第七話 ポーション作りと体術
「悔しい! 小生、とても悔しいぞ!」
ムゲンは二限目の鬼ごっこについて、とても悔しそうに嘆いていた。
「まぁまぁ、ムゲンさん。初めてであれだけ出来れば上出来だよ」
「ぐ……し、しかし……」
「僕らが初めてやった時は全然何もすることが出来なかった。それに比べれば三人とも魔法を使ってなんとか捕まえようとしていた。ほんと、大したもんだよ」
「そういえばムゲン君。私に火の魔法を使うように言ってきたけど、何か意図があったの?」
「ああ。アイスボールは固形物で投げ返された。土の基本魔法であるストーンボールも同じく投げ返されるだろう。だが、流形体である火と雷を使って魔法なら効果があるんじゃないかと思ったんだ」
「なるほど、いい目をしているね。ムゲン君」
「そ、そうか?」
「うん。ムゲン君、君ならオカモリ先生をどうやって捕まえればいいと思う?」
ウィルの質問に俺は少しの時間、考え込んだ。
このメンバーの特性を生かしてオカモリ先生に一泡吹かせるとしたら――
「現状、一番早く動けるウィルがオカモリ先生を捕まえるを担当する。俺とシャーリアが遠距離魔法でオカモリ先生の動ける範囲を制限して、ヤヨイが魔法剣術でウィルのサポートする。これが一番良いと思うんだが」
俺の考えたこの作戦、我ながら悪くないと考えた。
「うん、限りなく正解に近い。けど、それは今の持っている特性を使っての話だよね?」
今の特性を使っての話? 一体、どういうことだ?
「当面はムゲン君の作戦でいこう。そのうち分かると思うから」
「分かる? 一体、何が分かるっていうんだ?」
「まぁ、それはおいおいね……それじゃ僕は一旦、部屋に戻るよ。ご馳走様」
ウィルは食堂を後にし、部屋に戻っていった。
「ねぇ、ウィル君ってどうして卒業試験落ちたのかな?」
「どうしてって……そりゃ強いモンスターにでも会ったからじゃないのか?」
いくら優秀な冒険者でも自分以上のモンスターと遭遇したら逃げ出すのが普通だろう。
「うーん、まぁそうなのかな……けど、私から見てもかなり強いと思うんだけどな」
確かにオカモリ先生が規格外だとしても、あれだけ応戦していたのだ。
ウィルが対処できないほどのモンスターか。
「お二人方、一つお願いがある」
ヤヨイが何やら畏まった感じで頼みだした。
「ねぇ、何かしら? 協力できるならするけど」
「小生にも基本魔法とやらを教えて欲しい。小生はもっともっと強くなりたい」
「もちろん! ムゲン君も手伝ってくれる?」
「ああ」
ヤヨイに基本魔法か覚えれば確かに戦略の幅が拡がることだろう。
「感謝致す。代わりと言ってはなんだが小生も二人に剣術を指導いたすぞ」
「剣術かあ。覚えて損はないかもね」
「うむ! それじゃ早速、今日の放課後からお願いしたい」
昼休み後の授業は魔法工学であった。
主な内容は魔道具の作り方や魔法反応についてであった。俺も最も楽しみにしていた授業である。
「ポーションはアギの量が多いモンスターの血液を原材料に作られる。だが、もしもモンスターの血液を何の処理を施さずに飲もうすると勿論、身体に良くない」
俺が真剣にオカモリ先生の話を聞いていると隣に「グー」という寝息が聞こえてきた。
ヤヨイが机に突っ伏して眠っている。居眠りなんてもんじゃない。爆睡である。
「おいこら。起きろ。ヤヨイ」
オカモリ先生は本を宙に浮かせ、それを軽くヤヨイの額にぶつけた。
ヤヨイは顔を上げ、眠たそうな瞳を手でこする。
「すまぬ、オカモリ先生。つい居眠りを……」
「居眠りというかもはや爆睡である。お前にとってはつまらない内容かもしれないが冒険者になるんだったら学ぶのに必要なことだからちゃんと聞いておけ」
「承知した」
「全く……さっきも言った通り、ポーションにはモンスターの血液が使われている。飲むとアギは一時的に回復するが食中毒になったりするからくれぐれも飲まんようにな」
「なるほど……では、オカモリ先生。焼いて食べれば良いのではないか?」
おお、その発想はなかった。ヤヨイのやつ、天才かもしれない。
「そう来たか……確かに食べてもアギは回復するだろうが、そんな時間戦闘中にない」
「むぅ……確かにそうか。では、火の魔法が炒めてガブリと」
「あー、とにかく食べることから頭を離せ。それで早速、今からお前達にポーションを作ってもらう」
マッチ、赤い液体が入ったフラスコ、アルコールランプ、箱に入った白い粉、銀製のスプーン、ヘラがオカモリ先生の浮遊魔法により、俺達の机に上に置かれた。
