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「うーーん……。」
先程レストから周辺の調査で得た情報の報告を聞いたが、信じられない事だがやはり異世界に転移したと思われるような内容だった
俺のギルド拠点としているヴァルハラ城は周辺に草原が広がっており、城を出るとすぐ目の前に街が広がっていた。バグなどで多少場所が変わっていたとしても見落とすことなどありえないくらい広い街だったから、レストやスコルが調査して見当たらなかったという事はかなり遠い場所に飛ばされた可能性もある。
しかし、ゲーム内だとしたらある程度の地理などは覚えているが、2人から報告を受けた内容からは思い当たる地域は無い。
出現する魔物とダンジョンが食い違っている。
ゲームでは森にウルフやゴブリン、オークが出ることはあるが、ロードやジェネラルクラスが出現するのは洞窟や山などに限られていたはずだし、複数体出没するのは終盤のマップで雑魚モンスター扱いで出てくるようなところだが、そういったマップと照らし合わせると他のモンスターが弱すぎる。
そう考えるとまだ知らないマップに来ている可能性も無い訳ではないと思うが、ゲーム時と違って視界の右下に常に見えていたはずのショートカット用の魔法アイコンが無くなっている事もあるし、NPCが自主的に行動している事も含めて考えるとやはりゲームでは無いと考えられる。
俺のいた現実の世界でもこういったモンスターは存在しておらず、ましてや魔法なども無かった。科学が進んでいたというか、進み過ぎていた。その代償に一定の空間から外に出る場合は身を守るために専用の保護具を装着していないと健康に害をなす空気が漂っていた。
こんなに澄んだ空を見たのは初めてだし、外に出歩くのにそういった物を付けていなくとも問題ないような世界ではなかったこともあって異世界だという認識が強くなっている。
そして、問題なのがこれからどうするかが問題だ。
俺はこの世界に来てから100人近いNPC達の上司として行動しなくてはいけなくなった。
リンやレストを始めとして俺の事を主としてついてくるというやつらしかいないそうだ。
それはつまり俺の指示を絶対的な命令として遂行されてしまうため、下手な命令を出そうものなら取り返しのつかない事にも繋がってしまうだろう。
この世界にどの様な国があってどのようなレベル帯が多いのか、友好関係は結べるのかやそもそも言葉は通じるのか、これらだけではなく他にも不明な点が多い事もあり、簡単にはNPC達を外に出すことも迷っている。
「よし、とりあえず俺が動いて確認してみるか。」
「な!なりません、ご主人様はお残り下さい!ご主人様を危険に晒すことは絶対に看過できません。」
俺は小声で呟いただけのつもりだったが、周りにいたNPC達には聞こえてしまったようで止められてしまう。しかし、こちらも譲れないものがある。
「いや、お前たちだって危険だろ?俺はお前たちが危険に晒されるのを見過ごすことはしたくないし、お前たちがけがをすることも認めたくはない。」
「しかし、我々も主様に危険が迫ることは許せることではありません。」
「そうです、ご主人様に危険が迫らないようにすることが我らの務めです。そのためにもご主人様は我らに指示をしていただくだけで問題ありません。ご主人様の手足となるために我らは創られたと理解しております。」
「そうです、例え主様のために働き命を失うことになろうとも、それは我らにとっては誉です。」
リン、カゲミツ、スコルの順で俺のことを止めようとしてくる。
その後ろにいるレストやハウトはその通りだと言わんばかりに頷いている。
俺たちが玉座の間でお互いに引けないと言い合っている所に、扉を開いて入って来る魔法使いが1人。俺たちの近くに来て跪き、声を上げる。
「報告致します。」
「どうしたのですか?」
近くにいたレストが反応して聞く。
「森の中を走る騎士の一団8名を発見いたしました。その後を追うようにオークキングを始め、複数のモンスターも同じように確認できました。」
「そうですか。」
魔法使いの報告を聞いたレストは俺に頭を下げながら確認を取ってくる。
「主よ、先程騎士の一団とそれを追っていた複数体の魔物を確認致しました。」
「騎士?何人くらいだ?」
「はい、先程確認したところ8名とのことですが、逃げている所を確認しておりますので時間が経つにつれて減ると思います。」
レストは何でもない事のように言っているが、減るという事は魔物に殺されるという事だろう。
「騎士たちを追っている魔物は何か分かるか?」
「オークキングが引き連れている群れだと思われます。」
「オークキングであればスコルが召喚する眷属かモンスターで倒せるよな?」
「はい、問題無いかと思われます。しかし、本当にその騎士どもをお助けになるのですか?我々が助けるまでもないと思いますが。」
スコルは本当に分かっていないのか、それとも分かるが実行したくないのか。
いや、分かっていないな。
「スコル、俺たちがこの世界に来てからまだ意思の通じる相手との接触ができていない。この世界で過ごしていくにはこの世界の情報を集めないといけない。だが、レストから報告のあった騎士たちを逃すと、次はいつ現地人に遭遇できるかわからないだろ?それに、魔物に追われているってことは恩を売って情報を得ることもできるだろう。」
「かしこまりました。私の眷属たちに向かわせ、追っている魔物を排除させますがその後はいかがいたしましょうか?」
「そうだな、ここまで連れて来てくれ。色々聞きたい事がある。」
俺はこの世界に来てからの疑問を解消できるチャンスだと思って直接会いたいと伝える。
スコルは俺に礼をして玉座の間から出て行く。その後ろを2人のヴァンパイアの供を連れて騎士への下へ向かう。