表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/53

矛VS盾

 黒い空、立ち並ぶタンク、化学薬品の臭い。ここが何処の工業地帯かは知らないが、まるで一つの街と言っても良いほど広大なエリアで、堅牢の魔女と光のラフリリアと闇のラフヒーが睨み合う。


 二人のテンションからいきなり襲い掛かるかと思っていたのだが、どうやら対話を試みるのか、空に滞在する堅牢の魔女から良く見える位置に佇み、静かに見つめていた。

 これに対し堅牢の魔女も攻撃を仕掛けてくる様子はなく、二人を観察するように見つめ返していた。


 その沈黙はしばらく続き、俺達以外の生命は存在しないリンボは、不気味な静けさに包まれていた。


「――貴方が堅牢の魔女ですか?」

「…………」


 予想に反して静かな立ち上がりを見せた戦いは、リリアの質問によるファーストコンタクトとなった。だが既に咎落ちし自我を失った堅牢の魔女にはその声は届いていないのか、返答は無い。それでも二人は果敢に攻める。


「私は五十嵐理利愛と言います。訳あってラフというものをやっています。どうぞよろしくお願いします」


 これから命のやり取りをする相手に礼儀正しくお辞儀をするリリアは、既に達人の貫録を放っていた。


「私は五十嵐妃美華と申します。どうぞよろしくお願い致します」


 リリア同様お辞儀をして挨拶するヒーは、リリアとは違う冷たさを秘めた空気を放っていた。


 今まで数多くのラフを育てて来た俺だったが、初めて戦う魔女を相手にここまで落ち着いて丁寧に自己紹介をする子は初めてだった。

 普通は魔女に恐れを抱き、会話をしようとはしないし、慎重を期して奇襲を掛けたりする。だがこの二人は違った。魔女を自分たちと同じ命と捉え、敬意を持って立ち向かっている。

 それは二人が生まれつき難病を患い、いつ絶命するかも知れない人生を歩んで来たからこそなのかもしれない。そう思うと、二人が真っすぐな馬鹿みたいに見えるのは、精一杯生きているからなのかもしれない。


 リリア達の予期せぬ行動に、さすがの堅牢の魔女も困惑しているのか動く気配を見せない。それは観察という行為にも取れ、あまり好ましくない予感がピリピリした。それでもアホの二人は全くそんな事など気にする様子もなく、さらに会話を試みる。


「あ、あの~……私達の言葉は分かりますか? アーユージャパニーズ?」

「リリア、それでは貴方は日本人ですか? になってしまいます。Do you understand Japanese? が正しい英語です」

「あっ! そうでした! ありがとう御座いますヒー!」

「いえ」

「ズウユウアンダースタンドジャパニーズ?」


 この二人は堅牢の魔女に何を求めているのだろう? 


「…………」


 当然言語が違うから通じないわけではない堅牢の魔女は返答をしない。それでもリリアは攻める。


「……なるほど。ではこうしましょう。ワタシタチワ、アナタト、タタカウ」


 とにかく意思の疎通を図りたいリリアは、とうとうボディーランゲージを始めた。そしてそれをサポートするために、ヒーはファイティングポーズをとって戦うをアピールする。どうやら多発性何とかという病気は、脳みそまで鋼になってしまう病気のようだ。


 そんな二人の行為が挑発になったのか、突然堅牢の魔女は大きく口を開けて吠えた。その叫びは音の暴力となりプラント全体を振動させる。


「おぉ……どうやら伝わったようですねヒー?」

「そのようです」


 しかしアホ二人は叫びに驚きはしたが意思が通じたのだと勘違いし、やった! みたいな表情を見せた。


「おいお前ら! 今のはお前らが挑発したと思って怒った声だ! 襲ってくるぞ!」

「ええっ!?」


 ボケ~っとしている二人には、このまま襲撃を受けて痛い目を見て貰っても良かったのだが、一応責任者として注意した。すると俺の声に反応してリリア達が目を離した隙を見逃さなかった堅牢の魔女は、浮遊させていた重量物をリリア達に向けて飛ばし、攻撃してきた。


 トラック、建設重機、コンクリートブロック。大小様々だがどれも堅く重たい物ばかりで、飛来する物体は速度に加え魔力が込められている。それは生身の人間ならもちろんの事、耐久力に自信のあるラフでも直撃を受ければ致命傷になる破壊力を秘めている。

 

 その攻撃に、距離があるとはいえ一瞬の虚を突かれたリリア達は反応が遅れ、尋常じゃない身体能力を持っていてもさすがに被弾してしまうと焦った。だがやはり尋常じゃない二人は、普通なら絶対に避けられない距離まで飛来物が来ると、ヒーは左に、リリアはまさかの飛来物に向かっての突進を掛けた。


