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魔法少女 五十嵐さんちの無双姫  作者: ケシゴム
原石は光り輝く
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その後

「おぉ! さすがヒーちゃんですね!」

「ええ! さすがヒーです! 何かコツがあるのなら私達にも教えて下さい!」

「はい」


 サルデモロンとの戦いから早一か月が過ぎようとしていた。しかしあれからリリア達は何事も無かったかのようにラフを続けていた。

 そんな三人は空中闊歩の会得に励み、今日やっとヒーが天使力で足場を作り、ほんのわずかな時間だがその上に立つ事に成功した。


「空中の足場に乗るというイメージではなく、靴底が下から押されて体が浮き上がるというイメージです」

「少し難しいですねヒー。もう少し分かり易く教えて貰えますか?」

「はい。では私が持ち上げますので、その感覚を覚えて下さい」

「なるほど! それは良いアイデアですね!」

「はい」


 相変わらず仲の良い三人は楽しそうに練習をしていた。だがあれから辞めると言って来ない二人が一体何を考えているのかが分からない。

 

「では行きますよリリア」

「はい! いつでも良いですよ!」

 

 リリアの足首を持ったヒーは、返事を聞くと相変わらずの馬鹿力で軽々リリアを持ち上げた。


「どうですかリリア? 足元から押され、下から膝に力が掛かる感覚です」

「おぉ……なるほど。確かに不思議な感覚がしました。まるでエレベーターが物凄い速さで上がったような感覚です」

「そうです、その感覚です。乗るというイメージでは無く押し上げられるイメージです」

「おぉ! ヒー! 申し訳ありませんが降ろして貰えますか? これなら直ぐにでも出来そうです!」

「分かりました!」


 もしかしたらフィリアは、二人のラフを辞めるという記憶までいじったのかとも思ったが、あれから二人はリンボに入れろとは言うが魔女と戦うとは言わなかった。そのせいでこちらからもなかなかどうするのかと声を掛けられずにいた。


「では先ほどの感覚が残っているうちに早速いきます!」

「はい」

「頑張ってくださいリリア」

「任せて下さい!」


 どうやらフィリアは記憶を封じる時、天使力のコントロール感覚についてはそれなりに残したらしく、あれから二人は劇的に天使力の扱いが上手くなった。それは恐らく、力を練る時は身っこが出るんじゃないかというほどのカッコ悪い踏ん張りに、さすがのフィリアも居た堪れなかったのかもしれない。

 そんなフィリアの気遣いのお陰で、今や二人は流れるような美しいオーラを纏っていた。


「おぉ! いい感じですよリリア!」

「は……はい! ですけど……あっ!」

「大丈夫ですかリリア様!」


 双子だけあって感覚が分かればなんとかなるようで、リリアは体を少し空中に滞在させた。しかし天使力の使用に関しては制限が掛けられているようで、以前とはあまり変わらないリリアの力では足場の維持が困難なようで、フィリアが様を付けて呼んでしまうほどリリアは頭から派手にてっくり返った。


「大丈夫です! このくらいなら何万回受けても怪我もしません!」

「そ、そうですか? それなら安心しました」


 ちなみに頑丈さと馬鹿力は健在で、ヒーの腰ほどの高さから転落してアスファルトを欠損させてもリリアはケロっとしている。


「はい! ではもう一度挑戦します!」

「え!? 本当に大丈夫なんですか? もうちょっとイメージトレーニングから始めた方が良いような気がしますよ?」

「何を言ってるんですかフィリア! これほどの技なら並大抵の努力では修得出来ませんよ! そうですよねヒー!」

「はい! 苦難を乗り越え得たものでなければいざという時に役に立ちませんからね」

「そ、それは確かにそうですけど……」


 いくら二人が頑丈だからと言っても、二人の事を想うフィリアにとっては気が気じゃないのだろう。俺から見ても今の落ち方なら、そのうち頭から地面に突き刺さる勢いだったからその気持ちは分かる。


「ではバンバン行きますよヒー!」

「はい!」

「あ、あの~……本当に気を付けて下さいよ?」

「任せて下さい!」


 そんなこんなで、ズルズル一か月も何の進展の無いまま時間だけが過ぎていた。


「おぉ! 見て下さいリーパー! どうですか!」


 さすがに元神様だけあって一度感覚を取り戻すと驚異的な成長を遂げるリリアは、もう空中で姿勢が安定している。


「え? あぁ、なかなか上手くなったな! その調子ならすぐにでも出来るようになるな!」

「えぇ! これなら次の戦いは期待できますよ!」

「え?」


 あれ? 今あの子“次”って言わなかった? え? 何? 辞めるんじゃないの!?


