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でびゅ~☆彡

「ウィイイイン……ウィイイイン……」


 リリア達をラフにしてから数日が経ち、日曜日を向かえていた。

 俺はリリア達と少しでも近くにいるためリーパーという彼を解放し、リリアん家のある物を器として使用していた。そのある物とは……ルンバ!


 最初に言っておくが、これは俺が自ら望んで器にしたわけではない! 俺としては最低でもぬいぐるみか人形を望んだのだが、リリアとヒーは自分の部屋にある物だとプライバシーの侵害になるだの文句を言い始めた。

 そこで「それならリビングにでもあるキーホルダーかなんかにでもする」と言うと、「そんな気持ち悪い使い魔は望んでいない!」とのたまい、「じゃあリリア達の部屋にあるぬいぐるみに入るから茶の間に置け!」と言うと、「これは私達の大切なお友達ですから駄目です!」とほざき始め、遂には「ではその譲歩として、語尾には可愛らしくぼよ~とか、ぷに~とか付けてくれるなら許可します」と寝言を言い始めた。

 これに頭に来た俺が「じゃあ勝手にすれ!」と怒鳴ると、突然リリア達はシュンとしてペットの“ルン”を指名した。俺としては動物などの生き物を器にすれば体を動かすための力の節約にもなるし、母親を欺くのも容易になる。何より折角見つけた化け物みたいな力を持つ逸材を逃さぬためにも、強い絆を築く器としては最高だった。だがまさかルンがルンバだとは思わなかった! 大体ルンバペットじゃねぇし! 天使の俺に掃除させるってどういうつもり!? 本当にアイツらは舐めプ~! 


 そんな俺は、今日も少しでも体の扱いを覚えるため朝から床を掃除中。そんな中、規則正しい生活は教育方針なのか、母親がリリア達を起こすため廊下に向かい声を上げた。


「リー! ヒー! ほらテレビ始まるよ! 早く起きてこないと体鉄になっちゃうよ!」


 時計を見ると八時二十分を回っており、母親が言うテレビとは魔法少女アニメの事だと分かった。それにしてもリリア達の重病の事を知っているはずの母親が「体が鉄になる」と言うのは冗談にしては笑えない。どうやら二人の頭がおかしい性格は母親譲りのようだ。


 リリアとヒーの父親は既に他界していない。そんな茶の間はリリア達の為にアニメに合わされたチャンネルから休日の平和な番組が流れ、朝からの陽気にはしゃぐように雀たちが歌う。母親は日曜にも関わらず朝から洗濯機を回し、家族の朝食の音を奏でる。

 娘たちは重病を抱え父親がいなくとも、そこには幸せな家庭があった。ただ二つ間違いがある! 先ず一つは、リリア達の家は築五十年は過ぎている古い木造二階建てなのに、何故ルンバを買った!


 絨毯の下は確実に畳みで、手直しもされていないから凸凹。にも拘らずルンバに掃除させている! めっちゃ動きづらいんだよ! それにこいつフローリング用じゃないの! くるくる回ってる手の箒なんてなんの役にも立ってないよ! 


 そしてもう一つの間違いは、アイツらの馬鹿力のせいで家中ボコボコじゃねぇか! まず穴開いてない壁無いよ! 何度か壁は直したみたいだけど、もう諦めてアイドルのカレンダーとかで隠しても全然間に合ってないよ! 四十八人いても足りないよ!


 どうやらWHOがひた隠しにする難病とはこういう事らしく、幸せが溢れているはずの茶の間なのに、まるでファイナルファイトのステージにでも使用されたかのような狂気の爪痕が残されていた。


 母親の声でようやく茶の間に姿を現した二人はまだ眠そうな顔をしており、二人して寝ぐせを付けたままソファーに腰を下ろした。

 その姿はどこにでもいる普通の女の子にしか見えないが、ここ数日リリア達と過ごして鋼化なんとか症とかいう病気の恐ろしさを知ってしまった俺には、今や遅しと欠伸をしながらアニメを待つ二人は、もはや重機にしか見えなかった。


 リリアとヒーが抱える病は、細胞レベルで肉体全ての構成物質が鋼のようになる病気らしいのだが、それに伴い筋力が尋常ではない程強い。その為未だにほんの少し加減を間違えるとあらゆる物を破壊してしまうらしく、日常生活に支障をきたしているらしい。

