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落武者Jリーガーの異世界遠征記  作者: 春の譜
第X章 俺のブルースに足りなかったもの
3/55

0030 驚き桃の木ヒミツ兵器

 「だがその特徴は全部、嫁にする女としては悪条件だぞ」


 は?

 俺の理想の嫁を具現化したようなウルシュラの魅力が全て悪条件・・・だとぅ?

 そいつは聞き捨てならねえ。たとえ隊長さんの言うことでもな!

 「お言葉ですが、俺の嫁の何が悪いって言うんですか」

 「普通、嫁にしたい女ってのは程よい背丈で小胸小尻なスラッとした細身の色白美人だな」

 「な、巨乳は、巨乳はダメなんですか!?」

 「ダメというか、女性美の基準から完全に外れてるのは確かだ」

 「その女性美の基準ってのが俺には分かりません」

 「何を言ってるんだお前は? 女性美の基準って言ったらアレに決まってるだろ」

 「そのアレってのは何ですか?」

 ロランは今度こそ呆れ果てたという顔をしている。

 俺は冗談じゃなくて本気で知りたいんだという顔をしてロランの答えを待っていたが、予想外の方向から横槍が入ってきた。


 「ロラン先輩!」

 いきなり真横から名前を呼ばれた隊長は素でビックリした表情を見せて横を向く。

 その視線の先には、馬をひいて歩いてくる男の姿がほんの数メートルの距離にあった。

 「ロ・・・いや、将軍、そろそろ出番ですか?」

 この人が将軍なのか。若い、恐らく20代後半ぐらいだ。

 肉付きが良く締まった体をしているが身長は170を少し超えるぐらいか。

 それに何より、ロランのような威圧感が全く無い。これで本当に将軍が務まるのかね。

 「将軍は勘弁して下さいよ。昔のままロビンと呼んで欲しいって言ったじゃないですか」

 「ば、その名前を出すな。戦闘中だぞ」

 「大丈夫ですよ。ここの新兵の中にはスパイなんていませんから」

 「どうしてそんなことが分かるんだ?」

 「だって先輩から警戒信号が出てませんからね。その人のことも白だと確信してるでしょ」

 え、俺のこと?


 てことは、俺はスパイだと疑われてたの?


 あ、だから隊長が自ら俺みたいなぺーぺーの身の上話を熱心に聞いてたのか!

 そういえば、身代わり兵の話をしてた時に他の可能性があるとか言ってたが、スパイが身代わりとして潜り込むことがあるってことだったんだろうな。

 ちぇ、良い奴だと感心してたのに損したわ。得意げに嫁自慢した俺恥ずかし過ぎるわ。

 そんな俺の後悔ムードなんてどこ吹く風でロランと将軍の話は続いてた。

 「フン、こいつは確かに白だ。スパイにしては言動が怪し過ぎる。こんな自分から疑って下さいと言ってるようなスパイはいやしない。ただ、別の意味で只者じゃないけどな」

 そう言って物騒な顔を俺に見せるロラン。

 おいおいおい、俺のことはもういいだろ。

 俺はアッサリ騙されて身代わり兵士にされたただの間抜けだ。只者じゃなくても馬鹿者だ。やたらと人を疑うのは止めてくれ。もし拷問でもされたら二秒でゲロッパする自信あるんだから・・・

 しかし、有難いことにロランの関心は将軍と戦場に移ったようだった。

 「それで最初に訊いたことだが、ぼちぼち出番か?」


 「はい。先程知らせが届きました。あと1時間もすれば秘密兵器が到着します」


 「秘密兵器ね・・・名前通りどんなもんか全く知らんのだが本当に役に立つのか?」

 「ハハハ、手厳しいなぁ先輩は。でも安心して下さい。役に立つどころじゃないですから。恐らくこれで内戦が終わります」

 マジで!?

 それが本当なら死なずに済むし無傷で帰れるかもしれない。

 こりゃあ思ってたよりずっと早くウルシュラに会えるかも!

 ロビンといったっけ、あんた最高の将軍だよ。さっきは心の中でディスって正直すまんかった。

 「ハッ、大した自信だな。噂では大勢の風術士を集めてたそうだがそれは関係あるのか?」

 「秘密兵器ですからね。それは見てからのお楽しみです」

 「なあ、頼むからせめて名前ぐらい教えてくれよぉ」

 焦らされたロランは降参だとばかりに猫なで声を出した。だが可愛くない。むしろ不気味だ。正直聞きたくなかった。

 「恩人の先輩にそこまで言われたら仕方ないですね・・・」

 お、内戦に終止符を打つ秘密兵器の名前を教えてくれるのか。

 バレない様にさりげなく耳をダンボにしておこう。


 「秘密兵器の名前はランドクルーザー。略してランクルです」


 ブッーーーー!!

 そう松田優作ばりに噴きそうになったが寸前で何とかこらえた。

 しかし、この将軍、ランドクルーザーって言ったよ。略してランクルとも言ったよ。

 まさかこの世界にトヨタご自慢のSUVが登場するってのか?

 いやありえんだろ。本当に出てきたらチートにも程があるわ。

 そもそも戦車ならまだしもランクルが最終兵器になるのかよ。

 もしかしたら、この世界にはもともと俺の知らないランクルが存在する・・・とか?

