表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/26

2




 (おかしい……。)


 俺はあれから様々な方法を試してみた。

 まず、ログアウトは最初に行った。

 何回やっても結局はできなかった。


 次に、運営への連絡だ。

 メニュー画面を開いて右側の一番下にログアウトのボタンがある。

 その一つ上に運営と書かれたボタンがあり、それを開くと一般的な(初心者が疑問に思う様な)事が書かれたQ&Aのボタンと、課金用のボタン、そして通報というバグや違法行為などがあった場合にすぐに連絡できるボタンがある。

 ―――いや、この場合はあったと言うべきだろうか。

 メニュー画面を開いた時にようやく気付いたのだが、ログアウトのボタンと運営のボタンが消えていた。

 念のために他のボタンを押してそのページを見てみたのだが、他のページに紛れ込んでいるという事は無かった。


 そして、俺が一番可能性を求めていたのがメッセージだ。

 このシステムはメールなどの連絡ツールを使うこともできるのだが、すぐに連絡を取れるようになっており、わざわざ文章を打ち込んでやり取りをする必要もなく非常に便利ではある。ただし、相手側もログイン状態でないと使えないというデメリットもある。

 それと比べてメールは相手がログインしていなくても送ることは可能だが、手間が掛かるのと、相手がいつ見てくれるのかが分からないというデメリットがある。


 このメッセージで実際に連絡を取ろうと思ったのだが、案の定誰もログインをしていなかった。


「クソッ!運営め!適当な管理してんじゃねぇよ!!明日は仕事で早起きしないといけないんだよ!!」

 

 俺は翌日の仕事が早い事もあって、少しでも睡眠時間を確保しようと、このゲームを終えてからすぐに寝れるように準備をしていた。

 風呂のタイマーをセットして自動で沸くようにしていたし、テーブルの上には今日の晩飯と明日の朝食をレンジで温めるだけにしておいた。

 それなのに俺のことなど知るかと言わんばかりに運営には連絡が取れないし、フレンドもギルメンも全く反応してくれない。


(あぁ、寝た気はしないから嫌だけど、此処で寝てれば目が覚めたらログアウトしてるだろ………。)


 俺がそう思って寝ようとした時、俺のいる集会所の入り口の扉をノックする音が聞こえた。


(誰だ?ギルメンだったらノックなんかしないで入って来るよな?)


 俺はノックしてきた人が誰かよくわからずに入室の許可を出す。


「どうぞー。カギは開いてるから入って良いぞー。」


 俺のその声が聞こえたのか入り口の扉が開き、中に1人のNPCが入って来る。


 身長は大体170cmを少し超える程度の男性キャラ。執事が着るような黒い燕尾服(?)のようなものを着ており、両手には白い手袋、髪は金色で肩の少し上辺りで切り揃えられ、瞳はエメラルドグリーンに近い透き通った翠色だ。


 因みに、種族はハイエルフで顔は当然イケメンだ。

 エルフとハイエルフの違いは、外見は耳の長さと目の色で、耳はハイエルフの方が少し長くなっている。目の色については、ハイエルフはさっき言ったようにエメラルドグリーンに近い色で、エルフはハイエルフに比べて少しくすんだ様な色だ。くすんだと言ってもハイエルフに比べてなので、目はどちらも綺麗だ。

 また、能力的にも違いはあるが、ハイエルフはエルフの上位互換で、若干近接向きのステータスをしていると言った所だ。


「主よ、時間はございますか?広間までお越し頂きたいのですが。」

「ん?あぁ、良いぞ。広間だな。すぐ行く。」

「ありがとうございます。」


 俺がそう返すとハイエルフのイケメン、レストは一礼をして扉の外に出て行った。


(俺、なんか呼ばれるような事したかなぁ?)


