第五話 炎の跡へ2
「ティアナ…!その胸の光はなんだ?この声は?」
「…めんなさい、ごめんなさいごめんなさい!」
彼女の唇から、涙と同じようにごめんなさいがいくつもこぼれ落ちてゆく。ジークはとっさに彼女の手を取った。震えて、子供のようしゃくり上げている。涙を溢れさせる瞳には、ジークは映っていない。肌が透きとおるように冷たい。
「大丈夫、だいじょうぶだ。なにも謝らなくていい」
思わずちいさな肩をぎゅっと抱き寄せる。なぜ、そんなことをしたのかはわからない。この、一見純朴で、怯えきった田舎娘は火事を起こし、父を事故に巻き込んだ張本人かもしれないのに。けれども、突き動かされるようにジークは、大丈夫だからとティアナを抱きしめ声をかけ続けた。
やがて、強い光がだんだんと引いてゆく。ティアナのぼんやりした視界は、徐々に明るくなっていった。なぜか自分が泣いていること、それもかなりひどい泣き方をしていることと、そして、ジークの大きな腕のなかに収まっていることに気づいたティアナ。彼女は思わず彼を見上げた。
ジークは少しぎこちない動きでぽんぽんと彼女の背中を撫でながら、だいじょうぶ、と低い声で囁いていた。俯いた黒い髪が頬にかかって、表情はよく見えない。
「あ、あの…?ジークさま?」
しゃくり上げた末の鼻声にティアナは恐ろしく恥ずかしさを覚えた。
「……やっと泣き止んだか」
彼はティアナの赤く充血した瞳を覗き込む。その口元がふっとゆるんだように見えたが、彼女の見間違いかもしれなかった。その証拠にジークはそっけない仕草でティアナをがばりと離すと、
「さっきの老人はいったいなんだ?」
同じくぶっきらぼうな口調で尋ねてきた。
「は、い?老人?」
「お前の周りで、老いぼれ爺のような声が聞こえてきた。ぼけっと突っ立っていたかと思ったらやたらと光りだし、その上ぎゃあぎゃあ泣き出して、そのあとに」
「……」
妙に早口で言ってから、また、覚えていない、というやつだな?と呆れたように低い声で呟かれてティアナは項垂れるしかできない。「役立たず」という単語がお互いの真ん中にぶら下がっている気がする。
「す、すみません…!もう少し待ってください。すぐに、すぐに思い出します!」
「どうだかな、あやしいものだ」
ティアナは内心の恥ずかしさを隠すために一度深呼吸することにした。気持ちを切り替えようとあたりを見回す。焦げついた真っ黒な世界。
なんで泣いてたんだろう。ごめんなさいって言ってた気がする。きっと、謝るようなことをしちゃったんだ。
失意の彼女に呼応するように、不意にざわざわと風が鳴り出す。不思議なことに黒い炎は屋敷のみを包み、周りの木々には及ばなかったのだ。重たい灰色の空で葉をつけていない裸の枝たちが大きく揺れはじめた。ジークはそこに、馴染み深い空気を感じ取った。
「くるぞ」
「え?」
「下がれ!魔獣が来る!」




