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第八話 魔道具開発室

「次、ヤヨイ=テンマ。ムゲン=アベイル。準備しろ」

 俺とヤヨイはガルド先生と向き合った。こうして対峙していると、隙が全くないのが分かる。

「ふむ……隙があらんな」

「……だな」

「一人なら攻略は不可能。だが、小生とムゲン殿の二人なら攻略は可能。そうは思わぬか?」

「そうかもしれんな」

 俺たちが小声でやり取りをしているとガルド先生が首を回す。

「おい、来ないのか? 来ないなら……」

「――ッ!」

 ここで初めてガルド先生の表情が強張る。さっきの実技でも感じたが、ヤヨイの瞬発力は俺達の中でもズバ抜けて高い。魔法無しの状態であれば、ウィルよりも能力は高いだろう。

「せぃあ!」

 ヤヨイが叫び気合を入れて連続してパンチを繰り出す。

 いける――俺は後手に回っているガルド先生の背後に回り込んだ。

「おら!」「せいあ!」

 挟み撃ちになるような形で俺とヤヨイが同時に蹴りを繰り出す。

 だが、自分の足に伝わる衝撃はヤヨイの蹴りであたった。

 ガルド先生は上空で二、三回バク転し華麗に着地した。

「お前ら……中々、見所があるな」

 くそ、避けられたか……だが、必ず一撃を入れてやる。俺が行動しようとする前に、ヤヨイが突然体勢を低くした。

「とりゃ!」

 ヤヨイがそのままガルド先生にローキックする。

「……っく!」

 しかし、攻撃をしたヤヨイの方が痛そうに顔をしかめる。いかん、俺も攻めねば。

 真正面からガルド先生に向かっていく。どの攻撃を仕掛けてもカウンターを喰らうことは明白だ。なら――

 ガルド先生の顔の前で『パン』と大きく手を叩く。ガルド先生が目を丸くする。

「隙あり!」

 ヤヨイの渾身の飛び膝蹴りが見事に決まり、ガルド先生は尻餅を着く。

「てて……まさか猫騙しを使うとはな。つい驚いてしまった」

 これは祖父と体術の訓練の時によく使っていた手だ。使う方によっては相手に隙を生み出すことができる。

 しかし、なんとか一撃を入れることには成功したが、大して効いていないようだ。

「ムゲン殿、咄嗟の機転、誠に感謝致す」

「気にするな。もう一度、二人掛かりで攻めるぞ!」

 同時にガルド先生の懐に入り込む。しかし、一瞬にしてガルド先生は姿を消す。

「まだ遅いな」

 背中に痛みが走ると、吹っ飛ばされた。くそ……オカモリ先生といい、この人といい、魔法を使っていないのにどうしてこんなに速く動けるんだ。

「いてて……今のは中々強烈な一撃であった」

 ヤヨイも床に倒れこんでいる。立ち上がり、どう攻撃すべきかと模索した。

「せぃあ!」

 俺が動き出す前にヤヨイが動いた。

 あいつ、闇雲に……ヤヨイの放った右手のパンチと左足のキックを防せがれ、まもや投げ飛ばされてしまった。

 俺は落下地点へと向かい、飛ばれたヤヨイを受け止めた。

「助かった。ムゲン殿、感謝致す」

「ヤヨイ=テンマ。思い切りが良いのは評価するがもう少し考えて行動すべきだな」

「ご指導誠に感謝致す。ガルド先生。しかしながら小生、じっと考えるのは苦手ぞ。動いておらぬと落ち着かぬのだ」

「そんなんじゃいつか早死にするぞ」

「では、ムゲン殿。そうならぬよう協力して戦おうぞ」




「いやー、ガルド先生とても手強かったであるな。ムゲン殿!」

「そうだな」

 結局、あの後ほとんど何もできなかった。

 実技の授業が終わり、教室に戻ってきた俺は魔法工学の授業で作成したポーションを飲んだ。

 爽やかな飲みご心地で我ながら美味しい……が、特段魔力が回復した様子はない。

 そもそもさっきの授業で一度も魔法を使ってないから当然か。

「よーし、お前らー。ホームルームを始めるぞー。ポーションはもう飲んだか?」

 オカモリ先生が勢いよく扉を開け、教室に入ってきた。

「一応飲みましたけど……さっきの授業じゃ全然魔法を使わなかったです」

 ウィルの言葉を聞き、オカモリ先生は頭に手をあて、「あー」と呟く。

「そういえばガルド先生の授業だったか……すっかり忘れてた。まぁいい。とりあえず、今日一日授業を受けてみてどうだった?」

「オカモリ先生もガルド先生もとても強い。小生達も卒業までに先生達みたく強くなれるだろうか?」

「いや、無理だろうな」

 オカモリ先生はあっさりと言った。

「私だってかなり長い時間を掛けて今の力を身につけたんだ……って言っても全盛期は過ぎてるがな。私みたいに慣れるのは実際に冒険者になってしばらく経ってからだろう」

「そうか……それはとても残念である」

「ヤヨイ。お前はななんでそこまで強くなりたいのかは分からないが、あんまり慌てるな。まだ若いんだし、じっくりと力を身に付けるつもりでいけ」

「……承知した」

