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 俺たちは長老の家で歓待を受けている。

 少し前に血の雨を振らせた一行に対してこの集落の人たちは歓迎の雰囲気で迎えてくれた。


 まあ、戦闘行為を禁止していた状況でカゲミツが村長に攻撃したため、村長の蘇生をリンに任せてその横で説教をしていた。

 その際にカゲミツが言い訳をしたのだが、その内容を理解すると同時に呆れてしまった。

 カゲミツたちが俺のことを敬っているのは分かるが、俺が馬鹿にされたくらいで人を殺していたらこの世界の人口が激減してしまうことだろう。


 リンが長老の死体を元に戻し、蘇生魔法で復活させるところを何人かが見ており、長老を復活させたことで俺たちのことを神の使いかのように扱ってくる。

 この世界に神が本当にいるのか、その神とはどんな存在なのか、どの程度の強さなのか、それも調べなくてはいけないだろう。


 長老たちに聞いたところ、この世界では神は一柱だと教えられた。

 全知全能なる神。名前は知らないらしい。この世界が創られてその神なる者は度々人の前に姿を現していたそうだ。しかし、人々の暮らしが豊かになってくると共に姿を現す頻度が減っていき、次第にその姿を見たという人は減っていった。

 それを知った人々は神が人の生活が豊かになって安心して神界へと帰って行ったと考えたそうだ。

 しかし、その神だと思われる者の名前を聞いたものはいないらしく、今となってはその姿が女性で数人の供を連れて歩いていたことしか記録に残されていないとか。


 俺はその話を聞いてもなぜカゲミツが王だと呼ばれたのかが不思議でならない。

 その話を聞こうと口を開こうとした時、長老が先に話の続きを始めた。


「そちらの女性が龍人族と呼ばれるお方なのは一目で分かりました。神の従者として伝承に残されている通りの角と金の瞳を持っており、儂らとは比べることもできないほどの強さをお持ちです。儂ら獣人ははるか昔には神の従者をされていた龍人様に付き従っておりました。儂らの先祖は龍人様に再びお仕えすることを宿願としてお探ししておりましたが、龍人様を見つけることが叶いませんでした。」


 長老は落ち込んだように話す。

 たしかに何世代も宿願を果たすことができなかったのだからそういった反応も頷ける。

 長老と周りの男衆は同じように下を向いて悔しそうにしていたが、突然長老がこちらに視線を向けて興奮したように話し出す。


「しかし!今こうして儂らの前にお姿を現してくださったということ!これこそまさに神の思し召しです!どうか、儂らの忠誠をお受けして頂きたく思います。」


 そう言って長老はカゲミツの足元へ縋りつくように進み懇願する。

 カゲミツは足元へ近づいて来た長老をまるで虫でも見るかのような表情で睨む。

 俺の近くにいるリンやスコルもカゲミツと同じような顔をしている。

 そんな中でカゲミツは冷たく言い放つ。


「オレはカイト様に仕えさせていただいている。カイト様に貴様のような無礼を働く者は必要ない。」


 その言葉にリンとスコルも頷き、同じような冷たい視線を向ける。

 どうやら、リンたちは長老が出会い頭に放った俺に対しての対応が気に障ったようだ。

 俺が長老のことを蘇生してやろうとすると、リンたちはそこまでする必要はないと言ってきたが、俺が構わず蘇生させると彼女たちはどうして蘇生させたのかを聞いて来た。

 情報を集めるためにこうして動いているのに、情報を集める前に問題を起こしてしまったことを彼女たちは特に問題だとは思っていなかったようだ。

 彼女たちは話し合いができなければ拷問で聞き出そうというのだが、この集落の人たちがどのような立場なのかによっては、俺の望まない結果になる可能性が非常に高くなる。

 俺の考えを説教交じりに彼女たちに伝えると彼女たちは何とか納得してくれた。

 しかし、どうやら最初の長老が放った言葉がいまだに後を引いているのか、彼女たちの長老への認識はまるで虫に対するようなものにまでなっていた。


 俺はこのままでは話にならないと思い、カゲミツに長老への説明をするように伝える。

 俺が説明をしないのは面倒だからではなく、俺の話よりもカゲミツの話の方が聞いてくれると思ったからだ。


「さっきも言ったが、オレはこちらにいらっしゃるカイト様に仕えている。一緒に来ているそこの2人もオレと同じだ。お前たちが誰に忠誠を誓おうがどうでもいい。だが、先程お前がカイト様を罵倒したことは許さん。忠誠を誓うならばオレではなくカイト様に誓え。次も同じようなことをするほど低能な存在ならば、生まれてきたことを後悔させてやろう。」


