第九話 魔法の種類
俺とヤヨイは構内にある広場へと向かう。そこでシャーリアが待っているようであった。
広場にある椅子でシャーリアが退屈そうに座っているのが見えた。
「あ……おーい、二人とも」
俺達に気がついたシャーリアが手を振る。
「待たせて申し訳ない。シャーリア殿」
「もう! 遅いよ二人とも」
「悪い。俺のせいなんだ。ウィルから譲ってもらった魔道具開発室につい夢中になってしまってな」
「ふふ、嘘だよ。そんなに怒ってないから。それじゃ始めようか」
早速、三人で修行を開始することにした。まずはヤヨイに水魔法について教える。
「水魔法を使うときは頭の中に水を思い浮かべるんだ。そして、呪文を唱えれば発動する。こんな風にな。ウォーターボール」
手本を見せるべく俺はウォーターボールを放った。
水の塊はコンクリートの壁にぶつかり、『バシャン』と音を立てて弾ける。
「なるほど……では、小生も。ウォーターボール!」
ヤヨイは呪文を唱えたが、魔法は発動しなかった。
「何も起こらないであるな……」
「最初からそう簡単に上手くいったりしないよ。それに最初は杖を使ってやってみた方がいいよ。はいこれ。貸してあげる」
「うむ。ではありがたく使わせていただくぞ」
ヤヨイは杖を受け取り、構えた。体内のアギを魔法へと変化させようとするのが伝わる。
「ではゆくぞ……ウォーターボール!」
しかし、何も起こらない。
「くっ……上手くいかんな」
「何度も繰り返していけばきっと成功するよ!」
「そうであるな。よし! 鍛錬に励むであるぞ!」
しばらくの間、ヤヨイはウォーターボールの発動を試みた。俺やシャーリアは見本として何度かウォーターボールを放った。
すると、何十回かの試みにて、杖の先に小さな水の玉が出来上がっているのが分かった。
「おお!」
しかし、玉の形に形成されると消えた。
「むぅ……また失敗してしまった」
「いや、かなりの上達ペースだと思う。俺なんか使える水を具現化させるまでに一ヶ月くらい時間が掛かったからな」
「ムゲン殿でもそれくらい掛かるものであるか。魔法というのは実に奥が深いな」
「けど、ヤヨイは魔法剣術を使えるじゃない。なんとなくだけど、そっちの方が難しいんじゃない」
シャーリアの言うことはもっともだ。ヤヨイが使う魔法剣術の方が間違いなく難しいだろう。
「確かに魔法剣術を身につけるのは大変であったぞ。しかし、この基本魔法も中々に難しい」
「そうか。どの魔法も一朝一夕で身に付けることができるものじゃないからな」
俺が最初に身につけたのはファイアボールであったがそれが覚えられたからといって、すぐにウォーターボールを使えたわけではなかった。
「そうであるな。よし! もう少し鍛錬を続けるであるぞ」
その後もヤヨイはウォーターボールの発動を試みたが、成功させることはできず、気づけば日が暮れていた。
「むぅ……もう日が暮れてしまった。二人に剣術を教えようと思っていたがつい夢中になってしまったである。すまない」
「気にするな。それに、よく考えたら俺は刀を持っていないからな。シャーリアは?」
「私も持ってないや」
「ふむ、確かにそうであるな」
刀は魔道具ではなく、(一部例外もあるが)購入するという選択肢しかない。
「それじゃ休日にみんなで刀を買い物に行きましょう!」
「買い物であるか。それは良い提案であるな」
「ムゲンくんはどう?」
「ああ。俺はどっちみち買いに行く予定だったからな」
久々に街に繰り出すのも悪くない。魔道具開発のために買っておきたいものが色々とあった。
「夕食の時、ウィルくんにも声を掛けてみるね」
バキア魔法学校――ここでの学校生活は中々に面白く刺激的であった。
オリモカ先生との鬼ごっこは毎日実施された。
入学してから五日目の実技の授業の日。今日も鬼ごっこが行われている。
「せぃあ!」
ヤヨイは刀を振り回すが、相変わらず刀は空を切る。
「エレキボール!」「ファイアボール!」
俺とシャーリアが放った魔法をオリモカ先生は楽々と避ける。
「やはり当たらないか……」
俺は再びエレキボールを放った。照準をオリモカ先生に合わせ、飛ばしていく。
「何度やっても同じだ」
エレキボールの軌道を下に変える。やがて、地面にぶつかり、砂埃が巻き起こる。
「隙ありです。先生」
ウィルがオリモカ先生をタッチしに行った。
