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 私は夢でも見ているのでしょうか?

 目の前に広がる光景は信じられない物ばかりです。

 私の住んでいるこの国の王都にある城は歴史を感じる古い城ですが、周辺国の王城よりも大きく威厳を感じるほどの城です。

 しかし、私が見ているお城は我が国が誇る王城よりも威厳を感じさせられます。

 そのお城の敷地内には数匹の魔物が闊歩していて、護衛の騎士の皆さんがすれ違う度に深刻な顔をされています。中には体調が優れないのか、顔色が悪い方もいます。


 そんな私たちを先導しているのは、私たちを助けてくださったお二方の主でスコル様という女性の方です。

 とてもお美しい方で同じ女として少しですけれども羨ましく思います。

 あの方の下に仕えていらっしゃるという事は、あの方以上の美貌でないとお二方のどちらかでさえも我が国に仕えて頂くなど出来ないでしょう。

 私の護衛である近衛隊長でさえ、あの方から目が離せなくなっているようですし。


 そんなことを思っていた私に声が掛けられます。


「殿下、お気を付けください。彼女は強いです。少なくとも彼女に付き従っている2人以上です。」


 近衛隊長から彼女があの魔物を圧倒していた2人よりも強いと言われましたが、あれほど淑女の完成形ともいえるような方が彼らよりも強いとは何の冗談でしょう?


「それは本当ですか?」

「はい。私では彼らの強さは測れませんが、それ以上に彼女は強いというのは感じ取れます。」


 私たちの進む先に巨大な扉が現れ、私たちの会話はそこで途切れます。


「この先で我が主がお待ちです。」


 スコル様は私たちの方に振り返り、そう告げました。

 そして、扉の両脇に控えていた騎士風の服を着ていた男に声を掛け扉の正面に移動します。

 騎士であると思われる男たちは扉を開きます。

 その先に広がるのは我が国の技術をはるかに超える景色でした。

 天井から降り注ぐ光は自然のものではないと分かっていても、自然の日光を直接降らせていると思う様な優しいものです。

 カーペットはまだ誰も歩いたことが無いかのように綺麗で足を踏み出すのを躊躇してしまいます。

 そのカーペットを挟むかのように両脇を様々な服装の男女が並んでいて、少し段を上った先に4人の男女が並んでいます。その男女のさらに奥、玉座と思われる物に1人の男性が腰掛けてこちらを値踏みするように見ています。

 玉座にいる青年は、成人を迎えて数年は経っていると思われる青年。黒い髪に瞳。服装は派手ではない物の、王族が着ていても可笑しくないと思える生地を使っているとわかります。

 私が今着ているドレスをお借りした時に予想はしていましたが、あの青年の着ている服だけでなく騎士の服でもかなり上質な物だと感じます。


 私が扉を開いてから考え事をしている間にもスコル様はそのまま進んで行きます。

私は遅れていることに気付き、騎士を伴ってその後に続いて歩きます。

 スコル様に付き従っていた方たちはカーペットの直前で左右に分かれ、両脇に並んでいる男女の列の後ろに着きます。

 スコル様は段の手前で跪きますので、私もそれに倣って立ち止まり礼をします。


「主様、ただいまお連れ致しました。」

「ああ、ありがとうスコル。」


 スコル様とその主という男の方はそうやり取りした後、こちらに視線を向けてこう続けました。


「ようこそおいで下さいました、お嬢様。俺はカイトという。一応ここまで案内してきたスコルやここにいる奴らの主になる。」

「カイト様、申し遅れました。私はグロース王国の第2王女、ティファリーナ・フォン・グロースと申します。この度はカイト様のご助力のおかげでこうしてこの場にいることができるのです。」


 カイト様と名乗る方は私が王女だと名乗りを上げても、特にそれまでの態度と変わらず話を続けます。

 その態度を見た私の護衛である騎士たちは、不快なものを見たかのように顔を歪めてしまいますが、近衛隊長だけは表情を変えずに耐えています。

 私に対する不敬を周りの騎士は咎めたいのでしょうけれども、いかに不敬を働いたからと私が特に反応を示さないので表立っては言えないのでしょう。それに比べて、流石は近衛隊長と言うところでしょうか。貴族とも接する機会が多いので表情に出ないというのは、今の状況でも心強いです。