 カゲミツはたしかに説明をしてくれた。

 しかしだ、俺は別に忠誠なんて欲しいわけではない。

 だが、ここでそんなことを言えばせっかく納得して説明をしたカゲミツに悪い気がする。


「カ、カイト殿!」

「うん?」

「先程のご無礼、誠に申し訳ございません。」


 長老の他にも一緒にいた男たちが一斉に頭を下げてくる。

 俺は正直どちらでもいいと思うが、リンたちはどうなんだろう?

 カゲミツは反対しそうだし、スコルとリンは説得すれば認めてくれそうだし。

 こればかりは話してみないと分からないか。


「いや、俺は別に気にしてないから良いんだが、リンたちはどう思う?」

「オレは反対です。カイト様に仕えるのにこのような者たちは相応しくないです。」

「私は受け入れてもよろしいかと思います。この世界での人手を新たに確保できることは喜ばしいと思います。」

「私もスコルと同じ考えです。最初の印象は最悪でしたが、躾ければ多少は気にもならなくなると思います。この世界の知識を仕入れるにも有用になると思います。」


 カゲミツはやっぱり反対だったが、スコルとリンが説得するまでもなく賛成したのは意外だった。

 カゲミツはまだ怒っていて感情の部分で納得できないのだろう。

 しかし、リンとレストも怒っていたように感じたが、彼らを取り込むことの利益を話して来た。

 彼らを取り込むことの利益は俺とたいして変わらない意見だが、実際に取り込むとなると王国との関係が悪化する可能性があることも考えると今すぐには結論を出すのは駄目だろう。

 個人的な意見としては彼らを取り込むことは問題ないと思うが、国王から登城の使者が送られて来るらしいので、その件が片付いてから王女あたりを通して聞いてみないと反感を買う可能性がある。


「そうだな、俺一人で勝手に決めていいのなら取り込みたいところだが、あいにくこの国と事を構える気は今のところ無いから少し待ってもらわないといけないと思う。お前たちのことを国の方で知っていたら問題になる可能性が高いから、今すぐは返答できない。」


 俺がそう言うと男たちは肩を落として残念そうにしていたが、長老はこの返答が分かっていたのかそんなに気落ちした様子はなく男たちに話をしている。


「わかりました。儂らはカイト殿からお返事をいただける日をこの地で待っております。良いお返事をいただけることを神に祈ってお待ちしております。」


 俺は返答に時間がかかることを詫び、その後は彼らの知る情報を教えてもらった。

 最初の長老の頭部が消し飛んだこと以外は、終始話がスムーズに進み思った以上に情報を得ることができた。




 彼らは元々、別の地で小国ながらも周辺国と良い関係を築いていたらしい。

 しかし、100年程前に隣国から攻められ国は滅亡し、亡命して辿り着いたのがこの地だそうだ。

 この地についてからは狩りや農耕で食い繋ぎ、周辺の情報を集めながら生きてきた。

 そんな彼らからの情報は恐らくだが周辺の他の村や町より量は多いだろう。


 彼らがなぜこんなところに住んでいるのかというと、この地は王国の中心に近く、森の中には大小さまざまな魔物や動物が生息していて食料にも困らず、その魔物や動物のおかげでここまで入って来れる者も少ないことからここが安住の地となったようだ。

 それにしても、彼らがこの地に留まる必要もないような気もした。

 周辺の集落に合流して共に住めばもっとましな生活ができるとも思うが、その考えは実行できないらしい。

 この世界にも奴隷制度があり、その奴隷として代表的なのが獣人を始めとした亜人種だ。

 奴隷を推奨しているらしい国があり、その国のせいで彼らは力が無い限りは人前に姿を見せるのは危険だという。

 彼らの集落は150人ほどの人口だ。

その集落の半分以上が老人や子供、残りのさらに半分ほどが女性、残りが男性だ。

 戦闘のできる者が約20%ほどだが、人種よりも戦闘に秀でていても数の暴力には抗いきれない。

 身を守る力が足りないため、彼らはこうして森の奥でひっそりと暮らしている。


 俺にそう説明した長老は先祖が戦争に負けたのが悪いと割り切ってはいたが、後ろで話を聞いていた者たちは悔しそうに拳を握り締めていた。




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