prologue
大分昔に、設定だけ作って放置していた話を再構築してみました。なんちゃって魔法少女モノ…?
夢の世界=異世界 ということで、異世界転移タグ入れてます。問題あるようなら教えて下さい。
今日も私は眠る。
気がつくと、また眠る。
そして、夢を見る。
夢の中の私は――正義の味方。何故だかいつも現れる、訳の分からない悪の手先共から皆の夢を護る、正義の味方……って、何じゃそりゃ!
「皆の夢、誰にも邪魔はさせないわ!」
そして私は――今日も、眠るのだ。
*
「いつもいつもジャマしやがって! 今日という今日は始末してヤル!」
「望むところよ!!」
私の前に立ちはだかるのは、もう何度目かも分からないが、すっかりお馴染みとなった悪の手先。自分で名乗っていただけだからハッキリはしないが【ナイトシャドウ】というらしい。
「ふははっ! 何度も同じ手は食らわんゾッ」
シャドウの指先から、最近見慣れてしまった黒い波動が放たれる。コレを食らうと、脱力して動けなくなってしまうのだ。
いつものように、ヒラリと横っ飛びに避けた私だったが――。
「クックックッ! やっと捕まえたゾッ。まさか2人いたとは思わなかったようだナ!」
「うわっ。何、コイツ。卑怯じゃない!?」
気配もなく現れたもう一体のシャドウが、
私を後ろから羽交い締めにしてきた。
単体でしか現れたことのなかった敵が初めて複数になったことで、私はとにかく動揺しまくる。
これは夢なんだから、捕まったところで本当に怪我したり死んだりするハズはないと……抵抗しながら叫んでみれば。
「ここがただの夢世界だとは思わないことだ。我々ナイトシャドウに捕らわれたら、現実の身体にも害が及ぶのを知らぬようだナ?」
「……ハッ? 何よ、それ!」
「我ら組織は、夢世界の支配のみでは終わる気はない。実際に、眠りから覚めなくなる人間が多数出ているはずだ。お前は対抗組織の人間ではないようだナ? そんなことも知らずに、ただ我らに歯向かっていたというのカ?」
ちょっと待って――何なの。ただの夢じゃない、って言うの? 確かに夢を見る度に出てくるコイツらの悪行が目について、黙っていられなくて懲らしめてきたけれど。ただ単に、私が正義の味方ゴッコに内心憧れてただけなのかと思っていた。願望が夢に表れてるだけなんだ、って。
「まあいい。敵対組織でないのなら、なおのこと始末してしまうだけで楽なものだ」
「そうだな、相棒! 今までやられて来た分も倍返ししてやるカ。可愛い面をして、容赦ない暴れっぷりだったからナ」
「そうだナ。何なら、その可愛い顔に傷でもつけてやるカ?」
「なかなかいい身体をしているし、楽しませてもらうのもイイナ!」
もう、言いたい放題だ。手つきまで怪しくなってきた。まさか、夢の中で処女を奪われるだなんて、アリ!? 私、乱暴されたいとか願望なんてないんですけど!!
「はいはーい。そこまでだよ、悪党共。サッサと死ね!」
「「何だと!?」」
パリーン! と何かガラスのようなモノが割れる音と共に、目の前に突如として白衣の男性が現れた。まるで、空間をぶったぎって入り込んできたかのように。
「そ、そのハンマーは!」
「ドリームブレイカー!!」
「ご名答~」
メチャクチャ大きなハンマー(身体の半分はありそうな)を軽々と振り回して、白衣の裾を翻して素早く走り出した男性は――何をどうしたのか分からないままに、私をシャドウから奪って抱き抱えていた。
「えっ? あれ、どうなってんのっ!?」
「「き、貴様ーッ!」」
細身に見えた体躯は、抱えられて気づいたけど、しっかり筋肉がついていてガッシリしている。かなりの長身なのか、肩の上になってしまった私は地面が凄く遠くに感じる。そういえば、展開が早すぎて顔もろくに見えていなかった。まさか知り合いでも無いだろうけど――。
意外と至近距離にあった顔を覗いてみれば、
「うわっ。超イケメン!」
「おや。ストレートな誉め言葉だね、ありがとう」
バッチリ二重の大きめな眼に、スッキリした鼻筋。一つ一つのバーツがとにかく整っていて、色素の薄いサラサラな無造作ヘアがまた似合っている。だって、文句なしのイケメンだ。20代半ば、だろうか。大人の色気もあり、JKの私にはちょっと刺激が強い気がする。
「ゆっくり話したいんだけどね、そんな、暇もない。取り敢えず、コイツら片付けちゃうから」
「クソッ! オレたちではブレイカーには敵わん!」
「おや、自分たちの力量は分かってるんだ? 偉いねー。うん、君たちじゃ俺には手も足も出ないから」
シャドウたちは、慌てたように逃げ出す。多分、それを見逃してやったのだろう……目の前のイケメンは、バイバーイなどと笑顔で手を振った。
「逃がして、いいんですか?」
「うん。今日は特別ね。漸く、お姫様に逢えたから機嫌がいいんだよ、俺」
「お姫様……?」
「そう、君のことだよ。メイちゃん」
「!? 何で私の名前……?」
彼はフフッと微笑むと、私の口唇に長い人差し指で触れた。その触れた部分から熱が上昇して、間近に迫った彼の瞳に惹き付けられていく。
眼が、離せない――。
「君を、捜していたんだ。――やっぱり君だったんだね」
「私のこと、知ってるんですか?」
「うん。意外と、近くにいるよ。今度は現実世界で会おうね」
コツン、と額同士が合わされて、その瞬間に――薔薇の花が、花弁が、何もないところから溢れ出してきた。噎せ返る程の馨りが辺りに広がり、赤やピンクの薔薇に囲まれる。
「凄いね、思った以上の力が漲っていく」
「えっ? な、何なの? これ、私から溢れてるんですか!?」
「そうだよー。これで、完全に覚醒したかな?」
彼は満足そうに微笑んで見せると、訳が分からず戸惑う私を宥めるようにポンポンと肩を叩いた。"大丈夫"――瞳がそう言っている。
「また、すぐに逢えるから、」
「これは、夢じゃないんですか……?」
「そうだね。夢だけど、夢じゃない。でも、確かに現実、なんだ――」
「それって、どういう、意味……!」
目を見開いたまま。突如として重なった熱い口唇を――ただ受け入れてしまった。
キス、されている。何の断りもなく。
端正な顔面が、これ以上ないくらい近くにあって、突き飛ばすこともできなかった。
薔薇の花弁が、風に乗って……舞い上がっていく。チュッ、と、小さくリップ音を立てて。離れていく口唇に、淋しさすら感じる。
「そんな顔しないで。名残惜しくなるから」
「ッ!?」
一際薔薇の馨りが強くなったかと思うと、視界が真っ赤に染まり、何も見えなくなった。
――ああ、夢から、醒めるんだ。そう。これは、夢なのだから。でも、夢ではない、とはどういうことなのだろうか?
