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第八話 クラウゼント家にて2


 ベッドの中で、ティアナはもう一度寝返りを打った。ふわふわの布団はそれでも彼女の体にぴったりと寄り添ってくる。おぼろげながら感じる、かつての自分の暮らしとの違いにまた、ため息をついた。


わたしはどうすればいいのだろう。


事故のことを知りたい、息子としてお父様になにがあったか知りたい。だからジーク様はわたしをお屋敷に連れてきて介抱してくれたんだよね?結局うまくできなかったけど…。


だけど、別の手段を使うなら、わたしはもういらないのでは?なのになぜ、好きなだけここに住めなんて。

優しさから、わたしのこれからを気遣ってくれたのだろうか。そうだとしたら、感謝と申し訳なさでどうしていいかわからなくなる。


再び寝返りを打つ。窓の隙間から月明かりが漏れ、部屋を青白く照らした。ティアナはじっと、その白い光を見つめる。


自分が何者か思い出せないまま過ごすのは、とても怖い。


もう少しで届きそうな気がするのに、なにかに邪魔されている。


「思い出せないのはきっとなにか理由があるからだ」もっともっと怒って、落胆してもおかしくないのにそんなふうに言って優しく髪をすいてくれた彼の声が蘇る。胸があたたかくなり、自然と耳が熱くなるのがわかった。けれども不安と焦りは胸の底に燻り続けている。黒曜石はしょっちゅう熱くなるくせに、こんな時にはなにも反応してくれない。冷たく押し黙ったまま、無視を決め込んでいる。


もう。


口をへの字にして彼女は数度目の寝返りを打つ。当初、ティアナは記憶が戻ると信じてこの町で働こうと考えはじめていた。大きな港町だというし、いくらでも働き口はあるだろう。そう思ってアレンにも尋ねたのだが、こんなことになってしまった。


けれど。彼女は思い直す。


ジーク様の言ってくださった通り、このお屋敷で働くのが一番いいのかもしれない。思い出せれば、断片的なものでもすぐに伝えられる。二人への恩返しというにはほど遠いけれど、直接お手伝いできるんだし。とにかく何かお返しをしなきゃ、なにか。わたしにできること。


でもこのお屋敷、処分してしまうなんて。思い入れがないなんて、ご自分の生まれたお家なのにそんなことあるのだろうか。


ジークの素っ気ない言い方を思い出して彼女は首を傾げた。



ティアナに対しても、今朝までは総じて不機嫌だった彼が魔獣と遭遇してからは気遣いあふれるやさしい態度だったり、やっぱり無愛想だったり、さっきみたいに強引だったり。ティアナはそれにいちいち驚いたりどぎまぎしたりしてしまう。

彼に会ってからずっと、気持ちが忙しい。


でも、明日からもジーク様の近くにいられるんだ…。


心のなかで、思いもよらぬ言葉が躍り出て慌てて打ち消した。そんなことじゃないの、そうじゃないの。ジーク様はあくまで取引として言ってくださったのだから。きっと、思い出したら儲けもの、保険みたいなものなんだ。


ぽっと熱を持ちはじめた耳に戸惑うように彼女はぎゅっと目を閉じ布団の中にさらに潜りこむ。無理やり眠りの中へ飛び込んだ。


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