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どれくらい寝ていただろうか。
体感的には1時間程度のちょっとした時間だが、意識が飛んでいたみたいだ。
それも無理はないだろう。今日がイベントの最終日で目的の素材を集めるためにラストスパートをかけていて、素材が落ちずに何度も周回をしていたので睡眠時間を削っていた。
今月は仕事が繁忙期で忙しくしており、元々残業が増えていたこともあって睡眠時間が少なかったことも関係していると思う。
それにしても、本当にゲームじゃないんだなぁ…。
ゲームのままであれば寝てしまった際などは安全装置が反応して、アラームが鳴るようになっている。
そのアラームが鳴らなかったという事は、ゲームではないという可能性がある。
それに、ギルドの拠点は終盤の街がすぐ目の前にあり平地が広がっているという立地だったはずだが、レストからの報告を聞いたところ周囲が森に囲まれていて近くに街が見当たらないと言われたが、街や村を見つけないとこの世界の情報を集めることができないだろう。
「カイト様。いかがなさいますか?」
俺が微睡の中、簡単に状況を整理していると玉座に近づいてくる人影から呼びかけられる。俺が最初に作ったNPCであり、一番手を掛けた一人だ。
「どうしたんだリン?」
「レストから主様の護衛と身の回りの事を任されましたので、レストが来るまで主様のお側に控えさせて頂ければと思います。」
そう言ってリンは俺の前で跪き頭を下げる。
「ああ、レストから報告が来るまで時間があると思うから任せる。それと、少し確認したい事もあるから俺の部屋に行こうと思うんだけど、リンが今率いているのは何人いる?」
俺のその質問にリンは少し考えてから、
「はい。今私と共に主様の護衛を任せられたのは、私を含めて8人となります。少ないのであればすぐにでも増やせますがいかがでしょうか?」
「いや、俺の部屋に8人であれば入れるだろうから問題ないし、リンたちが護衛に着くのであれば増やす必要もない。」
リンの言葉に俺は問題ないと言うと、リンは嬉しそうな雰囲気を出していた。
「ありがとうございます主様。」
「それじゃあ、行くか。」
俺のギルドは基本的には最低限のノルマをこなしていれば常に縛り付ける様な事はしていなかった。ギルドの資金を納めるか、他のギルドメンバーから依頼のあった素材を代わりに集めてくるかをしていればその他は何をしていても構わないというルールにしていた。
そのため、俺がNPCの作成・育成を行っていて、NPCに対することはほぼ全て行っていた。そんな中で手を掛けたのはリン、レスト、スコル、ハウト、カゲミツの5人だろう。
他のNPCにはドロップした武器や防具などを装備させているが、リンなどには俺が作った武器や防具を装備させていて、他のNPC達よりステータスが高くなっている。
そんな彼女たちは俺がダンジョンに行く時などにはよく連れて行っていた。
他のNPCももちろん連れて歩いていたのだが、それよりも頻繁に連れて歩いていたのだ。
ダンジョンに行くのは基本的にはドロップアイテムを集めるために行っていたが、貴重なアイテムや素材はボスモンスターが落とすことが多く、その周回となるとそれなりに強いNPCを連れて行かなくてはならなかった。
しかし、この世界に来てからは俺が率いていなくともNPCが外に出ることができる。
この世界に来てから他に何が変わったのか。何ができて何ができないのかを調べることは必須だと思う。こちらの世界に来て、もしも第三者と戦う事になれば魔法の撃ち方やスキルの使い方などを調べておかなければいざという時の危険度が高くなる。
そのため、今は確認できることを1つでも確認して不安を解消していく必要がある。
「リン、何か体調とかで違和感はあるか?」
俺の部屋に向かう途中、NPCであるリンに何か変わったことなどが無いかを聞く。
「そうですね、この世界に来てから体の調子が良くなったように感じます。体が自由に動くようなそんな感じですね。変ですよね、今までも体は動かせていたはずなのですが、前の世界で感じていた体を縛り付けられるような感覚が無くなりました。」
