れるということはあなたは何か人を超えた存在か何かですか?」
「わざわざ口に出して話さなくても会話できるのに……。まぁ、いいや。質問に答えると、君たちよりは高次元の存在だね。いわゆる神ってやつかな」
「私が転生したときは姿を現さず、いまさら姿を見せるのですね」
「言葉の節々にトゲを感じるけど、君が転生する直前までは僕の管轄外だったんだよ」
神にも管轄という概念があるのか、ということは神というものは複数存在するということか。確かに転生してきた世界にも知恵の神、愛の神、戦の神の三柱がいるとされている。となると目の前にいるのはいったいどの神なのだろうか?
「僕はねその三柱の神のどれでもないよ。何ならその神を作ったのも僕だね、分かり易く言うと創造神といったところかな」
「ではこのクソみたいな世界にぶち込んだのもあなたですか?」
「君随分と口悪いね。まぁそんなことはどうでもいいか。この世界を作ったのは僕だけど君をこの世界に送り込んだのは君が元居た世界の神様だね。君が帰り際に通り魔事件に遭うことにはちょっと干渉したけどね」
「やっぱりアンタのせいじゃないですか⁉ 折角普通の生活を手に入れていたのに!」
「でも普通の生活に疑問を覚えていただろう? 普通とはこんなに辛いものなのかってね」
「——ッ、……確かにそう考えてもいましたが、こんな戦場にぶち込まれるのは望んでない!」
「戦闘機パイロットになることが幼いころからの夢じゃなかったのかい?」
「…………。」
「……だんまりか。まぁいいよ、とりあえずここに呼んだのは言いたいことがあるからなんだ」
「……なんですか?」
「君はこれで六回目の死を経験した。本当は五回目の時に言おうとも思ったんだけどちょっと忙しくてね、今回言わせてもらうよ」
なんなんだすごく嫌な予感がする。
「そうだね、君にとってはいいニュースではないね。単刀直入に言わせてもらうと君の死に戻りには回数制限と時間制限がある」
「な⁉ なんでそれをもっと早くに言わないんですか⁉ 一回目の時に言ってくれてもよかったじゃないですか!」
「まあまあ、怒るのも分かるけど落ち着いてよ」
「落ち着いていられるわけないじゃないですか!」
「はぁ、もう無理やり落ち着かせるよ」
自称創造神が指を鳴らしたとたんに気持ちが落ち着いていく。
「よし、じゃあ説明するね。サルヴィア、君は今までこの世界で六回死んだ。ちなみに死に戻りの回数制限は十回だ、つまりあと四回しか死ねないということになるね。そして死に戻りの時間制限だが今の君が二十歳になったらこの能力は消える。くれぐれも注意してくれ」
なるほど、つまりそう簡単に死んでいいものではないというわけか。
「そうなるね。あぁ、あと死んだら戻るのはその前の目が覚める時だ。
また1722年の1月5日に戻されることはないから安心してくれ。それと同時に眠ってしまったらそこが起点、分かり易く言うとセーブポイントになるから後戻りはできなくなる。気を付けてくれ」
なるほど、まあまあ分かりやすい説明だ、少しはこの自称創造神に感謝しよう。
「どういたしまして、感謝されるというのは気持ちがいいものだね。じゃあもうそろそろ君には目を覚ましてもらう。またあの世界で目を覚ますが悪く思わないでくれよ」
自称創造神がそう言うと視界が真っ暗になっていく。そしてパチリと目を開けると先ほどの記憶を持ったまま自室のベッドで目を覚ます。
カレンダーを見ると1月2日と書かれている。どうやら言うとおりに前回の目を覚ます瞬間に戻されたようだ。
意識がはっきりしていくにつれて先ほどまで落ち着かされていた自称創造神に対する怒りがふつふつとよみがえってくる。
そして少女は心の中で創造神にあらん限りの罵声を浴びせかける。
——その日、少女は神に会った。