「ふー、ちょっとヒヤッとしたなぁ……」
オリモカ先生はウィルから離れた場所にいた。
「これでもダメか……」
昨日の夕食の時、打ち合わせした通りに作戦を実行してみたが失敗に終わった。
「うおおおお! ウォーターボール!」
ヤヨイがオリモカ先生に向かって走りながら魔法を放つ。しかし、魔法によって作り出された水の玉は照準が大きく逸れてオリモカ先生の遥か横を通り過ぎていった。
「ヤヨイのやつ。できたのか……」
修行の時は一度も成功しなかった。だが、外れたとはいえ実戦で魔法を発動させることができた。
なんという勝負強さだろうか。
「ウォーターボール!」
今度はオリモカ先生の顔に向かって飛んでいった。オリモカ先生は顔を動かし、避ける。
「ふん!」
ヤヨイが剣を振り抜く。
「ほう。多少、付いていけるようになったな」
「ふむ。やはり掠りもせぬか」
ヤヨイのやつ、少しづづオリモカ先生の動きが見えてきているのだろうか。俺には未だに捉えそうにない。
「……時間切れだな。罰ゲームだ。グラウンド二十周走ってこい」
今日も鬼ごっこに破れた俺達は今日も罰ゲームとしてグラウンドを走る。
そして、昼食後にはガルド先生との体術の授業が実施された。ちなみに昨日は剣道を使った授業であり、スパルタと言って差し支えない内容であった。
今日はウィルとともにガルド先生と組手を行う。
「そりゃ!」
飛び上がり、蹴りをしようとしたがあっさりと足首を掴まれる。
「安易に飛び上がるでない! この愚か者め」
「よっと……大丈夫かい?」
「う、ウィル……ありがとう。大丈夫だ」
投げ飛ばされた俺の身体をウィルが抱きかかえてくれた。俺が女性なら思わず惚れてしまいそうなシチュエーションである。
「一人じゃとても敵わない。連携して崩していこう」
「だな!」
しかし、この日も大した授業を上げることができなかった。ガルド先生との授業の後は魔法学の授業である。
俺の好きな授業の一つであるが、実技後はヘトヘトになるため、黙って聞いているのはなかなか辛いものがあった。
「魔法には習得難易度によってランク分けされる。特別な才能が無くても習得可能な基本魔法だ。該当するのがウォーターボールやファイアボールとかだな。一般的な冒険者はほぼ全ての基本魔法を使える。消費アギは大体二百前後ってとこだな」
基本魔法については祖父から教わっていた。習得するのに結構時間が掛かったものである。
「基本魔法の一つ上のランクが中位魔法。基本的にクエストやダンジョンではこれらが主に使われる。フレイムランスとかアクセルとかがこれに該当する。これも努力しだいで属性に適正が無くても身につけることができる。消費アギは四百から五百ってとこだな」
俺も中位魔法までなら大体は使うことができる。しかし、『その先』がどうしても難しかった。
「中位魔法の一つ上が上位魔法。ここから使い手が限られてくる。上位魔法を一つも使えない冒険者も普通にいる。自分の適性の属性以外の上位魔法は身につけることは難しいとされている……だが、S級冒険者やベテランの冒険者の中には適正の無い上位魔法も使えるものもいる。私もその一人だ。消費アギは千から二千アギってとこだな」
上位魔法はいくら努力しても身につけることが出来なかった。先生が言った通り、冒険者の中で上位魔法を使えないものもいるが、俺がもし仮に冒険者になってもいずれ限界を悟る時が来るだろう。
「オリモカ先生。二つ以上の属性の最高位魔法を扱うことは不可能であるということか?」
「その通りだヤヨイ……と言いたいところだが、バキアにおいて一人だけ二つ以上の属性の最高位魔法を使える者を知っている」
「一体それは……誰であるか?」
「ナハラ=アベイルという伝説の冒険者と呼ばれた人物だ。誰かは知ってるな?」
「なるほど、ムゲン殿の祖父であるか」
そう。祖父は全ての属性の最高位魔法を使えると言われている。魔法への圧倒的な才能を持つ祖父は今でも王国軍への勧誘が来ているが、断っている状態である。
「その通りだ。まぁ、最高位魔法なんてお前達にはまだ早い。まずは基本魔法をしっかりと身に付けることだ。お前達ならすぐにできるだろう。卒業前には上位魔法を一つ身につけてほしいと思っている」
俺はともかく、他の三人ならできるだろう。ウィルに関してはすでに使えるのではないかと勘繰っている。