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 リーア、今日は帰れないかもしれません。

 いえ、今日だけで済めばいいのですが、もしかしたら二度とあの子の顔を見ることができないのかもしれません。

 それもこれも、お父様のせいです。

 私が成人になるから嬉しいのでしょうけど、魔物を狩って終わりのはずなの成人の儀は難航しています。

 森の入り口にいたゴブリンを狩ろうとして追いかけたのが間違いでした。

 私は護衛で付いていた騎士の言葉を聞き流し、森の奥深くまで追ってしまいました。

 騎士の方は私の事を止めようと何度も声を掛けていたのに、その声を無視して行動をしてしまった私は愚か者です。

 私のせいで分かるだけでも7名の騎士が亡くなってしまいました。


 私はゴブリンを追いかけて森の奥まで入り、ゴブリンを無事狩り取れました。

 しかし、この時の私は騎士の皆さんが付いているから安全だと思い込み、疲れていたのでその場で休息を取っていたのです。

 そんな私たちが進んで来た方向から悪夢が姿を現したのは休息を取り始めて少し経ってからでした。


「ゴアアアァァ!」


 その鳴き声が最初は熊などの大型の獣だと思い恐ろしく思いました。

 しかし、私たちの前に姿を現したのは熊などがかわいくらしく思える様な凶悪な姿です。


「な!なぜこんな所にこいつがいるんだ!?」


 そう声を上げたのは我が国が誇る近衛隊の一番隊隊長です。

 彼は黒ずんだ身体の巨躯を見て少し震えているように見えます。

 我が国では彼の実力はかなり強い方だと聞いた覚えがありますが、その彼がこんなにも狼狽えているのを見るのは初めてです。


「殿下!今すぐお逃げください!危険です!!」

「ど、どうしたのですか?」

「おい!お前たちも撤退だ!!あれは駄目だ、急げ!!」


 騎士の皆さんは私と魔物との間に剣を構えて立ち、私の逃げる時間を稼ごうとしてくれています。

 急ぎ私は走って逃げようとしますが、走り辛そうにしている私を見て近衛隊長は一言、「殿下、失礼します。」と言って私が着ているドレスの裾を破きました。


「これで多少は走りやすくなったと思いますので、早くお逃げください。我々も付いて行きますので、ご安心ください。」





 それからどれほど逃げていたのでしょう。

 私に付いてくる騎士も一人、また一人と少なくなっています。

 私と共に逃げている騎士も残り4名だけ。ですが、すぐ後ろからは先ほど遭遇した魔物が引き連れていると思われる複数の魔物も合流し、私たちを追ってきています。

 私はこの日のために体力作りを欠かさず行ってきていました。

 しかし、騎士の方たちと比べて圧倒的に体力が無いのも自覚していました。

 そんな私もとうとう体力が尽きそうです。

 足が重く、上手く上がりません。

 後ろから追ってきている魔物にも距離をかなり縮められてしまいました。

そんなときです。


「伏せなさい。」


 淡々と聞こえた声は不思議と私だけでなく、騎士の皆さんにも聞こえたようで、殆ど同じようなタイミングで全員が伏せました。

 その上を2つの影が飛び越え追って来ていた魔物たちを蹂躙してしまいます。

 私たちは魔物たちから逃げ続けていた疲れもあって、その光景を呆然と見つめることしかできませんでした。


「し、信じられん。」


そんな声が隣にいる近衛隊長から聞こえます。

 私は彼にどういうことか確認します。


「何が信じられないのですか?確かにあの方たちはお強いようですが…...。」

「我々を襲ってきた魔物はこの辺りには生息していない魔物です。いえ、あの魔物は我々では手の施しようがなく、あの魔物1体で一つの小国が滅んだ例もあります。それを彼らは2人で討伐してしまいました。」

「ええ、あの方たちはお強いようですけどわが国でも対処はできますよね?」


 騎士隊長の言っていることは分かりますが、彼が何を驚いているのかがよくわかりません。

 私の言っていることを騎士隊長は聞こえている筈なのに会話が続きません。


「私の言っていることは間違っていましたか?」


 私がもう一度声を掛けると騎士隊長はようやく聞こえたかのようにこちらを見て話し始めます。


「殿下、先程の魔物は我々近衛騎士隊が全ての部隊揃っていれば恐らく倒せると思います。以前あの魔物が出現したときは周辺の国が連合で軍を立ち上げてようやく討伐しましたが、その際軍の半数が壊滅したと聞いています。しかし、彼らは2人で倒してしまいました。」


 彼のその話を聞いて今度は私が信じられませんでした。

 確かに先程の魔物は強かったですが、それほどの脅威であったとは思いもしませんでした。

 近衛隊の隊長が複数人いれば問題なく討伐できると思っていましたが、近衛隊を全て投入しなくては勝てないほどだとは。


「では、彼らはあなた以上の強さを持っているという事ですか?」

「はい。団長たちが戦ってみないとそれ以上の強さは測れません。」

「それほどなのですね。」

「はい。私では足元にも及ばないでしょう。彼らの剣先が見えませんでした。恐らく団長たちと同じかそれ以上の強さであるという事しかわかりません。」


 彼の言葉を信じるのならばあの方たちは冒険者でいうところのA級かS級という強さの人たちらしい。

 お父様と騎士団の方たちの会話を思い出すとそのくらいの強さだと予想ができます。

 彼らを我が国に取り込めればどれだけ周囲の国や魔物からの被害を抑えることができるのでしょう。

 彼らのどちらかだけでも我が国に取り込むためであれば私は……。






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