 ただ呼ばれただけなのにそういう考えが頭を過る。


(いや、待てよ。そういえば、普通にレストと会話していたよな?普通はNPCとは会話はできないはずだ。できたとしても、街や村などにいるNPCのように決まったことしか言わないような会話ぐらいしかできないはずだろ!受け答えできている時点でおかしい!ゲームからログアウトできない件や、今のNPCとの会話の件、いったい何が起きているんだ?もしかして、アップデートか?いや、アップデートを行うならこんなタイミングってのはおかしい。イベント終了の直前だったら、精々バグの修正程度だろう。)


「主よ、何かございましたか?」


 俺が考え事をしている時間が長すぎたのか、扉を開けた状態でレストが再び声を掛けてくる。その姿を見ているとNPCが取るような一定の体の揺れや仕草などが無く、プレイヤーと向かい合っているような自然な体の動きをしているように感じる。


「なぁ、レスト。」

「なんでしょうか?」

「なんで普通に会話をしているんだ?」

「はい?」

「いや、だからさ。なんでNPCのレストとこういう風に会話が成り立っているのかと思って。」

「主よ、申し訳ありません。NPCというものが私には分かりかねます。それよりも、広間にて皆が待っておりますので、早めにお越し頂きたいのですが。」


 俺が感じた疑問に対して、レストの返答は俺の疑問を解決してはくれなかった。


 俺は少し残念に思いながらも、レストが促してくるので立ち上がり、レストの案内に従って広間まで向かった。




広間、謁見の間の扉を潜ると俺に無数の視線が突き刺さる。


俺の作ったNPCが全員揃っているのではと思う様な人数が集まっており、入り口から玉座までの間に敷かれている赤い絨毯(?)、カーペット(?)の左右にそれぞれ並んでいる。

俺が謁見の間に入ると一斉に跪く。

そしてその中で唯一立っているレストが歩き出すので、俺はその後を付いていく。


「主よ、こちらにお掛け下さい。」


 そう言って玉座を指すので、俺はそこに腰を下ろす。

 俺が座るのと同時にレストは頭を下げ玉座の横に移動する。


「では、皆頭を上げなさい。」


 レストがそう言うと跪いていたNPCたちが一斉に頭を上げる。


「それでは、主にご報告させて頂きます。」

「あ、あぁ。」


 横にずれたレストがなにやら畏まった様な表情で話し出す。

 俺はその雰囲気を肌で感じさせられ、返事が詰まってしまう。


「現在、我々はこのヴァルハラ城ごと謎の地におります。周囲は私が見たところ東から北を通って西に森があり、南側には平野があり、近くには街や村などは見当たりませんでした。ただ、この城の敷地から出てはおりませんので、詳しい探索は行っておりません。よって、私の見落としであり探索をすれば村などは見つかるかもしれません。また、私が最初に謎の地とお伝えしたのは0時丁度に地震があり、その地震の前後で周辺の地形や風景が変わってしまったため、0時以前の地域とは別のところにいると判断をいたしました。もし、許可を頂けるのであれば、私の手勢を率いて周囲の探索を行わせて頂きたいと考えておりますがよろしいでしょうか?」

「あ、あぁ。良いんじゃないか?任せるよ。」

「かしこまり――――」

「ちょっと待ちなさい!」


 俺がレストの話している内容に唖然としており、適当な返事をしていると前に並んでいる列の中から一人の女性の声が響き、列の中からその声の主と思しき黒髪の女性が出てくる。


 身長はハイヒールを履いている状態で、大体170cm無いくらいだ。

 髪は黒で腰まで伸ばしており、玉座からでも分かるくらい艶がある。

 瞳は流れ出したばかりの血のような鮮やかな赤。

 見た目は非常に人間に近いが種族はヴァンパイアだ。

 それも最上位種である真祖だ。

 ヴァンパイアはアンデッドの分類に属しており、その中では上位の存在だ。

 アンデッドの共通の赤い目は種族のランクが高くなるにつれ鮮やかに、明るくなって行く。


(確か、スコルだったかな。)

「スコルですか。なんでしょうか?」

「レスト、あんたはこの城の執事でしょうが!私はあんたが城の外に出るのは反対よ!」

「では、誰が周辺の調査に行って頂けるので?」

「主様に決めて頂けばいいでしょ!あんたが決める事じゃないわ!」

(え?俺に回ってくるの?)

