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未来の異世界  作者: 黄田 望
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2.努力は報われずに


 太陽も沈み、今日も夜勤の俺は、いつもの通勤路をクロスバイクで走りながら通勤していた。

 周囲は日勤で仕事を終えたサラリーマン達がそれぞれ仕事の疲れを背負いながら帰路についている。

 そんな中、信号を待っている時にたまたま隣のサラリーマンが電話越しの会話している内容が耳に入った。


 「はい、はい申し訳ありません。 はい! 明日の朝までには必ずまとめて提出致します!」

 

 いかにも真面目そうなサラリーマンは肩を落としながら電話を切ると、大きな溜息を吐いた。

 年齢は俺と同じくらいか少し年上くらいだろう。

 目の下には酷い隈も出来ており、何日も寝てない事が分かる。


 「またやってしまった・・なんで俺はこんなにダメなんだろう」


 ものすごく小さな声で普通なら周囲にも聞こえていない声量だったが、自然と耳を傾けて聞いてしまった俺にはキッチリと聞こえてしまった。


 「・・・あの、すみません」

 「? はい?」

 「急に話しかけてあれなんですが、御迷惑でなければこれ、もらってくれませんか?」

 「は?」


 そう言って俺が彼に手渡しなのは、何の変哲もない自動販売機で売ってる缶コーヒーだ。


 「あの、これは?」

 「さっきそこの自動販売機で当たりが出て2本買えたんですけど、2本もいらないんで。 よかったら貰ってください」

 「え? あ、はぁ・・じゃあ、いただきます」

 

 彼は困惑した表情を浮かべながら缶コーヒーを受け取った同時に、信号が青になった。

 

 「それじゃあ仕事、頑張ってください。 きっと良い事もありますから」

 「!・・・は、はい!」


 少しだけ、彼の表情が明るくなった気がした。


 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 努力だけで評価されるのは学生の間までだ。

 社会に出て大人になれば努力をする事が当たり前で、結果が出なければ役立たず扱いをされる。


 『 社会とは、こういうものなんだよ 』


 昼間に店長が言った言葉が脳裏に浮かぶ。

 店長も元々バイトから初めて社員となり、店長まで昇りつめた。

 そこまで昇るには相当な努力をしてきたはずだ。

 だけど結局は、どれだけ努力をしても評価されなければ簡単に蹴落とされる。

 それが社会だ。

 努力をしてなくても権力を持っていれば苦労なんてしなくてもいい。

 そんな理不尽な世界で成り立っている。


 「・・・・」


 ――え? 君こんな事も分からないの?

 ――社会人舐めてない?

 ――分からないから教えてほしい? あのねぇ、そういう物はまず自分で考えて行動する物なんだよ

 ――これだから最近の若いのは

 ――期待外れだね





 役立たず



 

 「~~~~~ッ」


 嫌な事を思い出した。

 とりあえず明日は、あの同僚は休みだから会う事もない。

 今日は勤務時間通りに帰宅する事ができるだろう。

 

 コンビニに到着して駐輪場に自転車を停車させた・・・その時だ。


 「・・・・ハ?」


 何か、背中から衝撃を受けて危うく転びそうになった。

 何とか態勢を整える事に成功したが、今度は脇腹当たりから熱湯をかけられたような熱さが身体全身に伝わって・・それから・・・それ・・から・・・ッ!?


 「いっッッッてぇえええええッ?!?!」


 鋭い痛みが襲ってきた。

 呼吸もままならず、視界が歪んでぼやけて見える。


 (なんだこれ? なんだこれ? なんだこれ? 何が起きた? 背中が熱い・・痛いッ?!)


 痛みを抑えようと手を伸ばすと、ヌルッとした感触が手に感じた。

 手を見てみると、そこには真っ赤な液体が手に付いて、地面に足を伝って流れている。

 これは、血だ。

 背中から血が流れていた。

 感じた事もない激痛と、見た事もない出血の量に思考がまとまらない。

 とりあえずコンビニの壁に身体を預けてもたれかかる。

 すると、壁に振り向いてもたれかかる際に人影が見えた。

 視界には足元しか映っておらず、ゆっくりと視線を上にあげていく。

 そこには


 「よぉ、クソ店員ッ!!」


 そこには、果物ナイフほどの刃物を持った、昨晩の少年が立っていた。


 「お前のせいであれから親にはクソほど殴られるは先輩達からリンチされるはで俺の人生メチャクチャだ! それもこれも全部、お前がオレに酒を売らなかったせいだッ!!」


 少年は聞き取れない大声を上げながら今も意識が遠のいていく俺に対して罵声を浴びさせている。


 (あぁ・・くそ、これは、ダメだなぁ・・・)


 痛みと共に心臓の音が小さくなっていくのがハッキリと分かる。

 これはあれだ。 

 出血性ショックってやつかな?

 刺されたキズも内臓を傷つけているせいか、水風船が破裂したように溢れ出てくる。

 呼吸も浅くなってきているのが理解してから、妙に冷静になって来て、未だに罵声を言っている少年を見る。

 そして思った。

 

 (理不尽だな~)


 これから俺は死ぬだろう。

 だけど少年は法によって守られてきっといつか出所して社会に出る。

 それからきっと彼は色々な人達に助けられて出会い、結婚もして家族が出来て、幸せな日常を送っていくんだろうなぁ。

 それに比べて俺は、子供の頃から努力をして、誰よりも真面目に生きてきたのに、社会に馴染めずに死んでいくのか。




 

 あぁ・・こんな事なら、努力なんて、するんじゃ、なか・・・た・・・



 ◆ ◇ ◆ ◇


 『速報です。 昨夜、○○県○○市内にあるコンビニで殺人事件がありました。 容疑者は近所の中学に通う少年で――――』

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