 確かにヤヨイの強さへの渇望は異常だと言っていいかもしれない。

 何かあるのだろうか――例えば復讐とか

「あと、お前は魔法工学の補修があるから残るようにな」

「あ……そ、そうであった!」

 ホームルームが終わると、一度寮に戻ることにした。

 ヤヨイの補修が終わり次第、シャーリアと共にヤヨイに基本魔法について教える予定である。

 補修は一時間ほどで補修が終わることだろう。

 その間、俺は部屋で本を読んで過ごすことにした。魔道具についての作り方に関する本を開く。

 その本には作成に長い時間が掛かるものや簡単に作れるものなど、幅広く書かれていた。

「魔弾銃か」

 読んでいる中で面白そうな魔道具の作り方を見つけた。自身の魔力を媒体とし、魔力を銃弾のように変化させることのできる銃。

 作るために必要な材料は安価で購入できるものばかりだ。

 学校の休みにでも、材料を買いに行ってみるか。

 夢中になって本を読んでいると、扉の方からノック音が聞こえてきた。

「はーい」

 玄関へと向かい、扉を開けるとウィルが立っていた。

「やぁ、ムゲンくん」

「ウィルか。一体、どうしたんだ?」

「ムゲン君に案内しておきたい場所があってね。ちょっと時間いいかな?」

「ああ」

 ウィルに案内されたのは寮の外にある木造建ての小屋。その中に入ると薬品の独特な香りが鼻腔を突いてきた。

「これは……」

 中には大きなテーブルと棚があり、たくさんの魔道具作りの為の素材や薬品の入ったフラスコが置かれている。

「驚いたかい? ここは僕が使っていた魔道具の開発室なんだ」

「す、すごいな……」

 見た感じ、ウィルはここでたくさん魔道具を作ってきたのだと思われる。

「さっきの魔法工学の授業の様子を見て、ムゲン君が魔道具開発に興味があるんじゃないかと思ってね。良かったら使ってよ」

 おお……ここなら存分に魔道具開発にのめり込むことができるな。

「けど、いいのか? ウィルが使ってたんだろ?」

「僕はもう使わないかな。自分で作るより買ったほうが効率的だって思ったからね」

「そうか。なら、ありがたく使わせてもらうよ」

「うん。そういえば、ムゲン君はなりたい職業って決まってるの? それこそ、魔道具開発者とか」

「ああ、一応それになろうと思ってる」

「そっか。ムゲン君ならきっとすごい魔道具を作れるよ」

「ありがとう。期待しててくれ」

 俺は早速、魔道具の開発を行うことにした。小屋の中にある材料を使って、魔道具を作っていく。

 作るのはモンスターに効く痺れ玉だ。薬品の調合を行い、慎重に作り上げる。

「出来た……!」

 出来上がった銀色の球体をじっくりと眺める。一定以上の衝撃を与えると球は割れ、痺れ作用のあるガスを噴射する。

 実際に使わなければ効果は分からないが、かなり強めに作用するよう作った。

「ムゲン殿! 何をしているか!」

「うわ!」

 突然、ヤヨイが小屋の中に入ってきた。

「ムゲン殿! 約束したではないか。基本魔法について教えてくれると!」

「わ、悪い……つい夢中になってた。よくここが分かったな」

「ウィル殿が教えてくれたのだ。ムゲン殿、それは何であるか?」

「痺れ玉っていうモンスターの動きを鈍らせる魔道具だよ」

「ほう、痺れ玉とな。これをムゲン殿が……さすがであるな」

「いやぁ、それほどでも」

 なんだかちょっと照れるな。

「ちょっと見せてもらってもよろしいだろうか?」

「ああ、別にいいよ」

 俺はヤヨイに痺れ玉を手渡す。ヤヨイはそれを訝しんだ様子で見つめる。

「とう!」

 そして、何を思ったかヤヨイは結構強めに痺れ玉を小突いた。痺れ玉は割れ、中から黄色いガスが噴射し、ヤヨイの身体がガスに飲み込まれた。

「お、おいヤヨイ! 大丈夫か?」

「だ、大丈夫であるぞ。なるほど……確かにこれは結構くるものがあるな」

 ヤヨイは身体をブルブルと震わせていた。

「お前、どうして小突いたりするんだ」

「興味本位でつい……思ったよりあっさりと割れるのであるな」

「これくらいの強度にしないと実戦じゃ使えないからな」

 三十秒ほど時間が経つと、ヤヨイは普通に身体を動かせるようになった。

「いやぁ、なかなか強烈であった。ムゲン殿、せっかく貴殿が作った魔道具を台無しにしてしまってしまなかった」

「いや、気にしなくていい。どうせ卒業試験にならないと使う機会もないだろうしな」

 ん? 待てよ。さっき、俺が作った痺れ玉はモンスターにしか作用しないはずだ。どうしてヤヨイに効いたんだ。

 もしかして調合を間違えたのだろうか。

「どうしたのであるか? ムゲン殿」

 ヤヨイが不思議そうな表情で俺の顔を覗き込む。

「い、いや……なんでもない。シャーリアが待っているだろうしそろそろ行くか」

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