幕間
午前四時。人も町も動物も、全てが眠りについた暗闇が支配する時間。日中に着ていたら見つけてくれと言わんばかりに目立つ、黒い外套を身に纏う一団が路地裏に集まっていた。
「他に集結している組織は?」
指揮官らしき人物が厳しい声音で部下の一人に問う。
「現在確認されているだけで五つ。いずれも現在、正確な所属は明らかになっていません」
「チッ、流石にプロか…。では奴らの目的も」
「はい、恐らく我々と同じく炉の鍵、次いで彼の奪取かと。しかし動き方から見て存在こそ認識しているものの個人の断定までは至っていない模様です」
指揮官はもう一度忌々し気に舌打ちをする。
分からないのなら炙り出してしまえと言う、あまりに乱暴な動きが指揮官は気に入らなかった。それだけどこも必死なのだろうが、だからと言って徒に被害を出すことも厭わないと考え方が許せなかったのだ。
しかしそれでも指揮官は、任務であると念じて私情を押し殺すと淡々と言葉を吐いた。
「監視対象である彼が偶然にも我々の探し求めていた鍵を発見、更には封印の解除を成功させたためにその存在が露呈し、現在各組織がこの地へ集結している。だが我々には他組織にはないアドバンテージがある。それを生かし出来るだけ迅速に、かつ被害を抑えて目的を達成する。それこそが我々の望みでありあの方の望み。各位、くれぐれも忘れるな」
「「「「「は」」」」」
集まった部下たちは静かに、しかし力強く頷く。彼らの顔を見てから指揮官は作戦の発動を宣言しようと時計を確認した。
「!」
だがそのとき背中側から足音が聞こえてきた。
ここは地元住民でも立ち寄る機会が少ない路地裏であることはすでに調べがついていた。更に午前四時と言う早朝に通る者など本来いるはずもない。
指揮官は部下達に分散して付近に身を隠すよう指示を出し、部下達もそれに従いそれぞれ指揮官が見える位置に静かに素早く移動する。
移動の完了を確認した指揮官はフードを更に深く被り、顔を見られないようにしてから接近してくる方を向いて佇む。
この地に集まっているものはプロばかり。であるならばもう既にこちらへ仕掛けてこないのはおかしいと感じた指揮官は、相手は一般人であると予想した。しかし一般人だからと言って生かしておく理由にはならない。作戦開始前のこのタイミングで見つかってしまったなら口封じのために殺す。指揮官が当たる今回の任務はそういうものだった。
左袖に隠した刃渡り20センチのコンバットナイフを、腕を軽く振ることで取り出し左手で掴む。それを逆手に持ち替えてから、指揮官は相手に気取られないよう小さく深呼吸をして体勢を低くした。
会敵したと同時に相手の後ろに回り込み、口を押さえて右腕を切り飛ばす。それで普通はパニックで気を失うが、それでダメなら心臓を突けばいい。
脳内でシミュレーションを終わらせた頃、丁度影が暗がりから現れる。
訓練を思い出し、低くしていた姿勢を更に低くする。身体強化の術式に魔力を流してから左足を引き、右足を縮めたバネのように折り畳み、両手は地面に。まるで地面に張り付くような恰好で構えた指揮官は、相手との距離が10メートルを切ったとき右足の力を開放した。
前傾姿勢で地面すれすれを走り、距離を一息に詰める。相手が全く動きに反応出来ていないことからやはり一般人だったと確信した指揮官は、任務のためと自分に言い聞かせ、相手の背後に回ると口を塞ぐ。そして地面に魔法陣を展開し、一撃で腕を切り落とした。
「な、なんで君が…」
右肩を失った相手はそう呟いて気を失う。だが指揮官はその声を聴いてナイフを落とした。
「………クソっ」