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魔法少女 五十嵐さんちの無双姫  作者: ケシゴム
原石は光り輝く
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凶悪の華

「“な、なんだこれは!? 貴様何をした!”」


 リリアが贈ったと言う不思議な力により、突然舞子の頭に花が咲いた。それはサルデモロンにも理解出来ない力のようで、驚くような声を上げた。


“だから花ですよ。理由はどうあれ、貴方は私を怒らせました。貴方は永遠にその花を咲かせるための糧となってもらいます”

「“なんだと!”」


 俺は今まで、リリアは一生本気で怒っても誰かにぶつける事は無い寛容な人間だと思っていた。それは例え兄弟喧嘩で相手がヒーであってもだ。しかし今放たれる語調は殺意にも似た感情が込められ、相手の事など一切考慮しないものだった。

 それは俺が恐れていたヒーの無慈悲な破壊的感情よりも恐ろしく、深く暗い奈落の穴のようなものだった。


“さぁ次が咲きますよ”


 リリアの意思で咲かせているのか、そう言うと今度は舞子の左肩に白い花が咲いた。


“どうです、美しい花でしょう。しかしその花の真骨頂は、満開の花が咲き色付く時です。ですけど、その時には膨大な魔力が必要なんですよ。それこそ貴方が死の淵まで干からびるほど。でも安心して下さい。その花は咲き誇ると消費した分だけ栄養を作り出します。そして再び子孫の色鮮やかな花を咲かせます。あ、それと、その花は枯れる事はあっても朽ちる事はありませんので、管理はしなくても大丈夫ですよ”


 それは永遠にサルデモロンに憑り付き生命力を奪い続ける凶悪な花だった。悪魔にとって魔力は生命を維持する源であり、必要不可欠な力だ。つまり魔力さえあれば悪魔は半永久的に存在できる。それをこの花は自らを生き永らえさせるために媒体を殺さず、永遠に利用する。

 しかしそんな凶悪な植物など聞いたことも無かった。


“な、なぁフィリア”

“どうしましたアズガルド”

“リリアが召喚した花って一体なんて言う花なんだ?”

“あれは召喚したわけではありませんよ”

“え?”

“あれはリリア様がお造りになられた御花です。リリア様は有、つまり創造のお力をお持ちになられた神にあられます”

“えっ!?”


 さっきは何も聞くなと言っていたフィリアだったが、もう隠しても隠し切れないと思ったのか、本当の事を話し始めた。


“二人は元神です。ただ訳あって今は人として現世に居られます”


 ここに来てまさかの衝撃の事実! 確かに二人の変わりようはまるで神様のようだったが、まさか本当に神様だったとは驚きだ。しかしそれが分かるとリリアとヒーが超人的な肉体を持っていた事には納得がいった。


“しかしまだ記憶の封印は完全に解けてはいないようです。今は徐々に御記憶がお戻りつつある状態のようなので、このまま終わればまたいつもの”リリアとヒーちゃん“に戻ると思うので安心して下さい”


 フィリアはこのまま全てを話してくれるのかと思ったのだが、それ以上は教えてはくれなかった。

 それは恐らく俺がリリア達の変化に恐れを抱いてしまい、離れていくと思ったからだろう。安心しろと言ったフィリアが見せた表情に“いつまでも二人の友達でいてね”と頼むかのような優しさは、言葉にしなくとも心に響き渡った。


「あぁ。アイツらは何処まで行ってもリリアとヒーだから、大丈夫だ」


 二人が神であろうがなかろうが、二人が何が為に今戦っているのかを思うと、大きく見えたリリアとヒーの背中が、いつもの温かく小さな背中に見えた。


“さぁ、間もなく花が色付き始めます。このままでは貴方は永遠に綺麗な花を咲かせる土壌となってしまいますよ”


 フィリアと話している間も、リリアは攻撃の手を休める事無く花を咲かせ続けた。その花は舞子の体中に根を張っているのかサルデモロンは身動き一つとれないようで、まるで舞子がドレスを着たかのような姿になるほどに咲き誇っていた。


「“くそっ!”」


 この窮地にはサルデモロンも耐え兼ねたようで、遂に舞子の体を諦め黒い靄となって抜け出した。するとここでそれを見たリリアが嬉しそうな声を上げた。


“あ~あ。人の話はきちんと聞かないと駄目ですよ~。まぁ虚栄心の塊のような悪魔では言っても無駄ですけど”


 それを聞いてヒーもクスっと笑った。


“なんだと童! 貴様のような餓鬼がほざくな!”


 この挑発に、まだ体が定まらず黒い靄と化しているサルデモロンが怒る。しかしもう既に勝敗は決しているようで、サルデモロンが舞子から抜け出すと同時に花が花粉のような物を飛ばし始め、黒い靄を追う。


“言ったでしょう? その花は“貴方の”魔力を糧に成長すると”

“何!”


 確かにリリアは貴方の魔力と言った。恐らくサルデモロンは媒体としている舞子を奪い返すために体に根付き、魔力を奪う花だと思っていたようだ。

 そんなサルデモロンにヒーが言う。


“だから言ったでしょう。リリアのしつこさは並では無いと。ただ、一つだけ助かる方法はありますよ。それは私の力です。ですが、私の力は貴方が存在した事実さえ消し去る力ですから、私に救いを求めるのなら、貴方に関する全ての記憶そのものまで消えてしまいますが”


 ヒーが言っているのは無の力の事だろう。だが俺が思っていたよりも遥かに悪辣な能力に恐れを抱いた。

 ただ消し去るのではなく、それに関わった全ての事象までをも消し去る能力は、今まで幾度となく転生を繰り返し培ってきた時間や経験を全て奪う。それはつまり“初めから”存在していないという事だ。

 正に何のために存在していたのかさえの意味を奪う能力だ。


“…………”


 今のヒーの説明で全てを理解したサルデモロンも、ここでやっと自分の置かれている状況を理解したのか、声を発しなかった。


“さぁ最後の選択です。そのまま靄として寄生され宙を舞い続ける花となるのか、それとも悪魔の形をした生垣となるのか。私からの貴方に捧げる唯一の慈悲です。ただ、もう目障りなので与える時間は二秒ですが”


 首を吊って死ぬか、首を吊り上げられて死ぬか。口調は普段とは変わらないリリアだが、込められた感情は凶悪そのものだった。


“…………”

“二……一……”

“糞餓鬼め!”

“ゼロ”


 最後のサルデモロンの叫びも虚しく、リリアは躊躇いなく拳を閉じた。すると宙を舞う黒い靄のサルデモロンが一瞬にして花びらと化し、辺り一面に生花の香りを広げ舞い散った。

 白、ピンク、黄色、赤、青、紫、緑。見えるだけでも多彩な色を放つ無数の花弁が優雅に散る様は、黒いリンボの空と合わさり、残忍さと美しさに溢れていた。


 その花弁は舞い散りながらもさらに花を咲かせ、さらなる子孫を飛ばし永遠に降り注ぐ。それは夜桜の花吹雪のようで、まるで止まない雪だ。

 

 ただ、これだけの力を見せたリリアだったが、降り注ぐ花弁を見上げるリリアの後姿は、いつもの俺の知る後ろ姿だった……


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