第二話 幼馴染み1
御者について馬車に乗り込んだユリウスは座席へ深く背を預けた。がたんと揺れてからゆっくりと石畳を滑り出す。活気あるこの街がジークの故郷であることがなんとなく面映く感じる。彼はこの街のように表情豊かな人物ではなかったからだ。
騎士団の入団試験を最年少で突破したひとつ下、十五歳のジーク少年は滅多に笑わず、気難しい顔ばかりしていた。黒髪に黒のチュニック。寮でも年中喪に服しているかのように黒を纏い、常に剣を携えていた。周囲にまるで無関心で、自分の殻に閉じこもり鍛錬ばかりしている彼が、唯一生き生きとするのが実戦練習の時だった。
上級生だろうが教官だろうが怯むことなく向かっていく。圧倒的な強さを見せながらそれでも訓練後、彼はどこか物足りない顔で汗を拭っていた。
ユリウスは彼に勝てたことがない。いつからか悔しいを通り越して、だんだんとその不機嫌の塊のような少年に興味を持ち始めた。同じ歳のカイリを誘って、何度となく彼に話しかけたりしたものだ。
ジークは終始迷惑そうだったが、彼のずば抜けた剣技の相手になるのがユリウスとカイリくらいしかいなかった為、次第に彼も心を許しはじめた。ユリウスの溌剌とした雰囲気と、カイリの穏やかな態度のせいもあったかもしれない。そして、気づけば三人は王国一の魔獣討伐専門と謳われる組織、第五騎士団の長と副官として互いに命を預け合う仲になっていた。
スールの街を駆け抜ける馬車。午後も遅い時間のためどこもかしこも夕餉の支度や商店の最後の売り上げに精を出している。夜になるとまた違った華やいだ雰囲気を見せる街を眺めユリウスはひとり、笑みを深めた。賑やかな街は大好きなんだけどね。
可愛い女の子たちや音楽に囲まれてお気楽に過ごすはずだったユリウス・フォーンハイトの人生計画は大いに狂ってしまったわけだが、血生臭くて男くさくて、色気の微塵もないこの生活を彼はそう悪くない、と思っていた。
信頼している幼なじみたちとこうして平和を守れるなんて、なんだか熱くていいじゃないか。それに、誰かがジークの暴走を止める防御装置にならなくちゃ。
心のなかで呟く。いつか、ジークも穏やかな未来を望む時が来るといいんだけれど。
「到着しました。こちらがジーク様のお屋敷です」
ひと揺れして馬が止まった。御者の声が聞こえる。
「ん、ありがとう。わぁ。立派なところだね。ここで坊ちゃんは生まれたんだねえ」
建物を見上げ感心した声を出す。貴族のユリウスから見ても隅々まで凝った造りの立派な屋敷に見えた。亡き当主は相当な事業家だったことが窺える。
「坊ちゃんと言うと、叱られてしまって…」
「ふふ。だろうね。僕だってちいちゃなころは天使みたいだったとか言われるとどう返していいかわからないもの」
それでもジーク坊ちゃん、はいいなぁ、揶揄いがいがあると悪戯っぽく笑いながらユリウスは中へと向かった。