リンがそのように答えると、一緒に付いて来ていた他のNPCも同じだと口を揃えて言う。
俺の部屋に着いて、今は装備などの変化を確認していた。
ゲームの時には装備は1種類、防具は各部位毎に1種類しか装備はできなかったが、この世界ではそういった決まりは無いらしい。武器は腰と背中のように2種類装備ができ、防具は鎧の下に服など重複して装備ができるようになっている。更には、全ての指に指輪を嵌められるようにもなっている。
ゲームの時にはアクセサリーという項目で指輪、腕輪、ミサンガなどのその他に装備できるようなものから3種類を装備できていたのだが、全ての指に装備できるようになっていることからゲームの世界とは違うものなのだと改めて認識させられた。
「装備を多く装備できるようになったのはありがたいな。」
俺やNPCが外で活動するようになると当然危険も付きまとう事になるだろう。
装備が増やせるのであれば俺だけじゃなくNPCの装備も増やして、危険を少しでも少なくすることができるし、そもそもこの世界で死んでしまった場合に復活ができるのかなど、確認したくとも簡単に確認できないようなこともある。
死んでしまった場合はゲームの時はデスペナルティで3レベル下がっていたが、この世界でもそれは適用されるのか。ゲーム時はレベル上限が100だったのがこの世界ではどうなのか。
その辺りの確認も追々確認しないといけない事ではあるが、死なないに越したことは無いので慎重に行動していくつもりだ。
あとは、魔法やスキルについてだが、それらは外に出てから行った方がいいと思うので、レストからの報告を待ってから行うつもりだ。
あとは、メニュー欄から行けたアイテムの一覧は開けなくなってはいるが、頭の中にアイテムの一覧が浮かび思い出せはする。
しかし、どうやってアイテムの出し入れをするのかは分からないため、後で確認しておかなければいけない。持ち物には希少なアイテムも入っていたので、そこから取り出せなくなるとかなりもったいない事になる。
「主様、レストから報告があるとのことですがどちらに向かわせればよろしいですか?」
俺が頭の中で整理していると、リンから報告があった。
「ああ、そうだな………。じぁあ、玉座の間に来るように伝えてくれ。俺もすぐに向かうから。他にも手の空いている奴には招集掛けといてくれ。」
「わかりました。それでは、10分後に集合を掛けます。」
「そうしてくれ。それと気になったんだが、いつレストと連絡とり合っていたんだ?」
俺がリンにレストとの連絡のやり取りをいつの間に済ませていたのか、疑問に思って聞くとリンは不思議そうにして首を傾げる。
「主様が装備の確認をしていた時にレストからメッセージの魔法で連絡が入ったのですが、どうかしましたか?」
俺はメッセージの魔法のことをすっかり忘れていた。
メッセージはプレイヤーであってもNPCであっても必ず使えるように設定されていた魔法だ。プレイヤー同士であればメニュー欄からすぐに使えるように設定している人が多かったが、NPCに設定する必要性があるのかとギルメンの間だけではなく、他のギルドの人たちも言っていたくらいの無駄な設定だった。
さっきまで忘れていた俺だがそれにも理由がある。
俺はこの世界に来てからまだ魔法を使っていなかったのと、NPCにメッセージが基本設定として使えることを忘れていたのだ。
NPCにそういった設定があることは知っていたが、NPCにメッセージを使わせたことが無かったので記憶の片隅に追いやってしまっていた。
しかし、この世界に来てNPCにも人格があるため、メッセージはかなり有用になったと思う。
今周辺の探索をしてもらっているレストやスコルにもその場でやり取りできる。
直接面していなくても指示を出せるから、今回のような探索やこれからやってもらうかもしれない潜入などに丁度いいと思う。
今は周辺の調査しかしてもらっていないが、この世界の住人からもある程度の情報を集める必要があり、いずれは接触もしなくてはいけない。