第五話 魔法について
席で先生が来るのを待っていると、『ガラガラガラ』と扉が開く音が耳に響く。
オカモト先生だ。コツコツと歩き、教卓に立つ。
「あー、では早速本日から授業を始める。最初の授業は魔法学についてだ。その名の通り、魔法の基礎的な内容を学ぶものだ。ウィルは一度受けているだろうが復習だと思って受けておけ」
「はい、分かりました」
「では、まずはこれを受け取れ」
先生はチュパチャップスのような飴を宙に浮かせ、俺達に渡してきた。
「こいつは『魔力飴』っていう代物だ。普通のお店では売られていない。いいか? 魔力には属性がある。この飴を舐めることによって色が変化し、自分がどの属性に適しているか分かるんだ」
そんな飴があるのか。今まで色んな本を読んできたが、魔力飴なんて初めて知った。
「それじゃ早速舐めてみろ。後、この魔力飴は一般人には極秘にされている。理由は魔法に適正のない者が舐めれば副作用を引き起こす危険な代物でもあるからだ」
まじか……だがまぁ、俺なら大丈夫だろう。
包装を外した。舐める前の飴玉の色は白である。
早速飴を舐めてみると、普通に美味しいかった。
飴を口から出し、色を確認すると黒色になっていた。
「お前ら、色を確認したか? 赤が火、青が水、氷が紫、黄色が雷、緑が風、茶色が土に適正があるってことになる」
オリモカ先生が板書した……ってか黒は?
「オリモカ先生! 小生、青であるぞ!」
「あー、じゃヤヨイは水属性の魔法に適正があるってことになるな」
「私は赤……火属性みたいね」
シャーリアは火属性か。隣に座っているウィルが持っている飴玉は黄色に変色していた。
「僕は雷……知ってたけどね」
そういえば昨日、ウィルは雷魔法が得意だと言っていたな。
半年前、ウィルは自身の適性が判明してから雷魔法を重点的に鍛えたのかもしれない。
「適正のある属性魔法は鍛え方次第で最高位魔法を身に付けることができる。それ以外の属性でも上位魔法までなら身につけることが可能だ……といっても正直、才能の有無が大きいんだがな」
上位魔法か。俺の才能で果たして一つでも身につけることができるのだろうか。
「先生。黒は何に適正があるんでしょうか?」
「黒色!? はー、お前随分と珍しいの引き当てたなぁ」
やはり黒色は珍しいのか。板書されないくらいだしな。
「黒色は簡単に言えば『無属性』だ」
「無属性ですか?」
「そうだ。例えば、対象を回復させる『ヒール』、自分の身体能力を向上させる『ブースト』などがこれらに該当する」
無属性魔法か。あまり、戦闘向きな属性ではなさそうだ。
適正のある属性を確認した後、魔法学についてオリモカ先生が説明を始める。
「魔法は全ての人が扱える……と言っても実際に扱えるかどうかは才能の有無が大きいがな。そして、魔法を使う為の源を『アギ』と呼ぶ」
アギ? どこかで見たような気が……
「昨日、渡した合格証明書を持っているか? 持っていたら机の上に出してくれ」
ウィルを除く俺達三人が机に上に置いた。
「合格証明書の一番下に数値が書いてある。それが入学時のお前らのアギの量だ」
アギの量……すなわち魔力の量か。俺のアギの量は二千八百八十ということか。
「一般的な冒険者は三千前後のアギを有していると言われている。普通の入学生は全員大体千五百から良くて二千アギなのに対して、お前ら三人は全員二千五百アギを超えていた。ここ何年かで最も高かった数値だ」
「オカモリ先生、ウィル殿のアギはいくつであるか?」
「今は不明だが……最後に測定した時は四千十三だったか?」
「はい、そうです」
四千十三か。既に一般的な冒険者を上回るほどのアギを有しているということになる。
「だがいいか? アギの量が単純に強さと直結するわけではない。このことは頭に入れておけ。アギを使いこなす為の技術もアギの量と同じくらい重要だ」