「作り方はさほど難しくない。この箱に入った白い粉にはフラスコに入った血液にある毒物を浄化する作用がある。アルコールランプでフラスコ内の血液を熱し、三分ごとに白い子なをスプーン三杯入れる……ちゃんとヘラを使うようにな。これを三回繰り返せば完成だ。まぁ、お店で売られているものはもう少し細かい処理が行われているが基本的な作り方が今言った通りだ」
俺は早速作業に取り掛かることにした。アルコールランプにマッチを使って火を付け、フラスコの血液を熱する。血液はすぐに『グツグツ』と音を立てて沸騰した。
注意深く時計を確認し、三分経過したらスプーン三杯投入した。
「うわ!」
『ボン』という大きな音が響いた。隣のヤヨイの席を見ると、フラスコビンが割れていた。
「あちゃー、やっちまったか。粉の入れる時間や量を間違えると爆発するから気をつけるようにな」
そういうのは先に言って欲しいものである。俺は本で読んでいたから知っていたが。
時間、量を的確に見定め、作業を繰り返す。
「で、出来た……」
出来上がったポーションは綺麗な青色である。よくお店で見かけるような色だ。
「そろそろみんな出来たかー?」
周りの様子を確認すると、ヤヨイ以外は既に完成させているようである。
「よし、ヤヨイ以外は完成したようだな! それじゃ、次の実技の授業後に飲んでみるように。ヤヨイは今日の放課後、私と補習だ。完成するまで帰らせないから覚悟しておけよ」
「ぐぬぬ……しょ、承知した」
魔法工学の授業後、実技の授業を行うべく体育館へと向かった。
体育館には木刀を持った無精髭の老人の姿が見える。
「来たな……実技を担当するガルド=シーラルだ。よろしくな」
ガルド先生に自己紹介され、俺達は「よろしくお願いします」と返答した。
「ワシの授業では主に体術について指導を行う。後、剣道も行う予定だ。冒険者たるもの、強靭な肉体こそが何よりも重要だ」
凛とした口調で授業の概要について説明を行うガルド先生。魔法を使うことあはあるのだろうか。
「という訳でまずは腕立て伏せ百回、上体起こし百回、スクワット百回、そしてランニング十キロ……グラウンド二十五周するように。始め!」
マジか……サ○タマ先生のトレーニングかよ。
俺達はトレーニングを開始した。
「ほら! ちゃんと腕を下まで下げろ、シャーリア=アルフレッド!」
「は、はい!」
「ムゲン=アベイルよ! もっとリズミカルにスカワットせんか! ちゃんと膝を曲げろ!」
「はい!」
このトレーニングでシャーリアと俺は厳しく指導された。俺も山でそれなりに鍛えてはいたのだが、中々疲れる。
一方でウィルとムゲンはそつなくこなしている。
「ヤヨイ=テンマよ。お主は中々に見所があるな」
「ありがたくお言葉である。しかし、小生はまだまだ半人前であるぞ」
スクワットまでこなし、俺達はグラウンドに向かった。
「どう? ムゲン君、辛い?」
ウィルは走りながら訊いた。ウィルはまだ涼しい顔をしている。
「まぁな……けど、こなせない程ではない」
「そっか。けど、過酷なのはここからだよ」
ウィルが意味ありげに微笑む。なんだかとても不安になってくるな。
十キロ走り終え、体育館へと戻った。
「終わったか……今日からこれを毎日やってもらうからな。覚悟しておけよ!」
ま、毎日か……リアルサ○タマになりそうだ。いや、ならないか。
「では、早速ワシと組手をやってもらう二人ずつ掛かってこい」
ウィルとシャーリア、俺とヤヨイでペアを組むことにした。
一組目であるウィルとシャーリアがガルド先生に対峙する。
「よし、どこからでも掛かってこい!」
開始と同時にウィルが間髪入れずに正拳を突き出す。しかし、ガルド先生はウィルの手首を掴み、軽く投げ飛ばした。
ウィルは空中で二、三回ほど回り背中を床に打ち付けた。
「いてて……さすがはガルド先生。そう簡単には決まらないか」
「シャーリア=アルフレッド。お前も掛かってこい!」
「は、はい!」
シャーリアは攻撃を仕掛けるが、ガルド先生は何ともないように防御する。
ウィルも立ち上がり、再び参戦する蹴りを繰り出すが、ガルド先生は左手で防御し、右手でウィルの腹部に手刀を入れる。
「うご!」
ウィルが顔を青くし倒れた。おいおいおい、さっきから容赦なさすぎだろガルド先生。
しかし……さっきからウィルに凄まじい攻撃を繰り出しているがシャーリアには特に何もしてこない。
ガルド先生、女性には優しいのだろうか。
「ウィル=モニーク。まだまだ隙が多いぞ」
「す、すみません」
ウィルが苦しそうに立ち上がる。
「シャーリア=アルフレッド。戦おうとする意思を強く持て。最初だから様子を見ていたが、このまま何もしないつもりならお前にも攻撃する」
「は、はい!」
ウィルとシャーリアは二人掛かりで戦うが有効打を与えることは出来なかった。
ガルド=シーラル先生か……オカモリ先生ほどじゃないがこの人も化け物だな。