シロクロ
シロクロが車に轢かれて死んだ。
僕は、それを聞いた時、何故かやっぱりそうなんだと妙に納得していた。
シロクロはおじいちゃんが、拾ってきた捨てられた犬だった。
おじいちゃんは、シロクロがお座りをしている姿を見て、連れて帰ろうと思ったそうだ。
シロクロはほとんどが真っ黒な毛に覆われているけど、胸毛のところが白く、お座りをすると十字架のように見える。
それは本当だ。
シロクロには片足がなかった。
おじいちゃんは、それに気づかなかったらしい・・・今思うと本当かな。
ともあれ、シロクロが我が家の新しい家族に加わった。
家にはもう一匹、犬を飼っている。
茶色の毛並みの雑種犬チロルだ。
二匹はお互い男の子同士で、仲良くなるかなと思っていたが、そうじゃなかった。
チロルの方がシロクロを嫌がっているようだった。
少なくとも僕にはそう見えた。
シロクロはしつけもなかなか覚えず、がむしゃらで、かなり危なかしかった。
餌を見れば飛びつくし、走っている車にも平気で突っ込んでいき、何度かはねられそうになったこともあった。
何も考えてないというか、ただ生きることに純粋だったというか・・・。
一方、チロルは年寄犬で、静かで落ち着いている。ずっと穏やかな犬だ。
長いペット生活の中で、人とともに生きていく術を知っている。
シロクロにチロル。
全く正反対な二匹。
エサをがっつくシロクロに、静かに食べるチロル。
散歩に行くときは、いつも二匹を連れていく。
シロクロには紐をつけない、理由はものすごくいやがるから、シロクロは自由に駆け回り走る。とても早い。散歩している時が一番うれしそうだ。
そんなシロクロとは対照的にチロルは飼い主に寄り添い散歩する。
猪突猛進のシロクロにチロルは距離を置いて歩いた。
そんなシロクロがやって来て、三か月経ったある日のこと。
おとうさんが二匹を連れて行ったその日はくもりだった。
田んぼで二匹を遊ばせようと、紐を外したそうだ。
すると、シロクロは土手を駆けあがり、車にぶつかりに行った。
・・・そうだ。
シロクロはそんな犬だ。
純真無垢なシロクロ。
おとうさんがあわてて家に戻って来た。
僕はシロクロが轢かれたことを知った。
家にあった、すのこを持って走る。
シロクロはアスファルトの端っこで横たわっていた。
口から血を吐いていた。
おとうさんと一緒に、ゆっくり、すのこに乗せた。
はっはっはっと呼吸が荒い。
懸命に、懸命に。
でも、次第に弱まる呼吸。
目はずっと見開いている。
・・・・・・。
・・・・・・。
でも、シロクロは死んだ。
僕は泣いた。
ふと、その時シロクロは自分からそうしたんじゃないかと思った。
今は違うと思う。
シロクロは懸命に生きていた。
チロルはシロクロに教えたかったんじゃないか、飼い犬としての生き方を。
ずっと落ち着いて、見ていたのだろう。
シロクロが来るまで、チロルはもう少し甘えん坊で元気だった。
きっと、チロルは教えたかったんだ。
でも、シロクロはおさまりきれなかった。
シロクロはシロクロとして生きた。
そう、シロクロは一生懸命に生きたんだ。