「え? あれ? もしかしてお前らまだラフを続ける気なのか?」

「え? そうですけど? それが……あっ!」

「大丈夫ですかリリア様!」


 センスは一級品でも集中力はそうでもないリリアは、再びフィリアが様を付けて呼ぶほど見事なサマーソルトキックを放ち地面に落下した。ケツ丸出し!


 それにしてもさっきから気になっているのだが、足場の維持が困難になって転落しているはずなのに、なんでアイツあんなバナナの皮で滑って転んだような落ち方すんの? 生まれ持ってのコント体質なの?


 そんな危険な落ち方を繰り返すリリアに、ここでフィリアにも限界が来たのか、休憩を提案する。


「一回休憩にしましょう。これ以上は危険です。良いですねリリア」

「え? しかしフィリア、今やっと感覚が分かって来たところなんですよ?」

「なら尚更です。リリアとヒーちゃんは体感した後、一度頭の中で感覚を整理した方が成長が早いタイプなんですよ」

「そうなんですか?」

「えぇ。二人は頭が良いから一度の経験からイメージを掴むじゃないですか? だから小さい頃一輪車とか竹馬とか久しぶりに乗ったらいきなり乗れたじゃないですか?」

「あ、そうでした。確かにそんな事ありましたね」

「そうでしょう? だからお菓子でも食べながら休憩して今の感覚を体に染み込ませ、もっと効率の良い練習方法を考えましょう」

「……なるほど。では休憩にしましょう! それで良いですかヒー?」

「はい」


 フィリアは相当口が上手い。本当にそうなのかは知らないが、頭が良いとか言って上手く二人から危険な練習法を取り上げた。しかし相変わらず口が軽いのか、さらっともっと効率の良いと言ってしまっている。詰めが甘い!


「ではリーパー! 早速リンボから出して下さい! 私達は休憩します!」


 なんの休憩宣言なのかは知らないが、リリアはもうさっきの話を忘れているようでもうお菓子に気が行っている。だが折角掴んだチャンス。この機会に二人の本心を聞こうと思った。


「ちょっと待てよ。さっきの話なんだけど、お前らまだラフを続ける気なのか?」

「え? そうですけど? 何でです?」


 何変な事言ってんのみたいな顔してんだよ腹立つな! 俺なんてもう次の事考えてたのに!


「何でって! お前ら辞めるって言ってから何も言って来なかったじゃねぇか! 俺だって暇じゃねぇんだよ! 続けるなら続けるで早く言ってくれなきゃ俺だって次にいけないだろ!」

「え? それは前に言ったじゃないですか? 全員が納得しなければ辞めないと。ねぇヒー? フィリア?」

「えぇ。私もリーパーはそれを納得していると思っていましたよ?」

「えぇ。私もヒーちゃんと同意見です。何を言ってるんですかリーパー?」


 くそが! これが女子の結託ってやつか! 


「それならそうと早く言えや! 俺はてっきりこのまま趣味でラフを続けられるんじゃないかってビビってたんだぞ!」

「それはリーパーが勝手に勘違いしたから悪いんじゃないですか! そう思っていたなら何故早く聞かないんですか!」

「お前らが触れさせないような空気出してたからだろ!」

「フィリア、リーパー、落ち着いて下さい。確かに書面などに残す事をしなかった私達にも責任があります。ですがそれは双方に言える事です。ですから先ずは冷静になって、今からでも遅くないですからしっかり記録に残しましょう」


 お前は弁護士か! 確かにヒーの言い分は分かるけどもう遅いよ! もう一か月も無駄にしてたよ!


「まぁまぁ、皆落ち着いて下さい。そんな事などどうでも良いでしょう? 早かれ遅かれいずれ私達は離れ離れになってしまいます。だから今はこの巡り逢いに感謝して、一緒にいられる事を感謝しましょう」


 何牧師みたいな事言ってんのリリアは!? つーか俺に対しての気遣い無い時点で感謝もくそも無くない!?


「そうですね。こうして笑い合えるのも何かの巡り合わせです」

「はい。リリアには大切な事を教えられました」


 このなんか良い感じのリリアの発言に、五十嵐病末期の三人は幸せそうな笑みを浮かべハッピーエンド感を醸し出した。


 いやまだ何も終わってないから!