 そのスピード足るや、天使の俺ですらまともに姿を捉えられず、ヒーは銀、リリアは金の、ラフの光の残像しか捉えられなかった。

 突進したリリアは、上手く飛来物を足場として移動しているらしく、大きな炸裂音を放ちながらまるでスーパーボールがバウンドするように高速で隙間を駆け抜けていく。一方のヒーは横から堅牢の魔女を叩くつもりなのか、こちらも炸裂音を響かせながら大きく迂回しながら魔女へ近づく。


 ラフには基本的な技術として、空中闊歩という技がある。それは天使力を使い空中に足場を作る事によって天を翔けるという技なのだが、二人はまだそれほどの天使力も無いし扱いすらも出来ていない。だがしかし! 二人は生身でも空中闊歩を習得していた! それは技というよりただ単にあの強力な筋力を使い、超音速で足を動かす事によって衝撃波を生み、その反動を利用するという力押しで、右足が沈む前に左足を出すというアホな原理を再現しただけのものだった。


 これにはさすがの魔女も予想外だったのか、というより、既に弾丸と化したリリアのスピードは凄まじく、あっという間に飛来物を抜けると堅牢の魔女に何もさせる暇も与えず、そのままの勢いで堅牢の魔女が展開する障壁へと突撃した。

 しかしやはり物理的な攻撃にはビクともしないようで、広がる空気が目視できるほどの衝撃波が発生してもヒビ一つ入れる事は出来なかった。そして、衝撃の反作用を受けたリリアは物凄い勢いで地面に向けて吹き飛ばされ、激突して爆煙を上げた。


 もうドラ〇ンボール! こんな戦い方するラフ初めてだよ!


 しかし二人には力押しくらいしか戦法が無いのか、リリアが吹き飛ばされ爆煙を上げると同時に今度はヒーが突っ込んだ。しかしほとんど間の無い二連発の炸裂音と衝撃波が起きるほどの攻撃を加えても堅牢の魔女の障壁は健在で、リリア同様ヒーも自分の力の反動で大きく吹っ飛んで行った。が、この辺はスマートなヒーは、上手く飛ばされる軌道を修正し、何事も無かったように石油タンクの上に着地した。


 二人は有り余る力のせいで反作用を強く受ける。特に踏ん張れない空中ではなおの事だ。しかし耐久力も半端ない二人はその程度ではビクともせず、プラントをぐちゃぐちゃに破壊したリリアは、何事も無かったようにまた高い位置に戻った。ちなみにリリア達には聞いていないが、鋼なんとかという病気だけあって、二人の体重は二百キロを超えると思われる。


「おぉ! さすがに魔法少女の服! これだけやっても破れません!」


 生身ならあれだけの衝撃を受ければ間違いなく服は破れ、ほぼすっ裸になってしまう。しかしラフの装束はそのラフのイメージが具現化した物なのでほとんど傷は無い。それが嬉しいのかリリアは嬉々としている。


 障壁を壊せなかった事に驚けよ! なんでそっちで喜んでんだよ!


 それに対しヒーは障壁を壊せなかった事に力だけでは駄目だと察したのか、神妙な面持ちで右手を確認するように開閉させている。


 よし! 良い感じだ! それでこそ堅牢の魔女を選んだ甲斐がある!


 それに比べやっぱり何も考えていないリリアが、肩を回しながら言う。


「大体コツは分かりました。次はもっと強く行きますよ~」


 それを聞いてハッとした。初めてリリア達をラフにした時見せた力は、大地を遥か彼方まで抉るほどだった。こいつはヤバイ! 頼みまっせ堅牢の魔女さん!


 もしかしたら、もしかしたらリリア達の鼻くそみたいな天使力でも、あの力と速度でぶつければ堅牢の魔女の障壁を破壊してしまうのではという思いはあった。しかしそれだと困る! もしそうなったらこの二人はこれから先も力で全てを解決しようとする! お願いしますよ堅牢の魔女さん!


 ヒーもリリアの言葉を聞くと、うんうんと何かに納得したように頷き、拳を軽く握った。


 マジやめてよ~。一応堅牢の魔女さんは守りでは定評あるんだよ~。そんなのを力で壊したなんて知られたら、「貴方はどんな教育をしているんですか!」って女神さまに怒られちゃうよ!


 そんな俺の気など知らない二人は、双子だけあってアイコンタクトで何かを確認し合うと、猛スピードで両サイドから堅牢の魔女目掛け同時に突撃を開始した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