「そうですね。確かに出過ぎた事を致しました。主よ、周囲の探索に行く者を決めて頂いてもよろしいでしょうか?」

「あぁ。分かった。」


 レストとスコルの言い合いでそのまま決まりそうだったのだが、何故か人選から俺が決めなくてはいけないようだ。

 二人は俺の人選の結果を待つように、少し離れて並んで跪く。


(どうすっかなぁ。実際に探索だけであれば誰でもいいような気もするが……。レストの報告ではここは別の地域なんだよなぁ。地域によっては人族がいなくて、魔族だけの地域もあるからなぁ。それに、NPCのレストとスコルが言い争っている所を見ると、完全にNPCにも自我があるって事なんだよな?…………やっべぇ!これって、ラノベとかで良くある異世界転移ってやつなのか?マジ?明日から仕事行かなくていいとかって最ッ高じゃん!!)


「ああ、そうだな……。それじゃあ、レスト。」

「はい。」

「お前は城内の警戒をしてくれ。周囲の探索に振り分ける奴以外は基本的に全員配置してもらって構わない。」

「かしこまりました。」


 俺がレストにそう命じると、レストは落ち着いた様子で一礼をし、俺の座っている玉座の横に移動した。それを確認して、俺はまだ跪いた状態で待機しているスコルにも指示を出す。


「それと、スコル。」

「ハッ!」

「お前は眷属の召喚を使えたよな?」

「ハッ!召喚術は上級まで習得しております。」

「では、他に召喚術の使える者を全員使って、周囲の探索を行ってくれ。一応城外に出るのは召喚した魔物だけにして、お前たちはすぐに連絡が取れるように敷地内にいるように。」

「ハッ!かしこまりました。すぐに行動に移らせて頂きます!」

「あぁ、頼んだぞ。」

「は……、ハイッ!」


 スコルは嬉しそうに返事をしながら、行動に移る。


「聞いていた通りよ!召喚術を使える者は私に着いて来なさい!」


 そう回りに声を掛け、謁見の間を出て行く。

 スコルの声に反応した十数名が立ち上がり、スコルの後に続いて出て行く。


「じゃあ、レストも早速行動に移してくれ。」

「はい、かしこまりました。」


 レストは返事と共に立ち上がり、一度頭を下げてから振り返り歩き出す。そして、周りのNPC達に指示を出し、指示を受けたNPC達はレストの後に続いてぞろぞろと出て行く。

俺はその後姿を眺めながら、今の状況と今後の方針について思考を始める。


(やっぱりゲームの世界に入り込んだというよりは、異世界に召喚されたか飛ばされたと考えるのが妥当か?NPC達の反応の仕方を見ると、今までのゲームでは再現できなかったような表情の変化があった。それに、NPC同士のやり取りや俺との会話が成り立っている。そして、ゲーム時代よりも鮮明に触れた物の感触が分かるのと、ゲーム時代では感じられなかった人の気配を詳しく感じ取れるようにもなっている。しかも、ご丁寧なことに周りのNPCや城も丸ごとか……。単なる事故か?それとも、意図的なものか?どっちにしてもレストの報告内容を考えると周りに町や村が無い事から、召喚のような意図的なものではないと思うし……。これからどうすれば良いんだろう?とりあえず、何をするにしてもこの世界のことを知らないとな。)


 俺はまず、レストに城内の警備を任せたし、スコルには周囲の探索を任せた。

 その他で今すぐにやらなければいけないことも無いだろうし、あとはスコルの報告を待つだけだ。

 そう思い、俺は玉座に座る姿勢をリラックスしたものに変えた。そのまま少しボーッとしていると、昨日から寝ていなかったからなのか眠気が襲い掛かり、その眠気に抗う事も出来ず寝てしまった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