* *
「あれ。ここ、何処……?」
夢から、覚めた。ここが、現実で。間違いなく、日常のハズだった。
だけど、私は眠りに落ちる前――何処にいたんだろうか?
白いカーテンが風に揺れていて、窓が開いていることに気づく。今は昼のようだが、カーテンは遮光のようで、少し薄暗い。
ぼんやりする視界が段々ハッキリしてくれると、窓の反対側もカーテンで囲まれていることに、漸く気づいた。
「保健室……?」
今まで、保健室に来たことは指で数えるくらいしかない。しかも、今自分がいるのはカーテンで囲まれたベッドの上。高3になって1ヶ月だが、ベッドのお世話になったことは一度もなかった。
保健室に入った記憶もなければ、そもそも眠る前の状況が思い出せない。――まさか、記憶喪失?
確かに、この4月以降、やたらと眠くなることが増えたと思う。眠気で意識が曖昧になってしまったのだろうか。いや、それでは夢遊病ではないか。
――そういえば、一連のシャドウ退治の夢を見るようになったのも。この眠気に襲われるようになってからだ。これは、無関係ではない気がする。
教室で、屋上で、中庭で。ちょっとした時間でも眠るようになってしまった私に。何故かついてしまった渾名が【眠り姫】だった。友人にそれを聴いた時、思わず目が点になってしまったことを思い出す。
「姫、ってそんなガラじゃないわよ……」
一瞬にして【お姫様】と呼んだ、さっきの夢のイケメンのことまで思い出し、キスされたことまで脳内再生されてしまった。
漸く逢えた、って言っていた。私の名前も知っていた。――あんなカッコいい男性、私は知らない。逢ったことがあれば、忘れるハズもない。
だって、好みドストレートだったんだから!
「ホントに、また逢えるのかな……」
勝手に人の口唇(しかも、ファーストキス)を奪った相手なのに。嫌悪感一つ残らないなんて、私ってば、どんだけチョロいんだろう。――まあ、もしかしたら何らかの意味のあるキスだったのかもしれないと、今なら思うけど。
彼と額を合わせた時、指で口唇に触れられた時。そして、キスされた瞬間。夢の中のはずなのに、自分の身体から何か得体の知れないパワーが溢れ出してくるのを感じた。そして、彼は"完全に覚醒した"と言ったのだ。
あの時感じた力は、明らかに彼に触れられたことで発現したと思う。薔薇の花弁が舞い上がって、噎せ返る程の馨りに包まれて――現実感がまるでないから、やっぱり夢なんだと感じた。
彼は、また逢える、って言っていた。それって、夢の中なんだろうか。彼が私の夢が作り出した架空の人物で、シャドウたちの件も妄想の産物であるなら、私がただの中二病だという話で終わるんだけど。
また夢を見れば分かるかな……いやいや、さすがに今は眠気も全くない。むしろ、いつもよりスッキリした目覚めだ。どんな経緯で自分が保健室のベッドに辿り着いたかは不明だが、眠気もなくなった今、ここからは出た方がいいだろう。
改めて、周囲を確認する。保健室内に、人の気配は感じない。多分、放課後なんだとは思うが、授業を全部受けたという記憶はボンヤリだが甦った。
この学園は私立の結構大きい学校で、保健室はかなり大きめだったと記憶している。昨年度までは、高齢のお婆ちゃん医師が校医として常勤していたが。この4月からは、新任の若い男性医師になったようだ。私は保健室の世話になることもなかったし、始業式での紹介時は半分夢の世界に入り込んでいたせいで、顔を見た記憶もない。
勝手に、ベッドを使っていたんだとしたら、その校医にも挨拶しなければならないだろう。不審に思われるかもしれないが。
「あれ? もしかして、目が覚めたかな?」
「は、はいッ!」
いつの間にか戻っていたのだろうか。急に声を掛けられ、飛び上がるくらい驚いてしまった。突然だったから、だけではない。その驚きは――聞き覚えのある、少し低めのその声のせいで。
カーテンを開いて現れた、その男性は――――。
「やあ。また、逢えたね。メイちゃん?」
読んで下さってありがとうございました!
不定期投稿で、ちまちまやっていきまーす。