 その上リリア達でさえ、今まで怖くて全力を出した事が無いほどで、力に対して恐れすら抱いている節があった。ちなみに初めて見せたあの破壊も、半分の力も出していなかったらしい。


 そんな事情もあり、あれから毎日ラフとして訓練しているのだが、回を重ねるごとにリリア達は力を押さえるようになり、俺では全く歯が立たず練習相手にもならないため、折角持っている天属性の力の扱いも全く覚えず困っていた。


 そんな俺の気持ちなど全く察していない二人は、大好きなアニメが終わり朝食を済ますと、今日も熱心にトレーニングを望んだ。


「ではリーパー。今日も早速訓練をお願いします」


 もうこの二人はいくら俺がアズガルドだと言っても全然聞く耳を持たず、リーパーと呼び続ける。それは執念にも似た執拗さがあり、諦めざるを得なかった。


「それなんだけどさ。そろそろお前らに実践を経験させようと思うんだ」

「えっ!?」


 ここ数日の訓練での成果は、全くと言って良いほど上がっていない。このまま続けてもただ闇雲に破壊を繰り返すだけで、ある意味咎落ちした魔女より質が悪い。そこで本物の命を懸けた戦いを経験させ、実戦での成長を期待する事にした。

 この言葉に、リリア達は生まれて初めて命のやり取りを実感したのか、驚きの声を上げたと思った、のだが……


「いよいよ本番ですか! やっと私達もラフとして戦う時が来たのですか!」

「頑張りましょうリリア。この日の為に積んだ経験は、必ず形となり現れるでしょう」

「そうですねヒー! 頑張りましょう!」


 この子らには使命感の方が強いようで、まだラフになって一週間も経っていないのに何年も修行したような事を言い、怖れ一つも抱かなかった。そして、


「で、リーパー。私達のデビュー戦の相手は誰ですか?」

「何がデビュー戦だ! てめぇはグリーンボーイか!」


 目の前にニンジンをぶら下げるともう歯止めが利かなくなるリリアは、生き急ぐように話を進めたがる。


「グリーンボーイ? 何ですかそれ?」


 なんでそこには喰い付くの!? この子のこういう所が分からん!


「ボクシングの新人選手の事ですよリリア。プロボクシングにはライセンスがあり、その中でC級。つまり四ラウンドの試合を行える選手の事です。グリーンとは緑色の事ではなく、育てるという意味が……」

「あ~ごめんヒー。ボクシングの話は後でしてくれる?」

「あ、すみません……どうぞ続けて下さい」


 ヒーのこういう所も分からん! 最近確かに戦いを勉強するため色んなバトル漫画読んでるようだけど、そこまで知識いる? っていうか今その説明いる?


「じゃあ先ず、相手の説明をする」

「お願いします!」


 説明すると言うと、二人は正座して、まるで偉大な師に師事を仰ぐ弟子のように深々と頭を下げた。この二人のこの礼儀正しさも訳分からん!


「お前らが初めて戦う相手は堅牢の魔女って言って、硬い障壁で身を守って、遠くから物を飛ばして攻撃してくる相手だ」

「おぉ!」


 何がおぉ! なのかは知らないが、二人は恐れるどころか歓喜の声を零した。


「魔女としてはそんなに強くは無い相手だけど、今まで沢山のラフが挑んでも倒せなかった相手だ。だから気を抜くなよ。相手も魔女である以上お前らを殺せるだけの力は持ってると思え」

「はい!」


 魔女は強さに応じて、下位、中位、上位、最上位の四段階に区別されている。当然新人ラフの相手には下位をぶつけるのが常識だが、堅牢の魔女は中位に位置する。それでも堅牢の魔女を二人の相手に選んだのは、過去に何度か対戦した経験と、イカれた丈夫さとパワーを持つ二人なら、どうやってもやられる事は無いと判断したからだ。

 それに、堅牢の魔女は中位に指定されているが攻撃手段は物を飛ばす物理的な物ばかりで、いざとなれば俺でも二人を連れて逃げられる。何よりこの魔女を選んだ一番の理由は、ベテランラフでさえ破る事の出来ない障壁だ。

 この障壁は魔力で作られたもので、破るためにはその魔力を上回る天使力が必要になってくる。今現在力で何でも解決できると思っている力馬鹿の二人には、正に打ってつけの相手であった。


 それを知らない二人は、力強い返事をして目を輝かせる。そして、


「ではリーパー。早速行きましょう!」


 これである。


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