 「ランドクルーザー・・・ランクル・・・意味不明だな」

 ところがロランは渋い顔でそう呟いていた。

 あらら、少なくともロランには通じない言葉だってことか。

 「意味不明で良いんですよ。名前でバレてしまったら秘密になりませんからね」

 「だが、お前にとっては意味のある名前なんだろ?」

 「さすが鋭いですね。後で説明しますよ」

 これで、将軍の方は疑惑がますます強くなったわ。

 俺と同じ存在だと考えてまず間違いないだろう。

 しかも、あの若さで将軍になるほどの上級スキル持ちときた。危険極まりない。

 同じ存在でも仲間とは限らないからな。

 しばらく様子見するのが無難だろう。


 「では、僕はそろそろ出張ります。ランクルの為に露払いをしておきたいので」

 この将軍、これから戦場最前線へ向かうというのに買い物にでも行くような口調で言ったよ。

 「そうか。俺の部隊はどう動けばいい?」

 逆にロランの方は緊張感のある声で戦術を訊いた。

 「ランクルが短時間で僭王軍を壊滅します。敵兵は四方八方に逃げ散るでしょうから、こちら側に来た敗走兵を捕らえるか討ち倒して下さい。この後ろの森に逃げ込まれたら面倒ですからね」

 「了解した。お前も油断するなよ。ま、言うだけ無駄だろうがな」

 「いえいえ。その言葉が聞きたかったんです。僕に忠告してくれる人はめっきりいなくなってしまったので」

 将軍は一瞬寂しそうな表情を見せてから馬に飛び乗る。

 「では先輩、後で秘密兵器の感想を聞かせて下さいね」

 「ああ、また後でな」

 馬を進ませた将軍は正面の戦場ではなく土塁の後方へ向かった。

 「あれ、将軍はどこへ行くんですか?」

 「・・・まぁお前が気付かなくても無理はないか」

 また呆れられた。一体これで何度目だったかな。

 「隊列の隙間から後ろを見てみろ」

 言われた通り後方に目を凝らすと、あれは馬か・・・もしかして騎馬隊?

 いつの間にこの土塁へ上がってきたんだよ。全く気付かんかったわ。

 新兵の俺らみんなが槍を持ってるから後ろは良く見えないもんなぁ。

 「あ、もしかして槍を立ててたのは騎馬隊を隠すためか・・・」

 気づいたら思考が口からこぼれてしまっていた。

 「そういうことだ。今日のお前らの任務の半分がそれだよ。楽なもんだろ」

 「そ、そうですね」

 「それすらもまともに出来てない奴がいたけどな」

 はい、俺のことですね。あぁやっぱり突っ込まれた。藪蛇よな。

 ロランの冷たい視線にじっと耐えていると後方が騒がしくなった。

 どうやら将軍の率いる騎馬隊が動いたようだ。

 土塁後方の斜面を下り土煙を上げながら出撃していく。

 

 「お前らよく見ておけよ! モア将軍の鮮やかな戦いぶりが見られるのはこれが最後らしいからな!」

 ロランは土塁に残された新兵たちを引き締めるように叫んだ。

 後方の騎馬隊を興味深そうに見ていた俺たち新兵は我に返って前方のロランに注目する。

 「将軍の攻撃の後に別動隊が敵を殲滅する! 俺たちの任務は敗走してくる敵を迎え撃つだけだ!」

 おおぅと新兵たちから安堵と興奮の呻きが起こった。

 「殺す必要はない! 足を狙え! 後方の森に逃がさないようにだけ注意しろ!」

 今度は、良かった、殺さなくていいんだ、ありがてぇ、そんな声が新兵から聞こえてくる。

 「では号令あるまで待機だ!」

 よし、さっそく将軍の活躍を見させてもらうとするか。

 で、今どこにいるんだ?

 周りを見回すと、土塁の隣にメチャクチャ目立つ真っ赤な騎馬集団がまだいるじゃないですか。

 およそ200ぐらいの騎馬隊が将軍を先頭に佇んでおられる。どういうこと?

 好奇心に負けた俺は、戦場を注視していたロランに申し訳なさそうに訊いてみる。

 「あのぅ、将軍はあそこで何をしてるんでしょうか?」

 「見てるんだよ」

 ロランはこっちを向きもせずぶっきらぼうに答えた。

 我が隊も戦闘が近いとなって荒ぶっておられる。

 だが、可能な限り将軍の情報が欲しい。後々のために。

 ここは引いちゃいけない場面だと判断し恐る恐る重ねて訊いてみる。

 「何を見てるんでしょうか?」

 「戦況全体に決まってるだろ」

 うーん、戦場の端っこにあるこの土塁の隣から戦況全体は見えないよね。

 「あそこから戦場の全てを把握するのは難しいと思いますけど・・・」

 「フ、それがアイツには見えるんだよ」

 ちょっと何を言ってるか分からないが、ドッと冷や汗が流れはじめる。

 「どういうことでしょう?」

 嫌な予感がビンビンする。これはきっと当たるわ。

 そう覚悟していたら、やっぱりな答えがロランから返ってきた。


 「アイツは、もう一つ別の目を持ってるのさ。それも上空にな」

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