「いやちょっと待てよ! 俺は何も納得してないからな!」

「え~! もうその話は良いじゃないですか? 何故リーパーはそこまでして私達を辞めさせたいんですか?」

「い、いや別に辞めさせたいわけじゃないけど……だけどその辺ははっきりさせとこうぜ?」


 この先またダラダラと続けられても困る。


「じゃあ私達が辞めると言ったら終わりにしましょう」

「それはもうお前ら言ったじゃねぇか! ならはい終わり。君たちは現時刻を持って退職して頂きます」

「えー! それはズルいですよ! それに私達は辞めるとは言ってませんよ? 辞めたいと言っただけですー」


 出た、リリアの屁理屈! ほんと腹立つ子だよ!


「辞めたいも辞めるも同じです~。本社は既に退職願を頂いています~」

「私達は入社時に契約書を書いてません~。だから退職願は受理出来ません~」

「ならお前らはもう首だ!」

「では今までの未払いの賃金を下さい!」

「てんめ~!」


 ほんとこの子は屁理屈上手だよ! 


 そんな俺達のやり取りにうんざりしたのか、ここでフィリアとヒーが割って入って来た。


「まぁまぁ二人ともそれくらいにしましょう。早くしないと休憩時間が無くなりますよ?」

「フィリアの言う通りです。ここでいくら言い争いをしても何も始まりません。先ずは冷静になり、そこから今後について話し合いましょう。私達に残された時間は少ないかもしれませんが、折角出来た出会いですから命一杯時間を掛けて」


 時間が少ないのに命一杯時間を掛けると言ったヒーの言葉にはさすがに勝てなかった。この辺は双子なのに何故だろう?


「分かったよ。じゃあ先ずは休憩だ」

「はい。それで良いですねリリア?」

「はい。というか、最初から私はそう言っていましたよリーパー?」

「てめーは本当に一言多いな!」

「…………」


 そう返すとリリアは突然口を閉じ、態度で多くは無い事を主張した。


「てんめ~!」


 こうしてリリア達の引退は先延ばしになった。それでも何故か不思議と俺は嫌な気はしなかった。それはリリアでは無いが、感謝から来る気持ちなのかもしれない。そんな事を思いながら今日も俺達は魔女と戦い続ける。


                        



                ――――――――


「リリア今です!」

「はい!」


 鋼鉄の魔女の攻撃を、自らを盾として切り開いたヒーの力を借り、リリアはようやく懐に飛び込んだ。そして間髪入れず花を咲かせる力で攻撃を仕掛ける。


「やりましたよヒー! 後は逃げるだけです!」

「はい!」


 リリアの咲かせる花は、相手の魔力を吸い成長し浄化させる能力を秘めていた。しかし花が咲くまでは種を植え付けてから時間を要した。


「よーし! よくやったリリア! 早く隠れるぞ! 二人ともこっちに来い!」

「はい!」


 リーパーのチームは、近接戦闘においては無敵と言っても過言ではないチームだが、相手を傷付ける事を嫌うリリアとヒーがいる為、彼らが編み出した戦略はかなり消極的なものだった。それでも彼らはこの戦術を取るようになってからは連勝を重ねるようになり、今日も勝利を手に入れた。


「どうやら順調に育っているようだな。このまま行けば彼女達は大いに役立ってくれそうだな」


 リリア達の戦いを覗いていた一人の神が言った。それを受けて天使が応える。


「えぇ。あの力もそうですが、彼女達には他のラフには見られない強さもありますからね。上手く利用すれば彼女達だけで一騎士団を押さえてくれるやもしれません」

「それは頼もしいな。もしそれが本当なら大した儲けものだ」

「えぇ。その為に何の役にも立たないアズガルドを懐柔したのですから。しかしその甲斐もあり、エングレイブ様が天を掴むには十分な駒を揃える事が出来ました」


 それを聞いてエングレイブがほくそ笑む。


「では私はこの辺で失礼させて頂きます。天界を奪うにはまだ準備がありますから」

「そうか。では引き続き頼んだぞエリシア」

「はい」


                        To be continued?


 ご愛読いただきありがとう御座いました。

 魔法少女・五十嵐さんちの無双姫は、上下巻構成になっています。しかし下巻については未定です。その為あらすじだけでも予告として付け加えておきます。


 ラフとして引退時期を探しながら活躍を続けるリリア達は、今日もズルズルとラフを続けていた。そんなある日リーパーは、エリシアから現神が己の不祥事を隠すため世界の再構築を企てている事を告げられる。

 それを聞いたリーパーは、世界の滅亡を防ぐためリリア達とともに聖戦に参加する。しかしその中で浮き上がる事実により、リーパー達は窮地へと追い込まれる。そこへ有と無を繋ぐ救世主が現れる。


 という感じです。しかし上巻自体プロットが全く役に立たなかった状態ですので、どうなるかは分かりません。

 とにかく最後までお読み頂き、誠にありがとう御座いました。

 


 


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