祖父も同じことに言っていたな。
高い魔力を持った冒険者ほど自分の力を過信し、あっさりと命を落とす傾向が強いらしい。
「オカモリ先生。アギの量を増やすにはどうしたらよいのであろうか?」
「まぁ、訓練するしかないな。一般的には瞑想や滝行、イメージトレーニングなどが効果的であると言われている」
「左様か。しかし、どれもやっておるぞ」
「なら効果は出ていると言っていいだろう。今期合格者三人の中でもヤヨイ。お前が一番アギの量が多い」
ヤヨイが一番多いのか。一体、いくつなのだろう。
「ヤヨイ、いくつなの?」
シャーリアがヤヨイのアギの量を尋ねる。
「三千四百二十二である」
「三千百四百二十二!? す、すごいじゃない!」
シャーリアはヤヨイのアギの量にえらく感心した。俺も純粋にすごいと思った。
「シャーリア殿はいくつであるか?」
「三千百十五だよ」
シャーリアもものすごい量だな……というかアギが三千以下なのは俺だけか。
「左様か。ムゲン殿はいくつであるか?」
「……俺は二千八百八十だ」
「まぁ、今時点でのアギの量は大して重要じゃない。これから授業や個人での修行を通じて、上がっていくことだろう。ウィルだって入学時は二千ちょっとだったが、倍近く伸びた。もう、お前らは既に一般的な冒険者より多いんだ。これからもっと磨き上げるつもりでいけ」
まだ上がる余地が残っているだろうか……いや、冒険者といった戦闘職に就くつもりがない俺はそもそも上げる必要などないか。
魔法学の授業はその名の通り、魔法について本質的なことを学ぶなようであった。さらに本では知ることができない内容も含まれていて中々興味深い内容である。
「体内のアギは使い切ると魔法が使えなくなる。再び使えるようにするにはどうすればいい? 答えてみろ、シャーリア」
シャーリアが指名され、立ち上がった。
「速やかにアギを回復するべきです。仲間にヒールを掛けてもらうか、ポーションを飲無などの対策を取ります」
「まぁ、そうだな。だが、覚えておけ。ポーションには一日に使用制限がある」
「使用制限……ですか?」
この様子だとシャーリアは知らないようだ。もっとも冒険者以外には割と知られていないことではある。
「普通のポーションだと一日に三回飲んでしまうとそれ以上飲んでも効果はなくなる。ハイポーションで五回、グレートポーションで十回ってとこだな。だから、アギの管理はしっかり行わなければならない。闇雲に魔法を撃てばあっという間にアギが空っぽになる」
魔法が使えないと危険な状況に陥るのは明白だ。弱いモンスターならともかく、強いモンスターに会った場合は命すら落とす危険性もある。
「もしもモンスターとの戦闘中にアギがゼロになった場合はどうすべきだと思う? ムゲン」
今度は俺が指名された。席から立ち上がり、質問に答えることにした。
「所持しているアイテムを使ってモンスターから逃げます」
「まぁ、妥当なところだな」
クエストに繰り出す際は煙玉や野生のモンスターが好む固形食料を用意しておくのが基本だ。
「モンスターから逃げる……それが本当に正しい選択肢であるか?」
俺の答えに対し、ヤヨイが疑問を唱えた。
「ならば、ヤヨイ。お前ならどうどうするきだ?」
オカモリ先生がヤヨイにアギが無くなった時の対処法について尋ねる。
「小生なら戦い続ける。魔法が使えなくても己の肉体で、そして刀で」
「……まぁ、それも正しい答えではあるな。魔法が使えなくなった時でも戦いが避けられない事態もありうる。だからこそ、冒険者は魔法だけでなく自分の肉体も鍛えておかなければならない。そこんところは実技でビシバシ鍛えてやるからな。安心して良いぞ」
不安しかなくなった。魔法学の授業が終わると次は実技の授業であり、オカモリ先生からグラウンドに集合するように言われた。