 私はカイト様と我が国が友好的な関係を築けるように良い印象を与えなくてはいけません。

 戦闘を実際に見られたのはお二人だけですが、近衛隊長の話では彼らの強さは近衛隊長以上の強さと評価していました。その彼らがこの場所に来てからは一人の騎士のように列の最後尾に並んでおり、彼らの主のようにしていたスコル様も従者のように玉座に腰掛けているカイト様の近くに控えています。

 恐らくは同じくらいの強さであろうと思われるあの方たちも、カイト様という一人の青年に従っているようです。

 彼らの内の一人でもこちらに付かせることが出来れば、周辺の国では怖いものは無いと言っても過言ではないほどの軍事力を持つことができるでしょう。







 なんだ、この女。

 ここに入って来てから俺の事をずっと見てくるし、その護衛の騎士たちは俺の事を睨んでるし……。


「カイト様、申し遅れました。私はグロース王国の第2王女、ティファリーナ・フォン・グロースと申します。この度はカイト様のご助力のおかげでこうしてこの場にいることができるのです。」


 ああ、王女だったのか。

 王女に対してさっきの挨拶はたしかに悪手だった。

 王女を始めとして、護衛の着ている服装などは俺の知っている時代だと中世の時代くらいだと思う。

 俺が住んでいた世界ではその時代は特に、貴族などの身分による格差が激しい時代だったはずだ。

 そんな時代の上流階級に対して、特に身分を持たない俺が敬意を見せた対応をしなかったとして処罰しようとしてもおかしくないはずだ。

 しかし、王女を見る限りは特に怒っている訳ではなさそうだが、一応謝った方がいいかな。


「これは失礼を致しました。王女殿下とは知らず無礼な態度を取りました。申し訳ございません。」


 俺は玉座から離れ、王女へ近付き膝をついて謝罪をする。

 そのことに唖然とする者や、当然の事だと言わんばかりに見る者が騎士から現れる。

 近衛隊長はあまり表情には出ていないが、王女と同じように見下すような表情ではない。


「頭を上げてください。知らずにいたのであれば覚えて頂ければそれで構いません。次からは気を付けてくださいね。」


 頭を下げている俺に王女は何でもないかのように告げる。

 王女とはもっと高圧的なものだと思っていたのだが、そうでもないのだろうか。

 王女に対して礼を告げ、この後についてやこの世界の情報について話を進める。


 王女は成人の儀をするためにこの森に入って来たそうだ。

 成人の儀は貴族や王族に課せられるものらしい。

 平民は成人する年に村や町ごとに教会へ行き神から祝福を受けるらしい。

 その際にスキルを与えられるのだが、その結果はステータスボードに表記されるそうで、内容によっては軍や教会からスカウトされる。

 貴族や王族はその祝福を受ける前にレベルを上げてからでないといけないとか。

 王女の話す事を要約すると、祝福を受けるのは平民も貴族も変わらないようで、平民とは受けるタイミングが違うものの貴族の見栄でレベルが平民とかと一緒だと駄目らしい。

 正直レベルが1だろうが2だろうが大差ないが、そこは貴族の考えで平民より優れていると思いたいのだろう。

 王女が言うにはゴブリンなどの低級の魔物を2,3体狩ればすぐにレベルが上がるとのことだ。

 その成人の儀を終わらせた王女一行は王都に帰るらしいのだが、もうじき夜になるのと護衛の騎士が減ってしまった事もあり、うちの城で一泊してから帰るように提案した。

 帰りには何人か護衛として付けて、そのまま情報を集めるようにしてもらった方が良いだろう。


「それでは、ここに滞在している間はスコルとリンを付けますので、何かあれば言いつけて貰えればすぐに対応させて頂きます。スコル、リン、頼んだぞ。」

「はい、かしこまりました。」

「かしこまりました、主様。」


 俺は滞在中に不便な思いをしないように彼女たちを付けると伝えると王女は嬉しそうに礼を言ってきた。

 どうやら俺の気遣いは無駄ではなかったようだ。




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