第三話 合格発表
次の試験会場である保健室に入ると、俺達は五列に別れて並ばされた。
複数の試験監督が前から順番に入学希望者を凝視し、用紙に何かを記入していく。
それが終わると次々に控え室に案内された。
俺も試験監督に凝視された後、控え室への移動を向かうよう告げられる。
控え室には試験を終えた入学希望者達がソワソワした様子で待っていた。
「ムゲン殿! お疲れであった!」
「ああ」
猛烈な勢いでヤヨイが駆け寄ってきた。テンマの後を追うようにシャーリアがゆっくりと近づいてくる。
「ムゲンくん、お疲れ様。なんかあっという間に終わったね。最後の試験、あれは何だったのかしら?」
「多分、魔力量を調べていたんだろ」
「魔力量……であるか?」
「ああ。この学校は魔法に適正の無いものは容赦無く落とされるからな。魔力量が低い場合は不合格の対象になってしまうと思う」
「そうか。では先ほど合格と言われた小生も決して楽観視できないという状況ということか」
「いやぁ……」
「大丈夫じゃないか?」と言おうと思ったが止めた。絶対に大丈夫なんてことはない。
「それよりムゲン殿。一つ聞きたいことが」
「何だ?」
「貴殿、ジャポニに行ったことはあるのか?」
「いや、ないが……」
この世界に来てからはオアバ山とバキアの街以外に行ったことがない。
「そうであったか。失礼した。ムゲン殿からジャポニ人のような雰囲気を感じてな」
それは多分、俺が日本から転生したからであろう。
「ジャポニかぁ。私も一度行ってみたいな」
「ジャポニはとても良いところであるぞ。小生も目的を果たしたらジャポニに戻る予定である」
「目的? 何だそれは」
「悪いがムゲン殿にもそれは言えぬ」
「そ、そうか……」
「目的かぁ……私も早くS級冒険者になりないな」
「S級冒険者ってことは王国軍に入りたいのか?」
冒険者が王国軍に加入するにはS級というクラスまで達する必要がある。
S級冒険者になるには実績は積み上げていく必要があるが、手っ取り早くS級冒険者になる方法はS級モンスターを討伐することだと言われている。
しかし、S級モンスターは最高位魔法を使える冒険者ではないと討伐するのが難しいと言われている。
「まぁ……そんな感じ……かな?」
何とも歯切れの悪い返事である。何かを隠しているのは明白だ。
といっても深く聞く気は無い。
「まぁな……ちょっとトイレに行ってくる」
俺は逃げるように控え室を後にした。
やりたいことか。俺は冒険者を志していない。だが、何となく魔法を扱う職業には就きたいと思っている。
控え室に戻ると実技試験の時の試験監督がいた。試験監督は俺のことを一瞥した。
「おう、来たか。全員揃ったところでこれから合格者を発表する」
もう合格者の発表か。試験終了後はすぐに発表されるとは聞いていたがここまで早いとは思っていなかった。
「ちなみに今回の合格者は三名だ」
三名だと……各試験ごとに十名前後の合格者が出ると聞いていた。他の入学希望者もざわめき出した。
「それじゃ、早速発表するぞ。合格者はシャーリア=アルフレッド、ヤヨイ=テンマ。そして、ムゲン=アベイル。以上だ」
合格者三名と聞いて何となく察しが付いていたが予想が的中した。
「一つ補足しておくといつもの試験であれば合格に達している者もいた。だが、今回合格した三人がずば抜けて魔法に対する適性が高い。今回の合格者を指導するのは私だ。この三人に付いてけるものはいまい。悪いが次の入学試験で頑張ってくれ」
不合格を告げられた者達が肩を落としつつ控え室から出ていく。気のせいか、何名かの不合格達は俺達を睨んでいるように感じた。
「三人とも付いてこい。早速、オリエンテーションだ」
俺達三人が連れてこられたのは筆記試験で使った講義室であった。
椅子に腰を掛け、教卓に立つ先生と向かい合う。
「では、改めて三人とも合格おめでとう。これから半年間、君達の担任を務めるオリモカ=シエンナだ。まずはこれを受け取ってくれ」
オリモカ先生は三枚の用紙を浮遊させ、それぞれ俺達の机の上に置いた。
表題には合格証明書と記載があり、内容を確認すると、学校でのルールがびっしりと書かれていた。
さらに一番下にはこう記載されている。
――ムゲン=アベイル入学時の体内所有アギ 二千八百八十
「細かい校則とかは後で読んでくれ。まずは基本的なルールを説明する。入学者は全員寮に住むこと。知っているとは思うがな」
寮に入ることは入学を希望する者からしたら周知のルールである。
「ほう……そうであったか。知らなかった」
ヤヨイの呟きを聞いたオリモカ先生は目を丸くした。
「まさか知らないものがいたとはな……まぁ、いい。最低限必要なものは寮の中に備わってるから何も準備しなくても生活できるだろう。とにかく、入学する以上は寮に入るのは必須だ。分かったな?」
「御意」
「授業は八時から十六時まで。基本的には授業は私が教えることになるが、一部の授業は違う先生が担当することになる。後、お前達三人以外にもう一人生徒がいる。前の卒業試験で不合格になった生徒だ」
俺達以外の生徒か……一体、どんな人物なのだろうか。
「それと卒業までの大まかな流れだが、座学と実技の授業を行い、約半年後には卒業試験を行う。ここまでで何か質問はあるか?」
「あの……先生、学校外での外出は許可されているのでしょうか?」
シャーリアは軽く手を挙げ、先生に質問する。
「ああ。外出は許可されている。だが、門限は二十二時までだ。それを破るとペナルティが課せられるから気をつけるようにな」
「分かりました」
ずっと学校に籠もりきりというわけではないようだ。少し安心した。
「オカモリ殿。小生も質問よろしいだろうか」
「先生と呼べ。何だ?」
「卒業試験は一体何をやるのだろうか?」
「モンスター討伐だ。毎年恒例となっている」
バキアの生徒が卒業試験にモンスター討伐を行うのは冒険者の間でも知られている。
祖父が言うには冒険者達は決して生徒達に手を貸さずに見守るようギルドハウスの責任者から強く言われるらしい。
「なるほど。では、オリモカ先生。先生と剣を交えることはできるのだろうか?」
ある意味、宣戦布告とも取れる言葉をさらりと言ってのけるヤヨイ。
しかし、オリモカ先生は一切表情を崩すことはない。
「ああ。模擬戦くらいならできるが」
「左様か。是非ともお願いしたい」
「あー、分かった分かった。次の機会にな。他に質問は?」
俺も含め、他に質問しようとする者はいなかった。
「よし、それじゃこれから部屋の鍵と館内図を渡すから各自荷物を持って自分の部屋に向かうように。寮はこの学校の外にある鼠色の建物だ。後、授業は明日から始まるから八時前には席に着くようにな」
オリモカ先生から鍵を受け取り、部屋に向かう。寮は学校から百メートルほど離れたところにあり、元の世界で見かけるアパートのような長方形の質素な建物であり、材質は煉瓦のようである。
部屋の中は八畳ほどの広さで、台所、トイレ、風呂といった生活に必要なものはきちんと備わっている。
鞄から荷物を取り出し、洗剤や服などを所定の場所に置いた。
簡単に荷造りを終えた後、少し寮内を探索しようと思い、部屋から出た。