3.近代時代の異世界転生
「ノアーッ! 起きてるのノアーッ!!」
1階から聞こえる母の呼びかけに、俺は意識を覚醒させた。
すると、さっきまで下から聞こえてきた母の足音が近づいてきて、バンッ! と勢いよく開けられる。
「ちょっと! 起きてるのノアッ?!」
「・・・起きてます」
「起きてないじゃない! 布団の中にくるまりながら何言ってるの! 良いからさっさと起きな!」
それだけを言うと、母は勢いよく扉を閉めて階段を降りて行った。
「朝から騒がしいこって・・・ふぁぁぁ~ッ!!」
服を着替え、洗面台にある鏡に自分が写る。
そこには、子供の姿が写っていた。
少年の名前はノア・ゴブリット。
ゴブリット家の子供であり、前世の優希という人物の記憶を持つ、ただ普通の人間の少年だ。
「やぁ~と来た! 朝ごはん早く食べちゃいな・・って何その髪?! 寝ぐせスゴイままじゃない!」
「おはようノア。 調子はどうだい?」
「ん。 おはよう。 父さん、母さん」
リビングに行くとソファーに座りコーヒーを飲みながらテレビを見ている父と、キッチンで朝食の後片付けをしている母に挨拶を返しながら、用意してくれていた朝食が置いてあるテーブルに腰を下ろす。
「もぉーだらしないったらありゃしない! アンタもう少しで中学生になるんだから、シャキッと出来ないの?! シャキッと!」
「まぁまぁ母さん。 ノアもまだ子供なんだから多少は目を瞑っても」
「貴方も貴方よッ!! そんな甘い事いってるからこの子も全然自立する感じがしないのよ! もっとしっかりして頂戴!」
「あ、はい・・すみません・・・」
母に威圧され父が小さくなる。
この景色は家では普通の出来事である。
ただ
前世の記憶が戻ってから、俺はまだこの光景に慣れないでいた。
その理由は、俺の今の両親は、ただの人間ではないからだ。
「またそうやってすぐに謝って!! いい機会だわ。 その性根を少し鍛えた上げるわッ!!」
「ちょっ! まっ!! 待って!! 身体強化魔法で関節技だけは!!!」
「アンタもゴブリン種ならこれくらいの強化魔法解いてみなさいよ! ノア! カウントお願い!!」
羽交い締めを繰り出す母からどうにかして逃げ出そうとする父。
しかし
前世の記憶から覚えている記憶が、その光景が異常な物だと言ってくる。
両親はどちらとも確かに人間に近しい姿をしている。
しかし父は緑色の肌に頭に角を生やしており、母は普通の人間よりも耳が尖っており、今年でなんと100歳を超えるが、見た目年齢は20歳そこそこだ。
ここまで言えばお分かりだろうか。
そう。
俺の・・・いや、僕の両親は人間ではない。
父は魔族、ゴブリン人と呼ばれるゴブリンで。
母は亜族、エルフ人と呼ばれるエルフなのだ。
そして―――
『さて、ここで速報です。 先日ムー大陸で発見された古代遺跡にて発掘されました謎の魔法術式が解読されました。 これはなんと、今から約2500万年前に創られた異世界を繋ぐ役割を持つ魔法と言われており、研究者は―――』
テレビから流れるニュースからは、まるで前世で見た漫画やアニメの設定みたいなものを真剣に放送されており、他の番組でもファンタジーのような内容が容姿をした人間が多く映っていた。
だけどここには水道や電気と言ったライフラインや、スマホやパソコンと言ったネットワークも存在している。
つまりだ。
僕が転生してきたのは、僕が想像していた中世ヨーロッパみたいな時代の物ではなく。
もっと、未来の異世界。
近代的な時代に転生したのだ。